是々非々と言う言葉がある。岸田総理がインドのモディ首相と会談した。おそらくニュースとしてはインドとの連携を確認したというものになるのだろうが、予備知識を入れておくと少し違った見方ができる。
まずニュースの内容から確認する。
日本はインドへの多額の投資を表明して対中国では協力することを確認した。だが、インドらロシアを非難する声明はなかった。
- 力による現状変更は認められず、ウクライナでの戦闘行為は即時停止されるべきだとされた。ロシアには毅然と対応をすべきだと言う点では一致した。
- モディ首相はロシアには触れずもっぱらクアッドの枠組みにのみ言及した。念頭に置かれているのは中国だ。
- 日本はインドに5兆円の投資を表明した。総額3122億円強の円借款プロジェクトでも合意があった。円借款は交通・医療などのインフラ整備に使われる。
ロシアのウクライナ侵攻は戦争とは呼ばれずconflict(紛争)と表現された。この辺りにモヤモヤしたものを感じるかもしれないが「インドはこっちサイドなんだろうな」と言う漠然とした感想を持って終わりになる人が多いだろう。「世界のどっちが敵でどっちが味方」というニュースの読み方をしたい人はここから先は読まない方がいい。
対中国で大国の援助を期待するインド
インドは中国との間に領土紛争を抱えている。中国側からの侵入は日常茶飯事だ。2020年の衝突では死者も出ている。中国は6万人の兵士を送り込んでコロナのどさくさ紛れに紛争地の確定をしようとしたそうだ。インドはかろうじて中国軍を撃退したが中国の野心がくじけたわけではない。そこでインドは対中国包囲網のために大きな国に援助してもらいたいと考えている。実はそのときにロシアにも頼っている。2015年には大量の武器をロシアから購入したと言うニュースを見つけた。
さらに今回もプーチン大統領は事前にインドを訪問しており密かに根回しを済ませていたものと思われる。このように対中国でインドとロシアの結びつきは緊密である。このためモディ首相はモスクワを訪問したりしている。つまり、インドの立ち位置はアメリカや日本が期待するようなものではない。
一方で日本の側も「デカップリング」の潮流の中で中国への投資を減らしてインドへの投資を増やしたいと言う思惑がある。また、アメリカ・オーストラリア・日本の枠組みで中国に対峙するよりもインドを増やした方が「世界対中国」と言う図式が作りやすい。多額の円借款と投資はインドの気持ちを西側に引きつけておくために使われるのだろう。
実はプーチン大統領や習近平国家主席と同じようなことをやっているモディ首相
だがモディ首相には問題も多い。彼はヒンズー至上主義者だからだ。クーリエで途中まで読める文章には「アッサム州で不可触賎民が作られている」と言う衝撃的な内容の告発がある。モディ首相はイスラム系住民を住民台帳から外すことで彼らを排除しようとしている。台帳から外された人は外国人ということになる。
ジャム・カシミール地方は自治権が剥奪された。ここにヒンズー寺院が建立されモディ首相も記念式典に参加した。ジャム・カシミールにはイスラム系の住民が多いため彼らを排除しようとしている。
中国は新疆ウイグル自治区にいるイスラム教徒たちを「中国化」しようとしている。またプーチン大統領はウクライナ東部にいるウクライナ人を「ロシア化を拒否するテロリストだ」と考えている。同じようなことをインドもやっていることになる。
ところが日本もアメリカも「戦略的事情」によって中国とロシアは非難するがインドは非難しないという選択をした。これはおそらく経済的な意味でも安全保障上の意味でも重要なのだろうが、少なくとも少数者の権利保護と人権という民主主義的な意味では間違った選択だということになるだろう。
これがわかっていてあえてインドとの関係強化を歓迎するというのならそれはそれで政治的な選択だといえるのだろうが、おそらく日本のマスコミはこうしたことは伝えないのだろうと思われる。
白黒はっきりしない問題を伝えると視聴者が迷うという事情もあるのだろうが、我々は意外と伝えないという「プロパガンダ」をうけていることになる。