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ウクライナは暗号資産とSNSをどのように祖国防衛に活用しているのか?

戦争の形が大きく変わっている。テレビに出てくる悲惨な映像だけを見ると戦闘は戦車で行うものだと思いたくなる。だが今回のウクライナ侵攻を見ていると全く別の空間でも戦闘が行われている様子がわかる。それがサイバー戦である。今回はウクライナ側の視点からどのようなことが行われているのかということを見てゆきたい。ウクライナは暗号資産寄付を集め、SNSで呼びかけて敵のインフラを攻撃し、有名人に働きかけて通信インフラを提供させたりしている。

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このウクライナのサイバー戦争を率いているのはフョードル副首相とデジタル変革省のボルニャコフ副大臣だ。この二人がやっていることは実に多岐にわたる。

  • SNSを使って国際世論に情報を発信している。例えばゼレンスキー大統領は各国議会やグラミー賞の会場で演説を行っている。そればかりでなく各地の侵略状況もリアルタイムで発信される。
  • SNSを使ってイーロン・マスク氏率いるSpaceX社から通信回線を提供してもらっている。
  • 暗号資産による寄付を集めている。3月20日の時点で寄付金の総額は72億円にも昇るそうである。全てを西側からの援助に頼っているわけではないということのようだ。
  • NFT(Non Fungible Token/非代替性トークン)を使ったアート作品を売っている。アートになっているのは戦争の光景なのだそうだ。収益はデジタル変革省のウォレットに振り込まれ戦費として使われる。
  • 草の根のハッカー集団に依頼してロシアのインフラを攻撃してもらっている。
  • ウクライナ側のITリソースの防衛もやっている。

つまり、国際世論への呼びかけ、資金集め、攻撃と防御を総合的にやっている。これはおそらくはもはや第二の戦争と呼んでも良いだろう。さらに相手方への攻撃だけではなく、ファンディングからマーケティングまでを統合的に行っているという特徴もある。

ロシアの戦争と比べるとその新旧の対比ぶりがよくわかる。ロシアの戦争は人海戦術で陸軍兵士を盾にし核兵器で脅しながら高価なミサイルで相手の都市を空爆する。これは古い戦争である。この間に謀略を駆使して首都に攻め入り相手型の政治指導者を拉致して脅した上で住民投票をやらせて「民主的な選挙によってロシアの支配を受け入れた」という形を作ってみせる手法もどこか古めかしい。

たまたま優秀な副首相や副大臣がいたから新しい形の祖国防衛ができたのだろうと思ったのだがそうでもないようだ。取り組みはゼレンスキー大統領就任直後から国策として始まっている。

大きな産業がなくEUにも入れてもらえないウクライナが新しい産業として目をつけたのがデジタル戦略だった。電子政府を整備し透明性を確保した上で金融機関にはびこる汚職も払拭しようとした。ウクライナ人は官民の腐敗に慣れていたために既存の金融機関を信頼しない傾向にあったそうだ。

戦争が始まる前に暗号資産を合法化する法整備は進んでおり3月16日に大統領が署名して法律として成立した。本来なら暗号資産を扱う金融機関を監視する法律も整備する予定だったようだがこちらはまだ成立していないようだ。

すでに暗号資産取引所Kunaが作られ今回の寄付の受付先になっている。

さらに3月23日には新しい取り組みが始まった。ロシア人兵士の顔を識別してSNSで収集した顔写真と照らし合わせ家族や知人に知らせるというサービスを始まったそうだ。ロシアは死亡兵士の人数などを公開していない。死者の数が政府でなくウクライナ側からもたらされることになればおそらくプーチン大統領への風当たりはかなり強いものになるだろう。

次に期待されているのはおそらくロシアの戦争犯罪記録の保全だ。若い兵士が何もわからないまま戦場に送られているのとは対照的に敵地侵略と蹂躙になれた兵士もいる。彼らは「戦地という混乱状況では何をしてもお咎めなし」だと考えているのだろうが今回の人権犯罪・戦争犯罪はそうはいかないだろう。このことからもシリアやジョージアとウクライナは全く異なっている。

我々は今「テレビで見ることができる戦闘行為」という初めての体験をしている。これはウクライナがヨーロッパにあったからたまたまこうなったと思い込んでいたのだがどうやら違っていたようだ。皮肉なことだが起死回生のために始めた産業振興政策が戦時転用されたことによって世界にその威力が宣伝されたのだ。今後、おそらく核兵器や軍需産業以上の「産業」になるものと思われる。ウクライナの祖国防衛は初めての本格的かつ統合的なサイバー戦闘事例になりつつある。

参考資料

テッククランチ

IT Media

Newsweek

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