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天然ガスの「プーチンスキーム」が明らかになる

先日、プーチン大統領がヨーロッパの首脳に新しい天然ガスの支払いスキームについて説明したという話を書いた。BBCによると全容がわかってきたようだ。おそらく狙いは天然ガスの売り上げ代金のユーロ・米ドルを自分の配下のガスプロムバンクに集めてくることなのだろうと思う。

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Quoraではこのようにまとめた。

いつもお世話になっております。平素弊社のガスをご利用いただきありがとうございます。この度お支払先をご変更いただきたくご連絡を差し上げました。

ガスプロム銀行にルーブル建て口座をご開設いただきユーロか米ドルでのお振込をお願いいたします。支払いにつきましては4月1日分の輸入分から適用させていていただきます。お客様のお支払いはこれまで通り5月中旬からということになります。

お客様が米ドルかユーロでお支払いいただくという点に関してはこれまでと変わりはございませんが、期日までの所定のお手続きをいただけませんとガスの停止などお客様に不都合なことが起こる場合がございます。是非お早めの口座開設をよろしくお願いいたします。

Quoraでも書いた通り、ドイツとオーストリアはガスがいつ止まってもいいように国民に節約を呼びかけて監視もするそうである。緊急事態が最終段階になるとガスが配給制になるそうだ。ブルガリアは備蓄を増やすといっている。買えるうちにためておこうということなのだろう。

ルーブル建て口座を開く顧客側のメリットはわからない。これまでと同様に米ドルとユーロで支払うからである。ただし、プーチン大統領側のメリットはわかる。米ドルとユーロを確実にルーブルに替えることができるからだ。さらに支払先を一つにまとめることで利益を独り占めすることもできるようになるだろう。

この記事を読んで、これまで支払いはどのようなやり方で行われていたのだろうかと思った。仮に別の銀行が管理していたとしてその銀行はきちんと米ドルとユーロをルーブルに替えていたのだろうかという疑問だ。それともなんらかの手段で隠匿しルーブルを介さずに運用していたのだろうか。

新しいやり方を使えば(客がロシアの天然ガスを使う限りは)確実にルーブルの需要が見込める上にやる気になれば利益を独り占めできる。口座が一本化されているからだ。だがわざわざウクライナ侵攻をしなくてもそういう変更はできたはずである。つまりこの新スキームはウクライナ侵攻とは関係がないということになる。

プーチン大統領が「自分が監視できないものは全く信頼しない」人であることはわかる。また、顧客に全く関係ないことについていきなり「説明」を始めたり、軍事行動を起こして軋轢が高まっている最中にビジネススキーム変更の提案をしたりしている。自分の中にはある思考と計画があるのだろうがそれを関係者に押し付け、うまくいかないと恫喝するという思考の持ち主のようだ。ビジネスマンに向いているとは言えない。

いずれにせよロシアは今ルーブルの需要を必死で増やそうとしている。ドル建て国債のうち72.4%を買い取ってルーブルで代金を支払っているそうだ。国内の投資家がこれに応じているようだという報道がある。国内投資家にしてみれば良い迷惑だが他に選択肢はなかったのだろう。

日本にどういう内容の連絡が来ているのかは不明だが岸田総理はルーブル払いには応じないといっている。G7でそのような取り決めになっているからである。だがこれも「ロシアに対して日本がルーブルで支払うことはない」といっているだけであって「ロシア国内で両替されるならそれは自分たちのあずかり知らぬことである」というだけの意味なのかもしれない。

ロシアには天然ガスの売り上げが引き続きユーロや米ドルという形で流れ込むことになるのだが、ドイツやオーストリアの例でわかるように各国はそれに変わる選択肢を探し始めている。

一方で先日書いたように格安のロシア製エネルギーになびく国も出てくるかもしれない。ラブロフ外相はインドを訪問し「エネルギー関連で引き続き協力する」ことを確認したそうである。インドとしてもディスカウント価格でエネルギーが調達できるおいしい取引だが、これに追随する困窮国が出てこないという保証はない。

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