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プーチン大統領の拡大自殺を止められるのはロシア国民だけ

プーチン大統領がウクライナに侵攻して一週間が経った。当初の予想を裏切りウクライナ市民が素人大統領ゼレンスキーのもとでよく団結しているようだ。ウクライナ市民が時間を稼いで間にプーチン大統領を追い詰める方法がだんだんわかってきた。

それはロシア国民を動かすことである。ロシア人が持っているあるトラウマの感情に訴えかけるべきだということになる。この記事ではそのロシア人のトラウマについて調べることにする。

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この戦争を止め核戦争を抑止するためにはプーチン大統領の戦争執行能力を失わせることが重要である。ただしこれまで時間をかけて準備を進めて来たプーチン大統領を兵糧攻めにするのは難しい。そこでロシア市民を動かしてプーチン大統領を打倒してもらうというのが戦争抑止の有効な手段になる。

第一に重要なのはヨーロッパが結束してロシアとプーチン大統領を経済的に封じ込めることである。幸いなことにスイスが歴史的な大転換をしてロシアの経済封鎖に参加しそうだ。すでにプーチン大統領らの資産が凍結された。プーチン大統領と支援者たちはおそらく迂回路として中国やスイスを使おうと考えていたのではないかと思う。中国はどうにもならないがスイスが参加したことはプーチン大統領と彼を支える富豪たちにとって極めて予想外の出来事言えるだろう。

スイスが長い間守って来た国是を例え一時的にでも放棄したことから、ウクライナ人の抵抗が世界を動かしているということがわかる。ヨーロッパは核戦争で国をめちゃくちゃにされかねないということがよくわかっている。核戦争で荒廃した国で国是にしがみついていても何の意味もない。

プーチンの軍隊を止められるのはロシア人だけ

だがこれはあくまでも間接的な圧力である。プーチン大統領を追い落とすためにはロシア国民に頑張ってもらう以外にない。だがロシア国民にその機運は見られない。

ロシア人は長年の圧政の経験から権力に逆らっても仕方がないと考えている。いっけんバラバラだが危機に結束したウクライナ人とは真逆に、プーチン大統領の強健でバラバラになりそうあところを踏みとどまっているような状態だからである。

ではロシア人に動いてもらうためにはどうすればいいのか。実はロシアの弱点はわかっている。ロシア人は貯金をしないのだ。貯金をしないので仕事がなくなってしまうとごくごく短い時間の間に干上がってしまう。つまり、経済封鎖は割と筋のいいロシア人の追い詰め方なのだということになる。

ではなぜロシア人は貯金をしないのか。二つの理由がある。

  1. ロシアには手厚い年金があり老後の貯金をしなくても食べて行ける。
  2. ロシア人は貯金を信頼しないので資産を買って蓄えようとする。一般社団法人ロシアNIS貿易会・ロシアNIS経済研究所の調査部長である服部 倫卓氏によるとロシア人の貯蓄率は35%しかないそうだ。

ロシア人はなぜ貯金をしないのか

ではなぜロシア人は貯金を信頼しないのか。話は1991年のソ連崩壊時に遡る。日経新聞の記事をもとにまとめよう。ロシア・ベラルーシ・ウクライナの首脳が集まり独立国家共同体を成立させた。ロシアの代表者はエリツィンだった。この時の混乱をプーチン大統領は「20世紀最大の地政学的大惨事」と呼んだそうだ。自己が完全に崩壊するような出来事だったのだろう。

エリツィンを引き継いだプーチン大統領は諜報機関の出身だ。得意の謀略でバラバラな国をまとめる道を選んだ。さらにプーチン大統領以前に幅を利かせていた新興の富豪(オリガルヒ)たちをも力で押さえ込んで行く。

この記事は1990年代の混乱がすっぽり抜け落ちている。国際社会にデビューする以前の話であり重要だとは思われていないのだろう。これがわかる文献もネットにはある。

ソ連末期の経済は完全な品不足の状態にあった。これは第二次世界大戦末期の日本と似ている。だが、エリツィン大統領がが西側にロシア経済を解放した。これも戦後GHQによって市場が解放されたのに似ている。

となると結果も同じになる。「なんでも好きなものを買っていい」となり旺盛な需要が一気に爆発したのである。こうなると起きるのがハイパーインフレだ。92年のインフレ率は2600%だったそうだ。貯金をしていたロシア人たちは財産を失った。

この状態も第二次世界大戦後に日本に似ている。だが、その後、日本とロシアは全く違った歴史的系をたどった。つまり、日本も一歩間違えればロシアのようになっていた可能性がある。

日本とロシアの決定的な違いとは何か

ロシア経済は混乱し「こんな経済ならいっそ逃げ出してしまいたい」という人が増える。エリツィンはこれを克服できなかった。その後を継いだプーチン大統領はこれを策略で押さえつけようとして成功してしまった。

日本は岸信介の下で計画経済が選択されそうになる。ところが岸信夫は日米安保改定で政治生命を焼尽してしまった。おそらくこれは日本にとって幸いなことだった。後を継いだのは大蔵省出身の池田勇人だ。下村治らと闇市経済を観察し「このエネルギーを活かせば国民生活を豊かにできる」と考えて所得倍増計画を思いつく。実際には国民資本を増強しそれをインフラ整備に充てるという作戦だった。

池田勇人らの経済政策の一つに貯蓄誘導があった。日本もハイパーインフレを経験していたがその後政府の誘導策によって逆に貯蓄を盲信するようになった。それは今でも日本の国債を支えている。一方でこれをやらなかったロシア人は貯蓄を信じる習慣が根付かなかった。

結果的に「その日暮らし」になったロシア人

ここまでの経緯を見てみるとなぜロシア人が貯蓄をしなくなったのかがわかる。まずスターリン以来の手厚い年金がある。そして現役世代は貯蓄をしようとしない。貯蓄をしてもコロコロと変わるロシアの政策によって明日の銀行預金がどうなるかの見通しが立たないからである。ところがロシア経済はそれなりに堅調なためルーブル以外の貯金をしておこうという気持ちにもならないようだ。

ロシア人はまとまった金ができると資金ではなく資産を増やそうとするそうだ。このため不安心理があっても好景気という状態になることがあるのだという。高級な車などが売れるのだそうだ。

やるならば強い経済制裁を短期間で

もちろん、2014年のクリミア侵攻後ロシアに対しての経済制裁は行われてきた。ところがおそらくこれはマイルドな危機だと理解されている。そもそも1990年代にこうした危機を経験したロシア人は「強い大統領のもとで耐えよう」と考えるようになるだろう。1990年代をそうしてやり過ごしてきたからだ。

そもそも民衆蜂起の歴史がないので、ダラダラとした経済危機は市民たちを苦しめはするが体制転覆の圧力にまではならない。つまりプーチン大統領には返ってプラスになってしまう。

すでにルーブルが急落し銀行に人々が殺到している。ロシアの中央銀行はルーブルを買い支える方策を封じられているのでそのままハイパーインフレが来るものと思われる。

今50歳くらいの人はもう少し頑張れば年金生活という時期だがソ連崩壊後の混乱も知っている。つまり彼らはこれから何が来るのかということを知っているのだ。市民には諦めの表情が浮かんでいる。これまでもなんども同じような目にあってきており強いリーダーの方がバラバラの国家よりもマシだと自らを納得させようとしてきたのだろう。

その意味では一人ひとりの日本人が抗議の声を上げることは実は非常に重要なことなのである。それを聞くのはプーチン大統領ではない。日本語や英語を理解できる一人ひとりのロシア人に向けて発信しなければならないのだ。それが伝わればロシア人は「もうこの指導者の元ではやってゆけない」と気がつくことになるのだろう。

仮に今回のウクライナ侵攻が終わってもプーチン大統領が残っている限り世界は核戦争の脅威に怯え続けることになる。だから、世界が核戦争に至る狂気を防ぐ道はおそらく地道に声を上げ続けるしかない。

遠回りのようだがこうして世界の指導者たちを動かすために我々は声を上げなければならない。

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