ウクライナの祖国防衛を支えるミハイロ・フョードロフというのはどのような人なのか?

ウクライナは祖国防衛のためにSNSがどのように活用できるのかということを考える上で大きな知見を与えてくれる。この取り組みを支えているキーマンの一人がミハイロ・フョードロフ副首相兼デジタル変革担当大臣である。Wikipediaによると1991年1月21日生まれの31才である。生まれはウクライナのザポリージャ州だ。現在、クリミアとドンバスを結ぶ回廊として激戦地になっている地域である。






フョードロフ氏はソーシャルメディア・マーケティング企業の創業者兼社長としてウクライナのデジタル変革を支えるために副首相に起用された。ゼレンスキー政権がデジタル変革を国家戦略の柱にしようとしていたことがわかる。当初の目的はもちろん防衛ではなくウクライナをエストニアのような電子政府国家にすることと暗号通貨の産業化だった。フョードロフ副首相はデジタル変革省を立ち上げてエンジニアたちを起用した。

元々の狙いの一つはウクライナの行政機関を電子化して汚職を撲滅することだったそうだ。汚職がなくなりビジネスが透明化されることで外国からの投資をやりやすくしようということである。こうして近代化ができればウクライナが悲願としてきたEUへの加盟も促進されるだろうという狙いがあったそうだ。根深い汚職の問題を旧態依然とした事務処理の問題と捉えることで具体的な改善の取り組みを始めたということになる。

だが、この取り組みが始まった当初はフョードル氏に関する記事はあまり多くなかった。ウクライナという国に馴染みがなかったのみならずフョードル氏らが掲げる「デジタル国家構想」がイロモノ扱いされてきたからだ。主な理由は暗号通貨への傾倒である。

ウクライナは新しい産業を立ち上げるためにザポリージャの原子力発電所の豊富な電力を使って半官半民の仮想通貨のマイニング施設を作ろうとしていた。主力産業は農業と鉄鋼業くらいで他にめぼしい投資先もないことから「暗号通貨に賭けた」のだが、やはり先進国にはまともに取り合ってもらえない。例えば同じような取り組みを行っている地域にエルサルバドルがある。ビットコインを法定通貨にしたがやはりイロモノ扱いされることが多くIMFも否定的である。豊富な地熱発電を使ったマイニングを計画しているそうだが具体的な計画にはなっていない。日経新聞は2022年に入っても否定的な記事を書いている。

デジタル転換省の主な業務は電子政府の立ち上げと暗号資産企業を呼び込むための法整備だった。まともな産業のある国ではこれほどのスピードで受け入れ態勢を整えることはできなかっただろうが不透明なビジネス環境があり金融機関も機能不全を起こしていたため暗号資産に関する拒絶反応は少なかったそうである。

こうした新しい国家像を実現すべくウクライナは法的な環境整備も進めてきた。フョードル副首相はその牽引者である。官民の腐敗が激しいウクライナでは銀行も信頼されておらずむしろ暗号資産を安心だとみなす傾向があるだけでなく公務員の間でも幅広く使われている。暗号資産の受け入れに最も積極的な国であるという調査もあるそうだ。


フョードロフ氏を支えるのは彼が起用した副大臣のアレクス・ボルニャコフ氏である。のちにこの二人が祖国防衛によって注目されることになろうとは誰も思っていなかったはずだ。フョードル副首相はデジタル・マーケティングの専門家なのでSNSで世界の起業家に寄付の呼びかけを行っている。イーロンマスク氏に掛け合って衛星回線を提供してもらったというエピソードは今や有名になった。ボルニャコフ副大臣はもっと実務的なところを担っているようである。

フョードル氏にせよボルニャコフ氏にせよもし平時であれば「デジタル通貨の推進者」としてたんにイロモノ扱いされていた可能性がある。エルサルバドルのブケレ大統領のような存在だ。

さらに二人とも世界中からレジスタンス活動の寄付を集めたり草の根のデジタル活動家(要するにハッカーである)と協力している。平時であれば犯罪行為とみなされてもおかしくない行為だがロシアが軍事力で攻めてきているのだからウクライナにとっては有効な対抗手段であると言えるだろう。

草の根活動家の規模はアメリカ、中国。ロシアの三つの国しか持っていないIT集団に匹敵するそうだ。IT軍団というのはもはやサイバー軍のようなものなのでインタビューの中で詳しい話は避けられている。つまり彼ら二人はウクライナにとっては兵器を持たない軍人のようなものなのである。


フョードル氏もボルニャコフ氏もゼレンスキー大統領が就任した2019年から着々と準備をしてきた。つまり攻められてから電子化を進めたというわけでもないのだ。当初は意外な善戦と見なされてきたのだが実は背後にはこうした蓄積があったのだ。

実際に寄付が集まり、SNSを通じてロシア軍の戦争犯罪が世界に知らされることになったのだからその実力は本物だと証明されたことになる。

そもそもゼレンスキー大統領がフョードロフ氏を起用したきっかけはウクライナの腐敗した政治風土と機能不全を起こしている金融機関をなんとかするためだった。この腐敗がなければおそらく暗号資産の準備などということはやらなかっただろう。さらに環境ができたとしても失敗していた可能性もある。ところが祖国防衛という緊急事態が起きたことでフョードル副首相もボルニャコフ副大臣も一躍国際的に注目されることになった。

一方日本のIT化は進んでいない。既存の仕組みがそこそこ信頼されており1991年生まれの若い政治家が活躍できるチャンスもありそうにない。日本はロシアがウクライナを一方的に攻めてくるのをみて不安を募らせている。非核三原則を捨てるべきだという議論や防衛費を劇的に増やすべきだという議論はその不安の表れだろう。ウクライナのようになったら日本は太刀打ちできないのではないかという不安である。

災害時にTwitterが大いに活用された事例もあり実はITツールの活用には様々なポテンシャルがあることはわかっている。ウクライナの現実は決して幸運なものではないのだが我が国もこうしたウクライナの取り組みから学ぶべきなのかもしれないと思う。

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