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プーチン大統領を戦争犯罪人として裁くことはできるのか?

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国際刑事裁判所(ICC)の検察官はがウクライナで戦争犯罪が行われた疑いを捜査する。39カ国から要請があったそうだ。「なんとしてでも戦争を止めたい」とする気持ちを多くの国が持っていることがわかる。ICCは個人を対象にした裁判所なので捜査対象者はプーチン大統領らになるのだろう。

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ではこれでプーチン大統領を戦争犯罪人として裁くことができるのかと言う問題が出てくる。可能といえば可能なのだが恐ろしく長い時間と手間がかかる。国家指導者を裁くのはとても難しいことなのである。

さらにロシアは国連常任理事国だ。国としての戦争責任を問うことは極めて難しい。この侵略を違法だと国連が認定することはないだろう。では「どうせダメだ」と諦めてしまうのかという問題がある。国際社会はそうは考えなかった。

参考になる事例がある。それが1990年代のユーゴスラビア紛争だ。戦争終結まで10年かかり首謀者の一人の有罪が確定したのは2021年である。国家指導者のスロボダン・ミロシェビッチ大統領は途中で死亡しており有罪が確定することはなかった。

ニュースにはいくつかの裁判所の名前が出てくる。まずミロシェビッチ大統領らを裁いていたのは「旧ユーゴ国際戦犯法廷」である。安全保障理事会の決議によって作られた。ユーゴスラビア・セルビアは国連の常任理事国ではなかっため拒否権の発動はなかったのだろう。

スロボダン・ミロシェビッチ大統領は途中で亡くなり2017年にラトコ・ムラディッチ司令官に有罪判決を出して終わった。ルワンダの人道裁判と統合され国際刑事裁判所メカニズムという名前になる。この国際刑事裁判所メカニズムによって2021年に刑が確定した。つまり裁判は二審制度だった。

ユーゴスラビア紛争の時には戦争犯罪を犯した個人を裁く裁判所はなかった。そのため新しい国際条約が準備された。その結果生まれたのが今回出てくる国際刑事裁判所(ICC)だ。

ただし、ICCには中国とインドが入っていない。ロシアとアメリカは条約作りには参加したようだがおそらく自国に不利と見て署名はしなかった。今回はウクライナが当事国でありICCの管轄権を受け入れているので管轄対象になっている。

ミロシェビッチ大統領の裁判の経緯を考えると、そもそもプーチン大統領を裁判の場所に連れてくることがかなり難しいことがわかる。ミロシェビッチ大統領の逮捕にはかなりの手間がかかっておりNATOやアメリカの圧力があったと言われているようだ。

また、ICCは国の戦争犯罪を裁く国際司法裁判所(ICJ)とは別の枠組みになっている。こちらは国連の一機関でありおそらく安全保障理事会でロシアが拒否権を発動すればロシアの戦争犯罪を裁くことはできないだろう。

「戦争を止められないならどうせ無駄」と考える人が日本には多そうだが、国試社会はそうではない。国連から独立した組織が個人としてのプーチン大統領を捜査するということにはそれなりの意味がある。国連が機能不全になっているからこそ別枠が作られているのだ。もちろん国連としてウクライナ侵攻をやめさせて国連平和維持軍を派遣するというようなことはできないがなにもしないよりはマシだ。

このようにできることは限られているのだが全く何も手段がないわけではない。

多くの国が国際社会は大国のエゴによって機能不全に陥っている安全保障理事会の役割を見限り「できる限りできることをしよう」と動き出していることがわかる。「どうせ大国が動かないんだから最初から無駄に決まっている」と諦めている国ばかりではない。そうした国がなければプーチン大統領のような暴走は止められないこともわかる。

同じような構図で作られた枠組みに核兵器禁止条約がある。常任理事国=核保有国が特権を手放さない一方で核兵器を非合法化しようという動きがある。核戦争の脅威が現実のものとなるなか、国民からは日本も積極的にこの条約に参加すべきであるという声がある。唯一の被爆国である日本の姿勢は消極的だが強い圧力をかけて政府を動かしてゆかなければならない。日本が民主主義国である以上「民意による意思表示」は極めて重要である。

さらに本来ならば憲法第9条も「同じような枠組みを世界に広めてゆくためにはどうすればいいのか」という話し合いの現場を作ることが重要だったということがわかるだろう。ただ現在の憲法改正の枠組みはアメリカの支援によって作られその安全保障の枠組みの外に出ることができない自民党とそもそもソ連や中国の共産党の体制転覆運動を日本に持ち込もうとしていた共産党が中心になって組み立てられている。このためダイナミックに平和運動を推進しようという発想にはなかなか切り替えられないのだろう。

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