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今、アメリカの労働市場は過熱している……日本はどうか?

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CNNがAmerica’s job market is on fire. Here’s why it doesn’t feel like itという記事を出している。On Fireは過熱している・熱狂しているという意味だ。ヘッドラインの意味は労働市場は好調だがそれを感じるのは難しいという意味合いになる。アメリカの労働市場は好調だがなかなかその恩恵を感じるのは難しいという意味になるだろう。火がつくほどホットだと好意的にと捉えることもできるが副作用もある。それが物価上昇である。

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まず記事の内容を要約してみよう。

アメリカの経済は新型コロナウィルスのパンデミックからの回復過程にある。労働市場の流動性が高いため景気が悪くなると仕事がなくなり回復すると仕事が戻る傾向がある。すでにパンデミックで失われた労働のほとんどが回復しているそうだ。

1月から3月の間に170万人も雇用が増えたことからイエレン財務長官はバイデン大統領の成果を強調している。もちろん賃金も好調に上昇している。労働者の売り手市場になっているので高い賃金を支払わなければならないからである。

このような売り手市場ではアメリカの労働者がより良い環境を求めて仕事を移る傾向もある。新型コロナで世の中が混乱したのをきっかけに生き方について再考した人も多い。このような状態では賃金上昇が物価に組み込まれて物価高が促進されることになる。つまり「労働市場の過熱」には悪い側面もある。

良い仕事が得られれば人々は喜ぶはずなのだがそうはなっていない。

感染性の高いオミクロン株の亜種はまだ存在する。パンデミックの回復過程で人件費が上昇すると物価上昇に拍車がかかる。これに加えてロシアがウクライナに侵攻した結果、燃料・食料価格などさらに上昇しそうだ。CNNによるとインフレ率は過去40年で最高水準にあるそうだ。これが賃金の上昇を上回るために人々の暮らしは苦しいままなのだ。

物価高の痛みが平等に人々に分配されるわけでもない。

低賃金労働者はリモートワークができない。このため自分で運転して職場に行かなければならない。ハイテク企業に勤めている人はリモートワークを増やして勤務環境を改善することができるが低所得者はそうではない。むしろ通勤にかかるガソリン価格の上昇が重くのしかかり格差がますます拡大する。日本とは全く状況が違っている。

消費者心理は2022年3月に「2011年8月以来最低の水準」に落ち込んだそうだ。

当然これはアメリカの政治に大きな影響を与える。アメリカ人の心配事の第一位はウクライナ情勢ではない。30%がインフレを現在最大の懸念だと考えているという。そしてアメリカ人の1/3しかバイデン政権の経済政策を信任していない。

連邦準備制度理事会は2018年以来初めて金利を引き上げ景気を抑制しようとした。だが金融政策には即効性がない。住宅ローン返済の金利はすぐに反応するのだがインフレの抑制に対して作用するのはしばらく先のことになるのだという。このためアメリカ人が消費者心理が回復するのはかなり先になりそうだ。

アメリカで中間選挙が行われるのは11月8日だそうだ。この間にアメリカ人が景気の回復を実感できなければバイデン大統領はおそらく中間選挙で負けることになる。当然ねじれ議会の元でアメリカ政治の運営は難しくなるだろう。バイデン大統領はウクライナ情勢でロシアという敵を作り「専制主義対民主主義」という対立構造を作ろうしていたわけだが、これはあまり効果をあげなかった。

民主党は「トランプ時代の混乱を忘れるな」とばかりに「1月6日議会襲撃調査委員会」というものをやっている。NHKが伝えるところによるとあまりめぼしい成果は出ていないようだ。すでに支持してくれている民主党支持者には響いても共和党支持者には響いていない。NHKは分断と書いている。

日本はアメリカと比べ賃金上昇がそれほど顕著ではない。給料が上がらず暮らしが良くならないという悪い側面と物価上昇が抑えられるという比較的良い側面がある。アメリカの物価上昇が顕著になってくると「比較的安定しているという意味ではむしろいいことなのかな」とすら思える。

だが、やはり物価高の波は二回に分けてやってきそうだ。現在の物価高には「新型コロナからの回復」と「ウクライナ情勢」の二つの要素がある。労働市場の影響はあまり受けないだろうが、輸送と原料の調達は影響を受ける。輸入燃料と輸入食料・穀物の影響はおそらく無視できないだろう。

日本では参議院選挙が公示されるのが6月22日になりそうである。今経験している最初の物価高の波に対応する選挙対策としての緊急支援は実施されるだろう。だが、秋以降の物価上昇に対してどのような対策が取られるのかというのは今の時点では未知数だといえる。

日米両国ともに物価上昇の影響が政治の安定性を大きく左右するという状態になっており引き続き注目する必要がある。

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