政府の小麦売り渡し価格が4月から17.3%(各銘柄平均)値上がりした。このニュースを読んで「ああ大変だ小麦粉を買いだめしなければ」と思った。だが、落ち着いて記事を当たるとそういうわけでもないようだ。例えば農水省の試算によるとパンの価格の値上げは1.5%程度にとどまるのだという。ただし不安材料もある。また秋には値上げがあるかもしれない。
この辺りの仕組みは単純なようで意外と複雑である。
日清製粉のウェブサイトには「2022年4月に17.3%値上がりしたと書かれている。ちょうどウクライナ危機直後だったために「ウクライナ・ロシア情勢のために値段が上がった」と思いがちである。だが現在の小麦価格の上昇は新型コロナパンデミックからの回復のよる価格上昇であり直接ウクライナの事情を強く受けたわけではない。
日清製粉は小麦粉の値段が上がった理由を次の三つに分解して説明している。
- 小麦の価格が世界的に上がっている。主な理由はアメリカ・カナダの高温・乾燥だ。品質が低下し上質な小麦が調達できなくなっている。日清製粉はウクライナ情勢も挙げてはいるが「供給懸念」の扱いだ。
- 海上輸送費用も上がっている。これは新型コロナパンデミックから回復した影響だ。
- 為替が円安で推移している。これはアベノミクスの結果であり今後金利が乖離すればますます円安傾向に拍車がかかる可能性もある。ただし世界経済が混乱すれば安定通貨の円が買われる可能性もあり先行きはよくわからない。
もちろん、ウクライナの小麦価格の引き上げが日本に影響を与えないという意味ではない。ウクライナは戦争の影響で今年は小麦の種まきができそうにない。さらにチェルノーゼムという豊かな土壌も近年劣化しており土壌改良の取り組みがなされていた。戦争によって土壌改良の取り組みが破壊されれば後々少なくない影響が出るだろう。朝日新聞の記事はハルキウ(ハリコフ)の国立科学センター土壌科学・農芸化学研究所の取り組みを2019年に取材している。
シカゴ相場を見ると3月に「爆上がり」していることがわかる。こちらはウクライナ情勢の影響なのだろうが余剰資金が流入している可能性もある。
このように不安定要素が多く先行きが見通せない状況は依然続きそうだ。次の改定は半年後の秋である。参議院議員選挙は現在日程を調整中だそうだが公示は6月22日ごろになりそうだ。つまり、ウクライナ情勢などを織り込んだ二段階目の値上げが参議院選挙後にやってくるかもしれないということになる。
小麦価格が17.3%も値上がりしたのだからパンやパスタも17.3%値上がりしそうに思うのだが時事通信によると小麦粉で4.4%、食パンだと1.5%程度の値上げに収まるのだという。総務省の資料を元に農水省が試算した資料が根拠になっている。
なぜこのようなことになるのか?と思ったのだが、時事通信は細かなメカニズムについては書いていない。ヒントはおそらく外食のうどんや中華そば(ラーメン)の値段の上昇率にあるのだろう。
外食産業にはサービスや加工といった価格が乗っているため必ずしも原材料費用の値上げ率がそのまま最終製品の値上げ率になるわけではない。つまり外食で我々が食べているのは厳密に言えば小麦ではなく「サービス」なのだろうということがわかる。
世界的にはウクライナの小麦価格の上昇が直接正常不安につながっている国もあるがサービス産業が発達したわが国においては小麦の価格が17.3%値上がりしたからといって我々の生活が直ちに困窮するということにはならない。
ただし値下げ要因も見当たらない上に不確実性が極めて高いことも確かだ。秋の改定の時にはまた一段の値上がりを経験することになるのかもしれない。特に日本が依存しているカナダやアメリカの気候変動の影響がどのように小麦収量や品質に影響を与えるのかを注意深く見守る必要がありそうだ。