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中立政策の放棄など – ロシアのウクライナ侵攻がもたらしたヨーロッパの決定的な変化

プーチン大統領がヨーロッパを大きく動かしつつある。まさかそんなことをするはずはないという人々の予想を大きく裏切っているからである。中でも中立国が反ロシア化を進める動きが多く見られ今後の展開が注目される。

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スウェーデンとフィンランド

スウェーデンとフィンランドでNATO入りの声が高まっているという。もともとこの二カ国はロシアとヨーロッパとの間の戦いに巻き込まれることを恐れてきた。フィンランドは中立志向が強かったが、ところがフィンランドがロシアからNATO入りはするなと圧力をかけられたことで返って「自分たちのことは自分たちで決めたい」と反発を強めている。過半数がNATO加盟を支持という世論調査も出た。

スウェーデンはゴッドランド島に軍隊を展開してロシアを警戒していた。ウクライナ問題を他人事ではなく自分たちへの脅威だとみなしていることがわかる。スウェーデンにとって他国に武器を供与しないというのは国是だったそうだ。その国是を破ったことが話題になっている。

スウェーデンとフィンランドが直ちにNATOに加盟することはないのかもしれないが軍事的連携は強まるのではないかと考えられる。今回の衝撃の大きさがよくわかる。

スイス

スイスはもっと歴史的な大転換を選択した。どの国にも加担しない永世中立国だがその看板を下ろしてロシア制裁に加わることにしたのだ。ロイター通信が詳しく伝えている。ロシアのプーチン大統領、ミシュスチン首相、ラブロフ外相が直ちに制裁対象となった。おそらくプーチン大統領はあらかじめ制裁逃れの対策を講じているものと思われるがまさかスイスが制裁に加わるとは思っていなかったのではないだろうか。

デンマーク

自国民がウクライナの義勇兵に参加することを容認した。国としては直接介入できないがというわけだが、自国民というのがポイントだろう。ゼレンスキー大統領は国際義勇軍を呼びかけている。国際義勇軍に発砲すると送り出し国に銃を向けたことになってしまう。

ちなみにだが日本は「できればウクライナにはゆくな」と言っている。自衛隊で訓練をした経験があるような専門家が対象だが、ウクライナ政府筋によると「複数人から問い合わせをいただいている」そうだ。ちなみに日本もデンマーク同様に義勇兵入りを妨げる法律はないようだが、ウクライナが負けた場合「テロリスト」として処断される可能性はある。極端な軍事費削減を選択したウクライナでは、すでに軍人と非軍人の境目は曖昧になっている。ウクライナ政府が義勇兵をどのような処遇で扱っているかについて詳しい情報はなかった。

ドイツ

ドイツではメルケル後にリーダー候補が見つけられなかったため左派の連立内閣ができた。ところがこの内閣が今軍拡に動き始めている。議会の中からは反対する声が出ているそうだ。

BBCは(慎重さで知られる)ドイツがこれほど劇的に外交・防衛政策を転換させることはなかったと書いている。しかも緑の党の前進は平和運動なのでこのインパクトは実はかなり大きい。

保守政党が同じことをやればおそらく左派は反対したのだろうが、今は政権担当当事者である。つまり突然の方針転換に反対の声は出るだろうが決定的にこれを妨害しようとする人たちはおそらくいないだろうということがわかる。

  • 連邦議会の緊急審議で、ショルツ首相は2022年予算から1000億ユーロ(約13兆円)を国防費に追加し、連邦軍の装備強化などに充てると報告
  • 国防費を国内総生産(GDP)比で2%以上へと大幅に引き上げると確約
  • ドイツがウクライナに武器を直接供与する方針

日経新聞も敗戦国であり平和を希求する気持ちが強いドイツの変貌ぶりに驚いている。NATOへの脅威が高まっているため域内全域に貢献することになるが、後々この判断を巡って問題が起きる可能性もある。

ウクライナ

最も大きな進展があったのはウクライナだ。仮にゼレンスキー大統領がすぐさま国外に逃げ出していればこんなことにはならなかったのだろうが、EUも同義的にウクライナを見捨てられなくなった。フォンデアライエン欧州委員長(行政のトップなので国であれば首相に当たる)がウクライナのEU入りを容認した。ゼレンスキー大統領はすぐさま申請書に署名し正式に加入プロセスが始まった。ただし、のちにEU側は「直ちに」というつもりはなかったといつもの優柔不断ぶりをのぞかせた。あくまでも連帯の気持ちを示すジェスチャーだったというわけだ。

ゼレンスキー大統領の要望はウクライナがNATOに入り主権が保護されることだった。だがEUとNATOはほぼ不可分の関係にあるためEU入りするとNATOの保護が受けられるようになる可能性も出てくるそうである。

ただしウクライナがすぐにEUに加盟することにはならないだろう。加盟には長いプロセスが必要であり、ウクライナ側の法的整備も必要だ。そもそも単なるジェスチャーでありEUにそのつもりがあるとは思えない。

逆に歴史を一歩進めてしまうことになった

プーチン大統領はそもそもウクライナが「西側」に付くことを恐れていた。そこで武力で脅して西側への接近をあきらめさせようとしていたわけだ。だがそのやり方は却ってヨーロッパの反発を生み結束が進んでいる。

ロシアをEUの潜在的な敵国から本物のヨーロッパの敵に格上げしててしまったのだ。

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