ついにロシアのプーチン大統領がウクライナの二州を「国家承認」した。今回はアメリカが最初から「参加」していたこともあり、いろいろ終わったものが多い一方で何か新しいものが始まってしまった。一言で言えば新しい物の名前は混沌である。
ミンスク合意が破棄されノルマンディフォーマットが崩壊した
一番小さな崩壊物はクリミア半島併合をきっかけに作られた国際調停の枠組みだ。
ヨーロッパはウクライナが取り込まれないように「将来のNATO入り」というおそらく守るつもりのない約束をしていた。これが正式にロシアからブリーチされて破綻した。ウクライナ調停の枠組みがなくなったため、新しい調整のスキームができるか、あるいは武力衝突になるのか、あるいはヨーロッパが見過ごすのかという選択肢が残ることになった。だがアメリカが参加していることもあり見過ごすというのは難しくなりつつある。ロシアはフランスが「アメリカとロシアの間を調停する」としていた取り組みを待たなかった。
おそらく最初から聞くつもりなどなかったのかもしれない。
ピボット国家戦略が破綻した
例えばユーゴスラビアのチトー大統領がとった路線が完全に成り立たなくなった。チトー大統領の戦略とは大国の間でバランスを取り仲間を募り独自の道をゆくというものだ。
ベラルーシもヨーロッパとロシアの間でバランスを取ろうとしてきたのだが失敗しロシアに併合されかけている。ウクライナのゼレンスキー大統領も同じようなことをやろうとしていたがヨーロッパの支援は得られなかった。ゼレンスキー大統領はこれからもウクライナのNATO入りを訴えるだろうが火薬庫になったウクライナをヨーロッパが救うとは考えにくい。
こうした戦略をピボット戦略という。これが成り立たなくなった。かつてのように大きな国が固定的に睨み合うというスキームが完全に崩れてしまったからである。今回はアメリカとヨーロッパも一枚岩ではないし、ヨーロッパの中でもイギリスと大陸では態度が全く違っている。
国連が第二次世界大戦以来作ってきた安全保障体制が完全に崩壊した
これまで戦勝国連合が直接紛争抱えるということはなかった。朝鮮戦争もベトナム戦争もイデオロギーが同じという人たちが背後から支援しているだけだった。シリアでも常任理事国は当事者ではない。
だがロシアはウクライナ東部にロシア系住民がいる。彼らを救済するというのが目的になっている。
同じような事例に台湾情勢がある。台湾の場合の当事国は中華人民共和国である。国共対立は第二次世界大戦の「残り物」なので状況はもっと困難なものになるだろう。
前回のクリミアの時にはアメリカが消極関与することで直接衝突は避けられた。ところが今回はバイデン大統領が積極的に口先介入を繰り返していたため「ほぼ当事国」として関与することになる。アメリカ国内でのウクライナ情勢への関心は高くないそうなのだが攻撃材料として政局に利用されることになるだろう。バイデン大統領はトラブルを処理するといっているが実際には問題を作り出している、このままゆくと、アメリカはウクライナ情勢に介入せざるを得なくなるだろう。つまり、米露が直接対立しそれにヨーロッパと日本が巻き込まれるというスキームが作られてしまったことになり、状況次第では台湾海峡に飛び火することになる。
日本の安全保障議論に与える影響
日本は安倍政権下で集団的自衛についてテクニカルな議論が繰り返されてきた。霞が関の常識では「行動には一貫した整合性が必要とされる」ということになっているからだ。多くの識者たちや政治家たちがこの論戦に参加してきたがこれが内輪向けの自己満足のための議論でしかないことがわかった。
今回はどちらも先制攻撃を仕掛けたと言われることを避けてきたが実際には紛争が起きている。つまり、実際には小さな対立を起こしつつ宣伝戦を通じて意味付けをするわけである。
日本が霞ヶ関的な意味づけに腐心してきたのは「国際社会」という一体の存在があるというありもしない前提を置いてきたからである。今までも実際にはそんなものはなかったのかもしれないのだが、これが完全に崩壊したということが明白になった。
おそらく今後行われる敵基地先制攻撃の議論も「実際には意味がない」ということがわかったままで進むことになるだろう。あくまでも事後解釈の問題なので実践では意味をなさないのである。