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漂いながら円安と物価高状況に向かう日本経済と経済界・経済紙の議論

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急激な円安が進行している。経済界からも円安を憂慮する声が広がり始めた。早急な議論をしてほしいというのだ。時事通信は経済同友会会長(SOMPOホールディングス社長)と日本鉄鋼連盟(日本製鉄社長)の声を紹介している。

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国内でサービスを展開するSOMPOホールディングスは円安による経済力悪化の影響を大きく受けるため政府や金融に対応を求めるのは当たり前だ。だが製造業はこれまで円高を警戒し円安誘導を求めてきた経緯がある。にも関わらず今度はゆきすぎたから真剣に議論をしなければならないなどといっている。これまで真剣に議論してこなかったということなのか、あるいは誰か他の人が議論をすべきと言っているのかはよくわからない。

だがこの円安の流れはますます加速しそうだ。日本の国力低下を意味する構造的なものだからである。日経新聞が「円安悪循環、警戒強まる 為替の「理論値」も急低下」という記事を出している。今回の円安のきっかけは日本とアメリカの金融政策の違いだ。アメリカは景気の過熱を抑えるために利上げに踏み切ったのだが日本は金利上昇を防ぐために国債の買い入れを行なっている。金利が高い方に投資家が流れるのは当たり前なので今回の円安は政策誘導の結果だといえる。

この記事で日経新聞は影響を次のように書いている。こうした状況が続けば円安がまた円安を生むという循環が生まれかねない。日経新聞は「円安悪循環」と指摘する。

  • 新型コロナウイルス禍での供給制約やウクライナ危機で進んだ資源高を受けて輸入額が膨らんでいる。
  • 22年1月の経常収支は1兆円を超える赤字を記録した。
  • 輸入価格の上昇で輸出入の採算性を示す「交易条件」も悪化し、
  • 日本で生まれた所得が海外に流出している。

経済界は他人事のように議論を求めている。自らの責任を認めずに責任を他者に向けているだけのことである。プレジデントオンラインで野口悠紀雄さんが「日本の経済規模は韓国の半分以下になる…20年後の日本を「途上国並み」と予想する衝撃データ」という記事を書いている。日本がこの20年程度で発展途上国並みに賃貸するという予測である。発展途上国は発展する見込みがあるのだが、発展の意欲をなくし衰退を許容するという意味では発展途上国よりも希望のない状態である。

原因もはっきりしている。それは企業が将来投資を行わなかった点にある。将来投資とは賃金の分配とIT投資だ。近年になってみずほ銀行のシステムが停止したり地方銀行のシステムが停止したりしている。IT投資・更新に失敗し金融インフラが維持できなくなっているのである。にも関わらず企業経営者たちは他人事のように「誰かが議論すべきだ」と言い続けている。

だが企業だけが悪いというわけではない。国民は安倍政権を温存することで安倍政権の金融政策を支持してきた。法人税減税などの手法を駆使して賞味期限が切れた企業を温存する一方で、税収不足を消費税と国債に依存するという手法である。国債をいくら発行しても日本経済に影響が現れなかったのは過去の蓄積があり海外から豊富な利子収入が入ってくるからである。

さらに岸田総理も「新しい資本主義」などと言いながらなんら意思決定はしない。黒田総裁と面談し「現場を確認しあった」だけで何も情報発信はしなかった。

政府与党も総合政策の立案を諦め「高齢者に5000円を配って投票してもらおう」などと考えるようになった。だがこれが国民から批判されたため、現在は2兆円規模の経済対策をまとめているという。このようにとりあえずその場をしのいで選挙を乗り切ろうということしか考えられなくなった。原資はおそらく国債だろう。

円安は構造的変化によってもたらされたようだと書いていた日経新聞だが黒田総裁が岸田総理と面談したという記事では解説委員が次のようなコメントを出している。

あれれ、円安悪循環が話題になっていたのに、円相場が反発した途端に日本株安です。円安だけを取り出し問題視する議論がちょっと挨拶代りになっていないでしょうか。 円安の背景には内外金利差があるとして、その金利差の根っこには内外のインフレ格差があります。米国の消費者物価上昇率は8%に迫るのに、日本は1%未満。だから政策金利を上げていないのであって、円安傾向はその帰結。 資源・食料など輸入物価の上昇が問題であるなら、金融政策ではなく財政政策で対処するのが、基本と思われるのですが。

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主語は明確ではないので「日本の風潮」をざっくりと批判したことになっている。まとめは結局「政府が借金をして財政を支えろ」といっている。だが断定すると波風が立つので「基本と思われるのですが……」とぼかしている。生産性の低迷や金融政策を批判しても波風が立つだけなので「とりあえずこの場をなんとかしろ」と場当たり的な政策提言に終始していることになるが、それすらいい霧ができないので解説という形でお茶を濁していることになる。

この解説員の議論は現在の日本の状況をよく表している。誰かを主語にあげて責任を問うことはない。誰も意思決定はしない。かといって何もしないわけにはいかないからとりあえず今一番批判が少ない「国債を使った財政政策をやったほうがいいんじゃないかな」とは提案する。だがかとといって具体的な提言はしない。具体的に何かを言ってしまうと誰かを「結果的に批判した」ことになってしまうからだ。

これを受けて時事通信は「コロナ対策では国民の負担増につながる財源確保の議論がないまま、巨額の財政出動が繰り返された。夏の参院選を控え、物価高が日本経済を直撃したことを「錦の御旗」として、与党内では補正予算案の編成による歳出拡大を求める声が一段と強まっている。」と批判している。だが錦の御旗と時事通信が認める通り「後で痛みが伴うことがわかっていても今財政を引き締めろ」などと意思決定できる人は誰もいないだろう。

こうして日本経済は漂いながらその国際的地位を低下させてゆくのだ。

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