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ゼレンスキー大統領の演説を扱いかねる日本政府と議会

ゼレンスキー大統領が各国の議会で演説している。連日拍手喝采だそうだがその動きに乗り切れない国がある。それが日本である。内向きな議論に終始しているうちに国際的な潮流がわからなくなっているのである。

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おそらくゼレンスキー大統領は西側には期待していない。NATOには入れないだろうと考えていてトルコを安全保障スキームに引き入れようとしている。思惑の違う周辺の大国を巻き込み独自性を保とうとしているのであろう。西側に支援を求めるのは単にロシアを包囲する国際世論を作りたいからにすぎない。

また西側にも自分たちは戦争に巻き込まれたくないために積極的に関与できないという負い目がある。その負い目や罪悪感がスタンディングオベーションとなって現れる。ただそ誰毛のことである。

ただ、ゼレンスキー大統領のスピーチ力は本物だ。アメリカ、イギリス、カナダの議会の演説の要旨だけをみた。アメリカでは真珠湾攻撃を例に挙げ、イギリスではシェークスピアとチャーチルの言葉を引用したそうである。カナダでも自国の首都が攻撃されたり有名なトロントのCNタワーが攻撃された時のことを考えて欲しいと言っている。

いずれも自国の窮状をできるだけ聴衆に実感してもらうという工夫が感じられる。もともと頭のいい人のようだがシナリオライターのスタッフがいるか自分で書いているのだろう。コメディ俳優出身らしい才能の発揮の仕方である。アメリカではゼレンスキー氏の過去の作品がネットフリックスで再配信されるそうだ。それくらい人々の心を掴んだということになる。

ゼレンスキー大統領はお願い事はしているがコミットメントは求めていない。すでに欧米が深いコミットメントを避けていることは知っている。おそらく彼らが頼りにしているのは同族の西スラブ系の小国やトルコのような「第三の存在」だろう。彼らとウクライナは「ロシアに飲み込まれるかもしれない」という脅威を共有している。特にポーランドは事態が切迫している。

おそらく少なくともアメリカとイギリスの政権の関心はロシアやウクライナの天然資源利権にありウクライナの国民には何の関心もなさそうだ。ジョンソン首相の挙動が極めて分かりやすい。盛んにロシアへのエネルギー依存をやめるべきだと言っている。プーチン大統領の経済利権を奪いロシアの天然ガスなどの商品価値を下げようとしている。経済制裁を盛んに主張しておりマスコミにもそう呼びかけている。

ゼレンスキー大統領の演説は英米の指導者にとって商品価値がある。国民にゼレンスキー大統領の同情心とプーチン大統領への敵愾心を植え付けることができるからだ。

さてここまでわかると日本の議会が演説を受け入れるかどうか迷っている理由がよくわからない。おそらく事情を掴みかねているのだろう。

日本はG7にお付き合いをして対ロシア制裁をすることを決めた。だが背景にある構造はよくわかっていない。そこでゼレンスキー大統領が何を言い出すかわからないと怯えている。無下に断れば現在のマスコミ報道に逆行することになり選挙でマイナスになりかねない。だが受けてしまうとプーチン大統領に恨まれるかもしれないと感じている。

そこで彼らが持ち出した理屈は次のようなものだ。

  • 前例がない。
  • 技術的に対応できない。

野党の対応も別れている。まず立憲民主党の泉さんは「何を言い出すか事前に聞き取るべきだ」といっている。調整がしたいのだろう。泉さんはアドリブが効かない人のようだから今すぐ代表を辞任したほうがいい。

一方でおそらくこうした大きな絵とは全く関係がなさそうな国民民主党もこの調子だ。いずれにせよ我々国民は単なる観衆であって大きな話は別のところで動いているのだろう。

岸田総理は是非対応してほしいと注文をつけたようだ。ゼレンスキー大統領の演説を受け入れるかどうかにはおそらくそんなに大きな意味はないのだが、議会が流れをわかっていないという点には問題がある。意思決定の遅れを招きかねないからである。

仮に流れがもっと露骨なプーチン排除に動けばサハリン2などの開発計画はかなり敵視されることになるだろう。積極的に放棄して欧米に乗っておいた方が当座破損が少ないということになる。

一方で中国の台頭やSNSの監視によりこうした既得権も先がないと考えるならばバランス外交に徹するべきだということになる。南アフリカも「欧米(NATO)もロシアにもそれぞれ非がある」などと言い出していて国際社会の欧米離れが進んでいる。これまでのようにG7と一緒に動いていれば問題が起きないという状態ではなくなっている。この調子ではこうした国試社会の変化に対応できない。大統領の演説ぐらいすぐに意思決定すべきである。

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