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中国の借金漬け外交とスリランカの暴動

スリランカの燃料不足が暴動に発展した。ウクライナ問題が浮上してから1ヶ月強でついに問題が他国に波及したことになる。スリランカは近年「借金漬け外交」により中国への依存を強めていた。シーレーンに依存する日本としてもスリランカの情勢は決して他人事ではない。

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スリランカは人口2,000万人程度の島国である。日本では旧名のセイロンとしても知られる。セイロン紅茶には高級品のイメージがある。外交的にはインドとの関係が良好だが、近年では中国にも接近している。

第二次世界大戦直後にイギリスから独立したがタミル人(ヒンドゥ)とシンハラ人(仏教)の民族対立を抱える。ただ数字としては仏教徒が70%と多数派である。内戦は1983年に始まり2009年に終結した。国内には10%弱のイスラム教徒(ムーア人)もいる。2019年にはイスラム教過激派によるテロも起きている。

主な産業は観光業と農業だが製品を加工して売るため域内では豊かな部類に入るという。米の自給率は高く余剰米を外国に売る余裕もあるそうだ。セイロン紅茶として知られる紅茶も特産である。

新型コロナウイルスの影響で海外渡航制限がありスリランカの観光業は大きな打撃を受けていた。だが、今回の暴動の原因はそれだけではない。現大統領の経済政策の失敗も原因の一つのようだ。

現在の大統領はゴータバヤ・ラージャパクサという。もともとは軍人だったが早期退役しアメリカに移住した。兄の大統領選挙を手伝うために帰国したが2019年に多数派シンハラ人(仏教徒)の支持を集めて大統領に就任した。

スリランカは近年中国経済に依存するようになっていた。その依存具合がよくわかるのがコロンボ港プロジェクトである。2021年に11月にはコロンボ港の開発が中国に発注された。もともと日本とインドのプロジェクトだったのだが一旦スリランカが独自開発をするという理由で引き上げたのち中国に発注したという経緯がある。

朝日新聞の記事を読むともともと前職のシリセナ大統領がインドと日本との間で開発計画を取り結んでいたと書かれている。ではなぜシリセナ大統領は中国を警戒しインドと日本に頼ったのか。

原因はハンバントタ港の開発計画の行き詰まりだ。中国から巨大融資を受けたものの国の借金で首が回らなくなり運営権を中国に渡した経緯がある。もともとスリランカ人の仕事を作るために開発したはずなのに借金のカタに港を奪われてしまえばスリランカ人の仕事にはつながらない。またあてにしていた貿易拠点としての収入も入ってこなくなるかもしれない。脱農業化を推進するスリランカにとっては痛い損失だ。

インドは中国との間に領土問題を抱えており南側に中国の軍事拠点ができかねないことを警戒している。シーレーンに依存する日本にとってもあまり好ましい状況とは言えない。このためハンバントタ港が中国に「差し押さえられた」時に日本のメディアは「債務の罠」としてこの計画を批判していた。時事通信は「一帯一路で中国の債務のわなにはまった」と強い書き方で表現する。

朝日新聞の記事には「イランの原油を紅茶で支払う約束をした」とも書かれている。外貨不足に悩み返済に窮している様子がわかる。農業国から貿易と工業に依存する発展途上国にある段階の国では開発資本不足は深刻な問題になる。西側も以前ほど援助には積極的ではない。中国はこうした困窮国に近づき影響力を拡大してゆく。結果として広いインド太平洋地域に「穴が開く」わけだ。

ハンバントタ港が租借されたのは2017年のシリセナ政権時代である。シリセナ政権はおそらくこのプロジェクトの行き詰まりによって「中国は危険」と考えたのだろう。

だが借金がなくなったわけではないわけではない。シリセナ政権を継承したラージャパクサ大統領はなんとかして中国の機嫌を損ねないようにしなければならない。実際にコロンボ港開発計画で何が意図されたのかはわからないのだがラージャパクサ大統領はインドと日本を切り中国に乗り換えた。

このように中国は軍隊ではなく借金を使って政権をコントロールすることがある。これを借金漬け外交(Debt-trap_diplomacy・借金のわな外交)という人がいるそうだ。インドの地政学者ブラフマ・チェラニー氏の造語だという。

残念なことに中国は借金の返済の猶予はしてくれるが国内の経済対策までやってくれるわけではない。IMFに支援を要請したとみられ2022年3月には要請に従って通貨の切り下げなどをやっている。

スリランカ経済は困窮していた。2022年3月31日のAFPの記事では計画停電を1日13時間に延長すると発表していた。電気を作る燃料が買えないためだ。また渇水によりダムによる水力発電も行き詰っていたという。

こうした困窮国の状況は中国の進出を容易にし対ロシア経済制裁網の抜け穴にもなる。なんとかして燃料を求めていたスリランカは石炭を格安でロシアから仕入れることにしたとロイター通信が書いている。シンガポール経由だそうである。スリランカはこうした事情がありロシアのウクライナ侵攻の決議には参加していない。制裁の抜け穴になっているのは確かなのだが、さすがに困窮するスリランカを責めることはできない。

BBCの英語版は暴動についてさらに詳しく書いている。平和裡に始まったデモだったが次第に暴徒化したそうである。大統領と大臣たちは停電から免除されており、それも暴徒たちの怒りの原因になっている。

BBCは暴動の原因をさらに詳しく分析している。もともとグローバル経済と連携して高い経済成長率を達成していたが当局がスリランカ経済をグローバル経済から切り離したのだそうだ。

JETROによると自動車の輸入も制限しているという。自動車の購入代金の外貨が流出するのを恐れているのだろう。

外貨不足を恐れて買わなくなったものには肥料もある。ラジャパクサ大統領は化学肥料の購入が外貨流出につながることも恐れ2021年5月に国内農業は全て有機肥料で賄うと宣言して農業に打撃を与えていた。稼ぎ頭の一つである紅茶栽培に混乱が広がったため10月には「一時中断する」として化学肥料の輸入を再開したそうだ。

このようにラージャパクサ大統領の経済政策はうまく行っていない。結局IMFに支援を求め国内では暴動が起きた。各社が暴動の内容を詳しく書いているが例に漏れず「逮捕状なしで拘束して裁判なしで長期間拘束する」ことが可能になるという。国民の人権状況に構っていられるような状態ではなくなっているのだろう。

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