ざっくり解説 時々深掘り

混迷するペルーでカスティジョ大統領の弾劾裁判が開かれる

カテゴリー:

人々の目がウクライナに注がれる中でペルーの大統領の弾劾裁判が大詰めを迎えた。カスティジョ大統領の証言が行われ評決が行われるようだと伝わっていた。結果的には失職は回避されたが賛成は55票で反対が54票と賛成票もかなり多かったようだ。ペルーは今劇場型政治の末路といった風情になっている。

Follow on LinkedIn

コンテンツのリクエストや誤字脱字の報告はこちらまで

|サイトトップ| |国内政治| |国際| |経済|






ペルーは人口3300万人弱の南米の中進国だ。国民投票で選ばれる大統領と非拘束名簿比例代表制で選ばれる議員という政治構成になっている。

政党政治が発達しておらずカウディジョと呼ばれる個人商店的な政党が乱立する。全国組織を持たず地域に根ざした議員たちは汚職に手を染めるものもいる。そしてこうした汚職議員が増えると国民は全国レベルで選ばれる大統領に改革を期待する。当然議会と大統領は対立するようになり大統領の罷免要求が出される。そういう図式である。

もともとのカウディジョ(カウディーリョ)はスペイン統治下の各地にできた軍閥の意味だった。中南米にはアメリカ合衆国のような統一された政治体制は作られず各地にいる武装勢力が独立したのが中南米の国々の始まりだ。

メキシコ合衆国も各地のカウディーリョの連合体なので市民革命で作られたアメリカ合衆国とは経緯が異なる。いずれにせよ統一市場と統一ルールのもとでの市場経済を目指したアメリカ合衆国のように各地の地方勢力が連合する機運には乏しいため全国的な政治組織が作られにくいという事情がある。これが今でも中南米の政治を不安定にしている。

ペルー政治の混迷を2016年に選出されたクチンスキ大統領が罷免寸前で辞任した時点から追ってみた。クチンスキ氏はケイコ・フジモリ候補と対立していたのだが、議会ではフジモリ候補の政党が議席を取ったにも関わらず大統領選挙ではクチンスキ氏が当選するというねじれ状態になっていた。詳しいことはわからないが議会政治家をまとめたのがフジモリ氏で国民から支持を得たのがクチンスキ氏ということなのだろう。

だが、この後エコノミスト出身のクチンスキ氏にオデブレヒト収賄に関与していた疑惑が持ち上がった。議会は敵対勢力のフジモリ派が多数派だ。クチンスキ大統領は2018年に弾劾寸前までゆき辞任してしまう。その後を継いだのがビスカラ大統領だった。クチンスキ大統領の第一副大統領だったという人だ。ビスカラ大統領は過去の大統領や議会の汚職を暴き国民から広い支持を得た。

だがビスカラ大統領も議会を敵に回したことで議会から反発され罷免されてしまった。この時に弾劾プロセスを主導したのはメリノ議長だ。のちに大統領になり極右政権を組織するのだが「クーデターだ」と激しい抗議運動を受けて数日で辞任してしまった。抗議活動では2名の死者が出た。このためメリノ大統領が指名した閣僚の辞任が相次いだ。つまり改革を要求する国民から直接ノーを突きつけられたのである。

朝日新聞によるとビスカラ大統領が「議員の連続再選禁止」などの国会改革を提案したことが弾劾の背景にあるようだ。ビスカラ大統領の支持率は高かったのだが国会議員にとっては既得権の剥奪に映ったのだろう。このため議会が「クーデター」を起こし選挙で選ばれた大統領を辞任に追い込んだ。

次の大統領になったのはサガスティ議長である。元世界銀行職員という経歴だそうだ。左寄りの中道という政治的立ち位置で2021年まで大統領を務めた。

なぜペルーの政治は安定しないのだろうか。ペルーはこの地域では比較的豊かな中堅国だが、政治的には非拘束名簿式比例代表制を取っている。非拘束式とは名簿の順位を決めないという意味だそうだ。少数政党が乱立するために政治勢力が安定しない。

サガスティ大統領の後は選挙が行われ、最終的にケイコ・フジモリ氏とカスティジョ氏が最終まで残った。カスティジョ氏は急進左派・ネイティブ系の大統領である。国民は大統領としては左派を選んだのだが国会には右派が多い。大きな政党が政治状況を整理するという状況にはないために大統領が政党と協力して国政運営できないのである。

急進左派のカスティジョ大統領は当初左派の首相を指名するのだが政局は安定しなかった。2021年12月7日に「道徳的な能力の欠如」という極めて曖昧な理由で弾劾審査要求が出されたがこの時には46/76票で否決された。だが2022年3月14日に二度目の弾劾審査要求が出され今度は76/41で可決されてしまった。このため裁判が行われることになったという経緯である。

最終的に弾劾に賛成した人が棄権に回り失職だけはかろうじて回避された。

よく政治を分析する時に「右か左か」というような見方をすることがあるのだが、これはあくまでも全国的な政党ができており意見集約ができるという前提あってのことである。そもそも全国組織ができないペルーのような政治状況では二元代表制そのものがうまく機能しない。地域利権と政治改革欲求という対立になり民主主義そのものが機能不全に陥る。このためにこうした混乱がいつまでも続いてしまうのである。

コンテンツのリクエストや誤字脱字の報告はこちらまで


Comments

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です