国民民主党の玉木雄一郎代表が新しい戦略を思いついたようだ。それが自民党公明党政権へのタダ乗り(フリーライド)である。これが意外な展開を見せている。日本独自の政治慣習のせいで自民党の政策を逆に縛っているのだ。
日本の野党にはシンクタンクがないため新しい政策を立案することができない。こうなると誰かが持っている成果を横取りするしかない。故に玉木雄一郎代表のフリーライド戦略は日本の野党が取りうる唯一の選択である。憲法審査会では「オンライン審議を勝ち取った」と宣伝した。単にもしもの時には国会が止まらないようにあらかじめ手を打っておきましょうということを決めただけでほとんど何も決めていないと言っても良いだろうが、それを成果と宣伝したことになる。
今回玉木代表が提案しているのはトリガー条項の解除である。このトリガー条項を検討してくれると言ったから予算に賛成したというめちゃくちゃな論理で岸田政権案に乗ってしまった。さらに公明党に働きかけてトリガー条項解除に賛成してほしいと言っている。結局、自民党と公明党は玉木代表と面会することになった。
国民民主党はある時には野党として振る舞いある時には自民党公明党に近づく。いわば鳥でも獣でもないコウモリのような存在になった。そして美味しいところだけをつまみ食いするフリーライダーとして振る舞う道を選んだのだろう。
ところが面白いことにこのめちゃくちゃな振る舞いが永田町では通ってしまう。元々は財務省が一度得た既得権益を手放したくないという政権内闘争だったと思うのだが、政府は「今この時点でトリガー条項を解除してしまうと国民民主党の得点になる」と考えるようになる。5円の補助金を25円にしますと決めてしまった。つまり、玉木代表の戦略により岸田政権がオプションを一つ埋められてしまったのだ。今後この補助金がどこまで上がるのかはわからないが石油元売に支援金を払い続けることになる。
日本の政府は飲食店のように自分たちを支持してくれるかどうかわからない人たちへの支援は極めて抑制的だが日本医師会や石油元売のように支援が見込める団体には大盤振る舞いする傾向がある。これが行き過ぎれはおそらく自民党はまた国民から批判されることになるだろう。
こうしたリスクを冒してでも相手には絶対に得点を与えないというのは実に日本らしいやりかただ。実際にどちらの方が政策として優れているかという議論にはならない。誰の得点になるかで政策が決まってしまうのである。
もちろんこれが成功すればいいのだが状況は自民党にとって極めて不利な展開になっている。ウクライナ情勢が緊迫しているからだ。ロシアが原子力発電所を攻撃したことでグリーンバブル崩壊という話まで出てきている。二酸化炭素排出削減というお話を作って原発の推進を進めようとしていた人たちがプーチン大統領の暴挙によって長年積み重ねてきたお話を破壊されてしまった。当然これに乗ろうとしていた企業は大損害を受ける。これがグリーンバブルの崩壊である。
ファンダメンタルズ(基礎環境・基礎要因)が大きく変わったのだから、政府が石油元売にいくら補助金を出したからといってカバーできる状態ではなくなりつつある。結果的に石油の価格が上がれば「岸田政権の意思決定の問題である」と非難されることになるだろう。
先行きが不透明になりフリーライダーまで出てきたため岸田政権はどうしていいかわからなくなりつつある。このため、国会では「来年のことはわからないから今は決めない」という答弁を繰り返し野党の議員が呆れたように「予算というのは来年度のことを話し合っているんですよね」と問い詰められていた。
国会はわけがわからない漫画のような展開になっているのだが、おそらく国民の多くはそもそもこの議論を知らず、従ってトリガー条項が解除されようがそれを国民民主党の手柄だと思う人はおそらく誰もいないだろう。
いずれにせよ新型コロナ禍が克服できないうちにウクライナ危機がやってきた。展開次第によってはグリーンバブル崩壊どころかリーマンショック級の事態にもなりかねない。ロシア経済は小さいからそれほどの危機にはならないだろうと予想されているのだがグリーン経済に被害が広がればロシア一国の問題では済まなくなるだろう。
日本の政治は参議院選挙を念頭に「誰が得点を取るか」ということを一生懸命に競い合っているのだが、実はそんなことはもうどうでも良くなりつつある。