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誰もボタンを押さないのに勝手に核戦争が始まるという死の手(Dead Hand)理論

バイデン大統領の核使用限定宣言延期について調べていて「Dead Hand」という理論を見つけた。最終的には文章の中からまるまる削除したのだが核兵器のボタンを誰も押さないのに核戦争が始まってしまうという想定があるんだなと思った。

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核使用限定宣言延期の帰結として悪いシナリオをいくつか想定した。まず思いついたのはロシアが崩壊しても西側がコントロールできるような新しい政権ができないというアフガニスタンモデルだった。

このモデルではロシアの核兵器が散逸してしまう可能性がある。秘密主義者のプーチン大統領は各軍の連絡さえできないようにして軍隊が自分たちに歯向かってくるのを防いでいた。核兵器の所在を多くの人が共有したり議会が管理していることは考えにくい。地方組織はパーツを管理してはいるが全体は把握していないはずだ。これがベースになり核兵器開発が進むことになるだろう。誰が最終的に何を完成させたかは誰にもわからなくなる。つまり北朝鮮がいくつもロシアに登場するというシナリオである。

おそらく戦争の段階が進めば「プーチンを探せ」ゲームになることは明らかなのだが、唯一核兵器の所在を完全に把握していた人がいなくなればロシア全体に核兵器が散逸することになると考えた。その一部は確実に東欧のど真ん中にあるカリーニングラード存在することを考えるとプーチン大統領を追い詰めたり殲滅することの危険性がよくわかる。

ところが色々な記事を当たっているうちに自動報復装置という概念を見つけた。日本語で記事はなく英語の記事が見つかるだけである。Retaliation, Nuclear, Russiaなどで検索すると英語では様々な文献が出てくる。核兵器で壊滅的な被害を受けた日本には核兵器使用について積極的に考える人はおらずテレビなどでは自主的に規制がかかった状態になっている。だがアメリカにはそのような心理的な蓋はない。だから様々な議論がもうすでに始まっているのだ。

調べていてロシアにはDead Hand(死の手)と呼ばれる自動報復システムがあるとされているとするWikipediaの記事を見つけた。調べてみたところ、実際にはもう存在しないとかまだ生きているという噂が飛び交っている。中にはセンサーとAIの組み合わせで自動報復装置が作動するなどとする情報もあるのだ。「周囲の放射性物質の量を測定して自動で発射される」などとその記述は妙に具体的である。誰も運用テストをやったことがないわけだから「正常に起動するか」すらわからないということになる。極めて危険だ。

よく「誰が核兵器のボタンを押すか」ということが問題になるのだが、現代では「誰も核兵器のボタンを押さない」かもしれないということになる。西側に対して強い敵愾心と恐れを持っているプーチン大統領ならこうした拡大自殺的な装置を持っていてもおかしくないと感じた。

だが、さすがに情報が少なすぎるのでQuoraで質問をしてみることにした。大方の意見はそんなものはないしあっても使えないだろうというものだ。電力供給などが不安定なソ連でそんなシステムがあったらソ連崩壊の時に作動しているだろうという人もいる。

確かに言われてみればその通りかもしれない。軍隊の通信は最高レベルの機密のように思えるのだがロシアの軍隊の通信設備は極めて貧弱だったということがわかっている。ロシアの指導部にとって軍隊は消耗品でありそれほど近代的な設備を整える必要性は感じられなかったのだろう。軍の近代化が進んでいないと考える方が自然である。

いわゆる「正常性バイアス」が働く。でできればこうした極端なものは作られていないと思いたいという気持ちもある。そこで前の文章からはこの「死の手」の部分は取り外し「ああよかった」と思うことにした。

だが、それでも「ひょっとして高度なシステムが開発されているのかもしれない」という思いも払拭できない。ことサイバー攻撃に関してはかなり緻密なシステムが開発されているからだ。

改めてロシアという国の恐ろしさを感じる。物事の進み具合がことごとく我々の想定とは異なっている。北朝鮮にも言えることだが、とても発達している分野もあればあきれるほど貧弱な分野もあるといった具合である。何をしでかすか予想ができないという不確実性こそがロシアの恐ろしさであり「下手に手出しができないぞ」という意味で防御力になっているといえるのだろう。

このシステムは小松左京の小説「復活の日」にもARS(Automatic Revenge System)という名前で出てくるそうだ。巨大地震が核攻撃と誤認されるという話になっていて地質学者吉住がアメリカ大陸を縦断する旅に出る理由として使われている。

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