バイデン政権が成立したときはトランプ大統領に感謝する時が来ようとは全く思っていなかった。だがそれが現実のものになりつつある。中東でウクライナ情勢などの諸問題に対応しようという動きが出ているのだが、イスラエルとUAEが緊密に連携を図っている。
時事通信に短い記事が出ていた。イスラエルがUAE、モロッコ、バーレーン、アメリカの間で外相会談を開くという話が出ている。詳細は明らかになっていないのだが「歴史的な発表」がなされるとされているそうだ。The New York Timesも詳しい記事を書いている。アメリカ合衆国とUAEの関係は冷え込んでいると言われている。この冷え込みは原油価格を高騰させる要因になりかねない。イスラエルがこの冷え込んだ関係を修復させる可能性があると期待を寄せている。だがThe New York Timesが触れていないことがある。この関係修復に一役買ったのはトランプ政権なのである。
もちろん、彼らの最大関心事はアラブとイスラエルの間の緊張関係を解くことだ。イスラム圏ではもうすぐラマダンがやって来る。状況が緊迫化しやすいシーズンなのだが今年はG7/G20の調停が期待できそうにない。
お互いに利害が一致しているとは言えずパワーバランスが崩れるとイスラエルとアラブの関係は悪化しかねない。ここにアメリカという第三者を加えることでイスラエルとアラブの関係の改善が期待できる。
と同時にアメリカ側もこの枠組みに入ることでUAEとのコミュニケーションを保つことができるだろう。原油価格は西側先進国にとって目下最大の関心事だ。
現在のイスラエルの政権は以前ほどアメリカ寄りではなくなってきている。もちろん懸念もあるのだが、ロシア・ウクライナ問題の仲介を申し出たり経済制裁に対して抑制的な態度をとっているためロシアとのパイプとしての期待も高まる。また、イスラエルはエジプトとの間に外交関係を作ろうという努力もしているそうだ。The New York Timesは2021年9月のシャルムエルシェイク会談というエピソードも添えている。
もちろんトランプ大統領が全てを成し遂げたというわけでもないが雪解けの契機をうまく掴んでイスラエルとアラブの合意形成に一役買ったというのは間違いのない事実である。ネタニヤフ政権が退陣したこともありさらに外交交渉のネットワークが広がりを見せている。
一方で、バイデン大統領は外交が極めて苦手のようだ。彼の軍事外交の実績はノーベル平和賞を取ったオバマ大統領の穏健な副大統領というイメージからはかなり乖離している。例えば今回のウクライナ情勢では一方的に経済制裁を振りかざしプーチン大統領をG20から追い出そうとしている。
G20からのロシア排除を提唱しつつ、困難な場合にはウクライナを参加させるべきだと主張した。2022年のG20議長国・インドネシアはロシアを枠組みにとどめる方針を示しており、バイデン氏はG20のあり方について関係国と議論を重ねていくとみられる。
米大統領「ロシアG20排除を」 化学兵器使えば対抗措置
かねてよりウクライナとの間に深い繋がりを構築してきたバイデン大統領が露骨な利益誘導に走っているように見える。プーチン大統領を追い出すかウクライナをG20に加えろと言っているのだ。
中立な大統領であれば問題にならなかったのだろうが、息子がウクライナの企業の重役だった「ウクライナ疑惑」のあるバイデン大統領がこんな提案をしたところで誰も聞く耳は持たないだろう。議長国インドネシアはG20の枠組みにロシアを止めることでなんとか話し合いの場を確保しようとしている。それを全く顧みることなく露骨な反プーチンキャンペーンを繰り広げるところはまさに頭に血ののぼった迷惑なヒステリー老人といった風情だ。
アラブ側ではアルジャジーラも英語版の記事をリリースした。アルジャジーラの記事には興味深いことが二つ書かれていた。
まずは、イスラエルのほかヨルダンも会議をエジプトやイラクと主催するのだという。ヨルダンはサウジアラビアと並ぶ地域の大国だ。国の規模はそれほど大きくないがサウジアラビアとヨルダンだけが王国でUAEは少し遠慮して「首長」と名乗っている。調整のネットワークが広がりを見せていることがわかる。
我々が石油価格に一喜一憂するのと同じように中東の人たちが懸念しているものがある。それが小麦価格の高騰だ。
中東の国は比較的安い価格のウクライナ小麦に依存している。イラクでデモが起こったことからもわかるように小麦の問題は中東情勢を再び不安定化させかねない。
アメリカ国務省の担当者が「この地域にとってウクライナの小麦問題は非常に重要である」といっているという発言を紹介している。大統領は挑発的だが外交スタッフの中には優秀な人もいるのだということがわかる。こうした発言があるとアラブ側も「アメリカも小麦の問題を認識している」と感じることができるだろう。
“We know this pain is keenly felt in the Middle East and North Africa, where most countries import at least half of their wheat,” much of it from Ukraine, Department of State Acting Assistant Secretary Yael Lempert told reporters in Washington.
Israel to host US, Arab diplomats in ‘Abraham Accords’ summit
イエメンの内戦、イラクの核合意問題、ウクライナ情勢など状況はかなり複雑に絡み合っているのだ、地域ではそれぞれの調整の動きが出て来たのは好ましいことだ。
気になるのはこの中に地域大国サウジアラビアが入っていない点である。サウジアラビアの皇太子はジャーナリスト殺害の首謀者とされバイデン政権からは距離を置かれてきた。さらにイスラエルとサウジアラビアは国交を回復していない。このために調整の枠組みの中に組み込むのが難しいようだ。the New York Timesもアルジャジーラもあえて説明はしていない。この地域では常識となっているのだろうが我々日本人にはよくわからない点だ。
トランプ政権を逃したサウジアラビアはいまだにイスラエルと修好ができない。イスラエルがパレスチナと衝突してしまい再びアラブとの関係が冷え込んだからだと朝日新聞は指摘する。
ネタニヤフ政権末期の出来事だったので政権が変わった今はチャンスなのだが修好の兆しはない。2022年3月初旬の共同の記事では「イスラエルは潜在的隣国」と関係修復の機会を狙っているようだ。イランとも関係の再構築をしたいようだが、これもイエメンのフーシ派がサウジアラビアに攻撃を継続しているうちは関係修復は難しいのかもしれニア。
日本で「民主主義の破壊者」とみなされていたトランプ大統領の成果に感謝する日が来ることになるのかもしれない。歴史とは一筋縄ではいかないものである。