CNNが面白い記事を書いている。2021年にアメリカ合衆国の住宅価格がバブルの兆候を見せているというのである。2007年の住宅バブルの崩壊とそれによって引き起こされたリーマンショックの苦い思い出が蘇る。
アメリカ人が住宅を購入するとその住宅は資産とみなされる。だが住宅価格が上昇すると見込まれると資産を背景にして借金ができるようになる。住宅価格がある程度上昇するとさらに上昇を見込んで住宅を買おうとする人が現れる。さらに投資家が惹きつけられてますます住宅価格が上がる。こうなると住宅価格はファンダメンタルズから乖離した値上がりを始める。これが住宅バブルである。
現在のアメリカでは金融緩和によるインフレが起きているため住宅価格の値上がりがバブルを意味するというわけではない。だがそれが明らかに他の物価よりも上昇を始めているとなると話は別だ。値上がりを期待した人たちが我先にと住宅に投資を始めているということを意味するからである。今買っておかないともう住宅が手に入らなくなるという焦りも住宅購入を急ぐ理由になる。さらに投資家がゲームに参加すると「住宅価格の加熱」が起こるだろう。
住宅バブルの状態では人々は自分たちの収入以上の家を持つことができるようになる。購入した住宅が株式のように値上がりするからだ。だが住宅価格が下がると含み損を抱えるようになりたちまち返済に行き詰まる。
前回2007年に住宅バブルが崩壊した後の経緯は次のとおりである。アメリカには住宅の安定供給を目指す「連邦住宅抵当公庫(ファニーメイ)」と呼ばれる団体がある。主な業務は住宅ローンの債権の保証業務だった。だが連邦住宅抵当公庫はデリバティブの不正操作をしていたことが露見しサブプライム・ローン問題に発展した。サブプライムとは優良以下顧客という意味である。
信用力がない顧客にも貸し出しを行いそのリスクを証券という形で分散して売っていた。住宅価格が値上がりしていた時には問題にならなかったのだが、住宅価格が下がりだすと支払いに困窮する顧客が急増する。サブプライムローンを組み込んでいた金融商品までもが信頼を失い最終的にリーマンショックという最悪の事態が引き起こされることとなった。
住宅価格そのものの問題というよりは金融エンジニアリングの問題で金融界が大混乱したのである。
今回の住宅バブルの原因は明らかになっていないものの記録的な金利の低さや政府援助が住宅市場に流れ込んでいると指摘する研究者は多いそうだ。つまり住宅価格を引き上げているのは投資家だ。FRBは金融引き締めに転換していることからこの流れが今後も継続するとは思えない。おそらく住宅価格にはなんらかの影響が出る。すると住宅を持っているアメリカ人の資産価値が減じることになる。
もちろん、今回の記事の内容はあまり悲観的な結びにはなっていない。アメリカの政府も金融当局もすでに全開の失敗から学んでいる上に住宅所有者の資産状況はそれほど悪くないと書いている。前回は経済的にあまり信用力がない人たちにもお金を貸したことが問題なのであって住宅価格そのものの問題ではないというわけである。
さらにこの住宅価格上昇の問題はすでに半年前には話題になっていたようだ。
Courrierは2021年6月に「第二のサブプライム危機の予兆?」という記事を出しているのだが読んでみると「以前のように低所得者に貸し出しているわけではないのだから心配はいらない」という内容になっている。NRIも「コロナ禍が生んだ住宅バブルの崩壊を世界は回避できるか」という記事を出しているのだがこちらもなんとなく心配だというような程度の話になっている。前回のトラウマがあるため、コロナ、ウクライナと来て金融不安まで起きてはたまらないと心配しているということだけは確かなようだ。