スリランカで挙国一致内閣が作られたというニュースが入ってきた。このところ経済的な混乱が続いており緊急事態宣言も出されているので責任を内閣が総辞職したのだろうと思ったのだが「閣僚の辞任が相次いだ」のだそうだ。中央銀行の総裁も辞任し大統領と首相だけが残るという事態になった。挙国一致内閣が組閣され事態の収拾にあたっている。
きっかけになったのは新型コロナパンデミックからの回復過程のインフレにウクライナ紛争が重なったことである。特に燃料費の高騰が続き計画停電が実施されていた。これに加えて長い間の政権に対する不満が高まり暴動に発展したようだ。政府はSNSの制限や外出禁止令などで対応している。治安がかなり混乱していることがわかる。
「挙国一致内閣が作られた」というので責任を取って内閣が総辞職したのだろうと思ったのだがニュースを読むと「閣僚が相次いで辞任して誰もいなくなった」と書かれていた。中央銀行の総裁も辞めてしまい大統領を支えるスタッフが全員いなくなってしまったことになる。つまり基本的には「大統領の失敗」とみなされている。当然国民の不満の矛先も大統領に向かうことになる。住民は外出禁止令を無視して抗議運動を続けているようである。
直接の原因は疫病や戦争による物価高なのだが根本の原因は別のところにある。それは外貨の不足である。ヒンドゥ系と仏教系の民族が暮らす多民族国家であるスリランカは長い内戦を経験したあとで脱農業国を目指した。こうした国が陥る典型亭な問題が資本不足だ。ここで安易に外国に頼ってしまうと借金で首が回らなくなってしまう。
固定相場制を取るスリランカはIMFから通貨の切り下げを求められてきたがこれを受け入れてこなかった。中国の投資に頼ったが返済が滞ったため南部のハンバントタ港の運営権を99年間中国に渡すというようなことも行われている。典型的な「債務の罠」にはまってしまったのである。
ラジャパクサ大統領はさらなる外貨の流出を防ぐために自動車の輸入を禁止したりイランに対する原油代金を紅茶で支払う提案をしたりしてきた。
中でも涙ぐましいのは化成肥料の禁止である。セイロン紅茶で有名なスリランカにとって「虎の子」の産業だ。当然国内の紅茶農家からは盛んに反発された。混乱はおさまらずすぐに撤回を余儀なくされることになった。
中国も債務の返済期限を有用するなどの措置を講じていたようだが国内経済の救済まではやってくれない。結局のところIMFに救済を求めたと見られている。IMFは通貨の切り下げを要求してきたのだがこれにも応じたようで3月8日に通貨の15%切り下げが行われた。
こうして事態収拾を図るスリランカだが金融政策の要とも言える中央銀行の総裁が辞任したというところからその前途はいまだ多難なようだ。ブルームバーグによるとIMFが入り債務編成作業を始めるという。つまり重くのしかかる借金やインフラ投資計画などを見直そうとしているのである。長らくIMFの関与に反対してきた中央銀行総裁はIMFの介入を受けて辞任したものと見られているそうだ・
日本にとってはあまり影響がなさそうなスリランカだがシーレーンの途上にあることから安全保障上の影響は皆無ではない。もともと日本やインドと緊密な関係性を維持してきた国だが中国の勢力圏に入ってしまうのではないかという懸念があった。
ウクライナの紛争が直接国際情勢の悪化につながるとはもちろん言えないのだが、長年不安定さを抱える国にとっては「最後の一押し」になってしまう可能性がある。スリランカはその一れだと言えるのだが、おそらくこうした国はこれからもいくつか出てくるのではないかと思う。
ただしIMFが入ったことで中国との間で進行中だったコロンボ港東コンテナターミナル開発計画などにも見直しが入るものと思われる。