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プーチンを国連安保理非常任理事国から引き摺り下ろすことはできるのか?

イギリス政府が「ロシアを安保理常任理事国から排除することを検討すべきだ」と提案したとAFPが伝えている。この提案について真面目に考えてみた。

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第一にこの主張の詳細は全く明らかになっていない。BBCの英語版ですら短く伝えるだけである。国連に常任理事国解任の手続きがあるとも思えないのでいつもの思いつきである可能性は高い。AFPの記事もボリス・ジョンソン首相は必ずしも明確な意思を表明しているわけではないと書いている。

そもそもロシアにソ連の後継国としての資格があるのか?

最初の引き摺り下ろしのルートはそもそものロシアの参加資格について問い直すというものだ。元々の常任理事国はロシアではなくソ連である。ソ連が解体してロシア連邦に引き継がれたわけではないのでその参加資格というのは極めて曖昧な状態にある。この文章によるとナザルバエフ大統領(当時)はロシアではなくCIS(独立国家共同体)が国連安保理を引き継ぐべきだと主張していたそうだ。

皮肉なことにウクライナはこの独立国家共同体からは抜けようとしていた。だがCIS側は脱退を承認していないという状態にある。一方でCISがソ連を正統な後継であると主張していたナザルバエフはロシアの介入により政治家を引退させられた。その後釜に座ったトカエフ大統領はおそらくプーチン大統領には抵抗できない視するつもりはないだろう。

つまり、脱退したい国や取り込まれた国などの当事国が結束しない限りこのルートを取るのは難しそうである。

国連安全保障理事会の無力化

次のルートは安保理の無力化である。そもそも安全保障理事会は常任理事国が他の加盟国に命令をする権力を持っているわけではない。つまり安全保障理事会は「国会に何もさせない」という安全装置としての意味合いしかない。単なる暴発予防装置なのでそもそも実効力を期待すべきでもないということになる。

特に安保理を解体する必要はない。アメリカ合衆国・イギリス・フランスが安全保障理事会の外に新しい枠組みを作ってしまえばそれで終わりだ。つまり、常任理事国を解任しなくても国連の役割自体が徐々に小さくなってゆくということは十分に考えられる。その具体的な装置がNATOでありEUなのだろう。イギリスの今回の試みはおそらく国連安全保障理事会の正統性への攻撃に向かうのだろう。長い目で見れば国連の権威は低下し、各国独自の枠組みがそれに取って代わろうとする。それは例えばアングロサクソン連合だったり一帯一路だったりするのだろう。

ただアメリカ合衆国・イギリス・フランスは「国連の外に新しい枠組みを作りますが我々は特権を維持します」とは主張できない。誰もついてこないからである。自分たちで枠組みを主催することはあるだろうがその参加資格は今よりも民主的なものにならざるを得ない。その意味では国連安保理の常任理事国という特権を自ら放棄することになる。

仮にアメリカ・イギリス・フランスがここから限定的にでも撤退し他の国が追随すれば国連の無力化はそれほど難しい問題ではないだろう。常任理事国に残るのは狂った独裁国家のロシアと中国だけである。

鍵を握るアフリカ

この話の一番の鍵を握るのはアフリカなのではないかと思う。ロシアと中国が国連に残った時に「どちらにつくのか」という話になるからだ。中国は一帯一路などで中央アジアとアフリカに影響力を強めている。

当事国のアフリカにはアフリカなりの視点がある。一つは植民地支配の歴史である。CNNがケニアの国連大使の声を伝える。プーチン大統領のやり方はあまりにも帝国主義的である。ケニアの国連大使は自分たちは押し付けられた国境を受け入れたのに大国同士は国境を巡って争っていると指摘する。これに反論できる国はおそらくないだろう。

ところがウクライナから出ようとするアフリカ系はEUに避難させてもらえないという状況も起きている。ヨーロッパは同じ白人キリスト教徒であるウクライナ人は助けたいのだが有色人種の難民はお断りというわけだ。AUが非難声明を出すまでになっている。

アフリカはいつも援助対象の二等国として扱われてきた。今後も各大国ブロックが彼らをそう扱うつもりなら、おそらくアフリカはアフリカで対抗策を準備するものと思われる。

世界は本当に紛争を防ぐために努力しているのか、それとも優越的な地位を守りたいだけなのか?

結局のところ世界は「欧米が単に優越的な地位を守りたいからロシアを排除しようとしているだけのか」あるいはそうではないのかということを注意深く見守っていると言えるだろう。我々が世界というのは西側先進国のことだが特にアフリカは大国の勢力拡大ゲームからは距離を置きそうだ。

もちろん日本にとってもこれは重要な議論だ。これまでの国連中心主義はもう成り立たない。現実的に世界は国連を除いた集団的安全保障の議論に入っている。日本で言えばこれは日米安保に当たる。つまり憲法第9条の前提となっていた国連中心主義は成り立たなくなりつつある。

岸田総理が掲げる新時代リアリズム外交は実は旧時代幻想外交に過ぎない。常任理事国のあり方が現状を映し出していないのと同じように、岸田総理が特に重要と考える「G7が世界の安全を守り各国がそれに従う」という図式はおそらくなくなってゆくだろう。

いずれにせよ今のままの先進国中心主義や国連中心主義を守り続けることは極めて難しい。国際社会はその次に向けて準備を始めているからだ。我々が直視するしないに関わらず現実はそのように変わり始めている。

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