バイデン大統領がまたしても失言をした。演説中にプーチン体制打破を宣言してしまったのである。ブリンケン国務長官やホワイトハウスは火消しに躍起になっているそうだ。プーチン大統領を刺激し更なる軍事行動を誘発しかねない上に「民主主義を守る戦争」という大義が失われることになるからだ。
言語では「For God’s sake, this man cannot remain in power」といっている。「神にかけて」と前置きしておりかなり強い調子の断定であることがわかる。
このところ正常性バイアスが強く働くようになった。こうしたニュースはすぐに流さずに一晩置くことにしている。「冷静な」頭で二つの可能性を考えた。
一つはプーチン大統領に対して「俺も何をしでかすのかわからないのだ」という恫喝をしているのであろうという解釈だ。核兵器の先制不使用放棄の延期もその一環だろう。
二つ目は国内の反対勢力である共和党(特にトランプ大統領支持者)に対しての強気アピールだ。つまり自分もカウボーイのふりをしないと共和党支持者たちを納得させられないのだ。
バイデン大統領はもともと議会政治家である。議会政治家の出方はだいたいわかっている。彼らは今のシステムの恩恵を享受しているもの同士なので極端なことは言ってもシステムを破壊することまでは考えない。
ところがトランプ前大統領もプーチン大統領も「現在の体制は壊れても構わない」と考える。今の政治システムに対して恩恵は感じていない。バイデン大統領は確かに経験豊かな大統領なのだが、その経験は過去のアメリカ政治の常識を逸脱するものではない。そしてそのアメリカ政治の常識は今や世界でもアメリカ国内でも通用しない。なぜならば既得権者とそうでない人たちの格差が大きく開いているからである。
これについて「バイデン大統領の不規則発言」と言うタイトルでQuoraに記事を書いたところいくつかのフィードバックをもらった。この問題に対する関心の高さがうかがえる。
第一のフィードバックは「お前の記事にはバイアスがかかっている」と言う指摘だった。冒頭に書いたように「あまりにも極端なことばかりが起きている」ので「もうこれ以上はエスカレートしないでほしい」と言う気持ちがある。「何に対するバイアスなのかは勝手に判断させていただく」というレスポンスが来たので「バイデン支持・反トランプ」と自動認定されたのかもしれない。
次に「実際に演説を見ていたがバイデン大統領がおかしくなったのかと思った」と指摘する人がいた。演説の雰囲気は良かったそうだ。そのため高揚して変なことを口走ったのではないかというわけだ。最終的に「バイデン大統領には側近が大勢いるので極端なことにはならないだろう」と言う結論になっているのだが、アメリカの大統領はその気になれば大きな混乱を引き起こすことができるというのはトランプ政権時代に我々が学んだことである。さらにこのレスポンスからは一般の人が感じる「アメリカは大丈夫なんだろうか」という素直な懸念が感じられる。これが一般的な印象だとすればやはりバイデン発言は失言だったことになるだろう。
最後のコメントは「ロシアではなくプーチン大統領を非難することで中からの体制転覆を促しているのではないか」というものだった。確かにその通りかもしれないと言う気はするのだが、逆に言うとそれしか手が残っていないことになる。さらにこのメッセージはプーチン大統領をさらに孤立させ極端な選択肢を選びかねない追い詰められた心理状態を作り出す可能性が高い。
いずれにせよこの発言はかなり波紋を呼んでいるようで「ホワイトハウスは火消しに懸命になっている」らしい。アメリカ政府はようやくロシアの戦争犯罪を正式に認めはしたが、事実認定や誰に責任を負わせるかは後々に決めるという方針をとっていた。つまり事後的に裁いて西側に好ましい体制を作るつもりでいたのだろう。バイデン大統領の今回の発言はこれを大きく逸脱するものとなり「一体誰が今回のシナリオをコントロールしているのか」という疑念も生じているようだ。
日本のテレビではこの辺りがぼやかされており「プーチン大統領に対する強い決意を述べた」と言うことになっている。ロシアでもテレビしか見ない世代とSNS世代では受け取る情報が違うそうだが、おそらく日本でもテレビから情報を取り「頼もしい民主主義のリーダーだ」と思い続ける人とSNSで情報を取り「あ、この人大丈夫かな」と言う人たちの二種類が存在することがわかる。