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ロシアの盗みの手口 – 南オセチアのロシア編入問題

南オセチアである住民投票が提案されている。ロシアへの編入について国民投票をするというのだ。グルジア(ジョージア)から見るとロシアが領土を盗もうとしているということになる。AFPロイターが伝えている。ロシアの「盗み」の手口とウクライナでこれが通用しなかった限界がわかる。

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ロシアの手口とは問題のある地域に近づき少数者を応援するというものだ。次第に依存度を増やして行き頃合いを見計らって住民投票を実施させて自国領に取り込む。いわば保護国を「帝国」内の保護地域にしてしまうのである。

ウクライナ問題と絡めて言えば、ロシアから見ると「ウクライナがアメリカの保護下に入ればやがて領土のように扱われるのではないか」ということになる。極めて帝国主義的な見方ではあるのだが世界観が全く違っている。アメリカやヨーロッパがプーチン大統領の恐れと怒りを理解できなかったのは西側は主権国家の共同体だと考えているNATOやEUがロシアに「帝国の拡大」と見られているということが理解できなかったからだろう。

ではなぜこのような手法が有効なのだろうか。

中東・中央アジア地域にはイラン系、モンゴル系、トルコ系の民族が混在している。今回問題になっている南オセチアに住んでいる「オセット人」はそのうちのイラン系民族だ。山岳に住んでいるという意味ではタジク人に似ているのだが人口はもっと少ない60万人である。

元々は草原地帯に住んでいたようだがモンゴルに圧迫され山岳に逃れた歴史があるのだそうだ。複雑な事情からロシア配下の北オセチア共和国とグルジア(ジョージア)管内の南オセチアに分かれている。

古くから分離独立運動があったためグルジア(ジョージア)の内部では自治は認められておらず特定の自治地域も与えられていない。グルジア人か自称をカルトベリというこの地域では最も古くから住んでいる民族である。ソ連が崩壊した時に独立を目指してグルジア(ジョージア)と衝突したことを警戒されて自治権が与えられていないのだそうだ。一旦はロシア・グルジア(ジョージア)・南北オセチアで停戦協定が結ばれたのだが混乱は収まらなかった。

ここで重要なのはロシアは第三者として仲介する立場だったという点である。ロシアはこのような平和維持軍をナゴルノ=カラバフ紛争を抱えるアルメニアにも展開している。ロシアはこの地域では盟主として振舞っており自尊心が高い。ウクライナについても同じように思っているはずだ。だから盟主を裏切って西側に接近するウクライナが許せないのだ。

緊張が高まったのは2008年だった。グルジア(ジョージア)が南オセチアに侵攻し平和維持軍として駐留していたロシア軍を攻撃した。最終的にロシア側が押し返しグルジア(ジョージア)にとっては苦い敗戦となった。2008年8月のことだった。EUの議長国だったフランスのサルコジ大統領が仲介したがロシア軍は撤退しなかった。

これだけをみるとグルジア(ジョージア)の方が圧政側ということになる。基本的にグルジア(ジョージア)問題はソ連崩壊後に民族主義を深めるグルジア(ジョージア)人とその周辺地域に混住している民族の争いだ。

ロシアの「手口」とはその民族紛争を利用し「保護」を名目に軍隊を送り込み支配を既成事実化するというものだ。オセット人は少数民族であるため単独ではグルジア(ジョージア)人とは対抗できない。そこで援助という名目で入り込み頃合いを見計らって住民投票を行い支配事実を広げてゆくという算段になっている。

グルジア(ジョージア)はソ連に半ば無理やり編入されたという経緯がある。元々は諸民族がロシア皇帝に対して立ち向かうという名目で民族主義が展開された。だがスターリンの時代になると一転して各民族は弾圧されることになる。

さらに現在のロシアにも民族差別が存在する。最近ウクライナ情勢で活躍している廣瀬陽子さんが2010年にカフカス民族差別と白人至上主義(ネオナチ)運動について書いている。ロシアのカフカス系の各民族は差別の対象であり自国内では逆に少数民族を差別するという構造になっている。つまりオセチア人がロシアに組み込まれても「差別される側」という構造はおそらくは変わらないだろう。

ウクライナ問題とグルジア問題の一番の違いは、ウクライナの民族紛争がロシア人とウクライナ人という同じ東スラブ系の民族だという点だろう。婚姻関係で結ばれている人たちもいる。また人口も4400万人と多いため一つの国家を形成できるだけの存在になれる。このため、オセチアで作れた「第三者保護」という名目が作りにくく抵抗も大きかった。

これまでのロシアの手口がウクライナで通用しなかったのはおそらくこのためと思われる。

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