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ラマダンを前に右翼首相が率いるイスラエルで緊張が高まる

長期政権だったネタニヤフ首相が組閣を断念し野党勢力が政権を取ったのが2021年6月だった。新しい政権は中道と右翼の連合政権で輪番で首相を出すことになっている。これでイスラエル情勢も安定するのかと思われたのだがかえって混乱するのではないかという兆しも見えてきた。ラマダンを前に銃撃事件が増えているのだ。

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今回はベネット首相を右翼と書くのだが、これはレッテル貼りではない。ユダヤ人民族主義を掲げる政党出身の首相であり自分たちで右翼を自称している。ユダヤ人民族主義なのでアラブ系イスラエル人やパレスチナにはあまり融和的な政党ではない。

ウクライナ情勢緊迫を背景にイスラエル・アメリカ合衆国・UAE、バーレン、モロッコの外交関係者が集まった。アメリカとアラブの間の関係改善などについて話し合われたほか、アラブ諸国はパレスチナ問題の早期解決をイスラエル側に求めたものと思われる。またイスラエルとスンニ派の国はイランという共通の敵を持っている。

この地域の複雑な情勢を一朝一夕で解決することはできないが継続的な話し合いを持つことは極めて重要である。ブリンケン国務長官は「これまでは考えられなかったことだ」とこの枠組みを歓迎している。トランプ政権時代の置き土産をバイデン政権がうまく利用した形である。

ところがこの会合では思わぬことがあった。まずベネット首相がコロナウイルスに感染した。1972年生まれという比較的若い首相なので健康には問題がないものと思われる。さらに会場の外ではISと思われる勢力が2名を銃殺する事件が起きた。

国際関係の変化がイスラエル国内に動揺を与えているのだ。イランという共通の敵を前にイスラエルとスンニ派の国が接近する。すると、イスラエル国内にいるパレスチナ過激派が刺激されるという複雑な構図がある。

CNNの28日の記事はラマダン(イスラム教)、過越祭(ユダヤ教)、イースター(キリスト教)という宗教的な祝日が近づく4月に向けて緊張が高まっていると警告していた。

攻撃はこれで終わらなかった。さらに29日のCNNの記事によるとテルアビブ近郊で5名が殺された。三回の攻撃で合計11名がなくなったそうだ。一週間で3回目の攻撃だった。住民は屋内に止まるように命じられた。こちらの事件は時事通信も扱っている。ユダヤ教のウルトラオーソドックス(超正統派)の街での犯行だったそうだ。

右翼のベネット首相はパレスチナ人への取り締まりを強化しパレスチナ自治政府のアッバース大統領はイスラエル人が民間人への攻撃を強めていると応酬した。

ロシアのウクライナ人に対する攻撃は日本人に同情される傾向が強いのだが、親米のサウジアラビア・UAEがイエメンを攻撃したりイスラエルがパレスチナを攻撃してもあまりメディアに取り上げれらることはない。日本のメディアは知らずしらずのうちにアメリカ側の偏った報道をしていることになるうえに「善悪」がはっきりしたトピックを優先しがちだ。

イスラエルと中東の問題はとにかく関係者が入り組んでいるためにわかりやすい構図が作れない。このため日本人があまり知らないところで事態が進展し過激化してからようやく報道されるのである。

イスラエルは高度なミサイル迎撃システムの提供が期待されるほか、ウクライナ情勢に「安全保障国」として参加することが期待されている。またイスラエル首相も特定の役割を果たすことに前向きなようだ。だが実は国内にも治安問題を抱えており他国への貢献ばかりはしていられないという状況になっている。

一方で、サウジアラビア連合軍とイエメンの間では暫定停戦が実現した。こちらも「ラマダン」を見据えた停戦だ。Reutersの記事は「2015年に始まった戦闘を終結させるため国際社会が続けてきた和平の努力が、ここ3年余りで最も顕著な成果を上げた」と好意的にこの停戦を伝えている。

このように宗教的行事を念頭に置きながら中東情勢は緊張と緩和を繰り返している。ウクライナでは1ヶ月の戦争で大騒ぎになっているが、こちらはもう長い間こうした状態が繰り返されている。

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