ウクライナ情勢で緊張が続いている。日本ではプーチン大統領がウクライナの無辜の市民を圧迫しているという単純なストーリーが語られるようになる一方で、それはアメリカ側がでっち上げた話なのだという人もいる。そうこう行っているうちについに東ウクライナ(ルハンスクと書かれているが実際にはルガンスク州と訳されることが多い。またルガンスク)にいる親ロシア勢力がウクライナ政府軍から発砲を受けたと騒ぎ出した。金融市場は大騒ぎになりリスクオフの動きが起きているそうだ。ドル円・ユーロ円がともに急落している。日経平均も午後1時ごろに250円以上下落したそうだ。噂だけかもしれないのだが金融市場に対するインパクトの大きさが伺える。
この動きはそのまま戦争に突入するのだろうか。その鍵はおそらく欧米がウクライナを説き伏せて「ミンスク合意」を実施するかにかかってくるだろう。金融動向を見るためにももう一度基礎的な状況を整理して起きたい。今回のニュースはウクライナ軍のミンスク合意違反と報道されている。
この「ミンスク合意」についてもう一度おさらいしておこう。2014年のクリミア併合とウクライナ東部独立という危機に対して結ばれた協定だ。日経新聞がまとめている。
- ミンスク合意には結局守られることがなかったミンスク1とミンスク2という合意がある。
- ミンスク2は、ロシア、ウクライナ、欧州安保協力機構(OSCE)の代表者と親ロシア分離勢力の支配地域の指導者2人によって調印された。国連安全保障理事会のお墨付きも得た。
- ところがこの実施を巡ってウクライナが異議を申し立てている。「ノルマンディー方式」と呼ばれるロシア、ウクライナ、フランス、ドイツ4カ国による協議が行き詰まっているのだ。ウクライナは他の当事者がウクライナに不利な条件を強要したと言っている。
合意ができない理由は少しわかりにくい。ロシア側はウクライナの一部地域を独立させるか二重国籍者を認めたい。今回攻撃を受けたとされているウクライナ東部の親ロシア勢力は独立を要求している人たちである。一方でウクライナはウクライナ領土は一体として保全されるべきで「特別な地位の地域」ができたとしても独立した地域やロシアとウクライナの両方に帰属する人を作りたくないと考えている。
これはおそらくウクライナがクリミア半島を取られたところからくる不信感が根本にあるのだろう。一時はウクライナの一部だと見なされていたクリミア半島は「ロシア系住民保護」という名目でロシアに接収された。ウクライナはこれ以上国家を蚕食されたくない。
今回起きたことはこのクリミア半島の事例によく似ている。普通に考えると東ウクライナの市民を助けるためと称してロシア側が介入する可能性が高い。ヨーロッパがこれを認めなかったりウクライナ政府が抵抗すればおそらく戦争は長引くだろう。
おそらくヨーロッパ側は「面倒がなくなり戦争が避けられロシアから天然ガスを買い続けたい」と思っていた。そのためにロシアとの合意を急ぎすぎたのだろう。その軋みが今吹き出しているということになる。
ここでふと「モスクワからはどう見えるのだろうか」ということが気になった。第一にモスクワはヨーロッパ側にとても偏った位置にある。その向こうには黄色の点で描かれた地域がある。これがすべてロシアを敵とみなすNATOだ。このためモスクワはベラルーシの政権を抱き込みグルジアにも二つの親ロシア政権を作った。さらにモルドバにも沿ドニエストルというミニ国家ができている。つまり防波堤のようなものを作っている。ウクライナはこの防波堤から東に十分に張り出した地域にある。
だからロシアにとってウクライナ地域に防波堤を増やす意味は大きい。NATOを牽制する壁として利用できるからだ。
ロシアは東側にも同じ構造を抱えている。それが日本と韓国だ。この脅威を守っているものは日本海と朝鮮民主主義人民共和国だ。ロシアは西側にも小さく独立した朝鮮半島をいくつも作っていると言える。
いずれにせよロシアは東西をアメリカの同盟国に囲まれた形になっておりそれを脅威だと感じている。
一方でヨーロッパはこれ以上NATOを拡張させたくないのだがロシアのサテライトも作りたくない。そこでロシアに侵食されつつある地域に「いずれは仲間に入れてやるから」という約束をしつそれをずるずると先延ばしにしてきた。「期待感を抱かせて離反を防ぐが実は仲間に入れたくない」という時間稼ぎの政策は対トルコに対しても取られていた。トルコはついに民主主義勢力から離反し新しいプレイヤーになりつつある。
ヨーロッパのパワーゲームが意外とその場しのぎであることもわかる。このその場稼ぎの政策が今崩れつつあるのだ。今後の展開に注目する必要があるだろう。