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ウクライナはロシア勢に取り囲まれている

プーチン大統領にとってこれはチェスなのかもしれない。BBCのウェブサイトをチェックしていたら「ロシアが演習の一部を終了する」という報道があった。記事の主旨は「緊張緩和かもしれないがウクライナ側は撤退が終わるまで信じていない」というものだ。だが別のことが気になった。ウクライナはロシアに取り囲まれているのである。BBCの記事にある図表がチェス盤のように見える。

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これは文章で説明するよりも図を見た方が早い。出典はBBCなので記事はこちらからチェックしてもらいたい。

まず。親ロシア国家のベラルーシが北にいる。大統領はプーチン大統領のいうことならなんでも聞くという独裁者だ。

キエフのほぼ真北にはロシア領が張り出していていつでも展開できるようになっている。

さらに東には先日お伝えした「ロストフ州とロストフ・ド・ナヌ」がある。トラス外務大臣がロシア領だと知らなかった地域である。ここにもかなり大きな軍の展開がある。ドン川の河口付近にあり軍事的な要衝であることがわかる。ロシア領内なのでイギリスは文句が言えない。

さらに南のクリミア半島もロシアに抑えられている。クリミアはもともとイスラム系のクリミア汗国があったところだが軍事拠点だったためにロシア帝国が大量のロシア系移民を送り込んだ地域だ。ソ連時代に地理的な要因からウクライナの一部となったがソ連は一体だったので特に問題にならなかった。つまりクリミア半島はロシアのものでもウクライナのものでもなかった。いずれにせよこの地域は2014年にロシアに併合された。併合というのは西側の見方でありロシア側は「ロシア系市民の要望にロシア側が応えた」と理解している。

地味に見逃せないのはモルドヴァである。モルドヴァはもともとルーマニア系の国だ。モルドヴァ語は政治的にルーマニア語と区別されているだけである。そしてルーマニア語はラテン語の一種なのでイタリア語の親戚だ。この国もヨーロッパへの接近を図っている。もともとラテン語圏なので当然と言えば当然だ。だがここにもなぜかロシアの軍隊がいる。

実はモルドヴァの一部にはロシア系の住民が多く汎ドニエストルという別の国ができている。トランスニストリアという別の名前もある。この小さな点がウクライナを取り囲む上で重要になっている。いざとなればキエフを挟み撃ちにできる。さらにモルドヴァが過度に西側に接近しないための楔としても機能している。

このトランスニストリアは日本に国家承認されておらず従って存在を知らない人が多い。しかしルーマニアにとっては大問題だ。NATOは今回の緊張を受けてルーマニアにNATO軍を増強させるための検討に入った。

このことからいくつか重要なことがわかる。

  • プーチン大統領はチェスのように継続的にウクライナを取り囲む作戦を遂行してきた。長期・独裁政権ならではである。
  • 小さな拠点でも軍事的には重要な意味を持つ。小さな拠点を置いておくことで周囲を威嚇することができるのだ。
  • 地域にはいくつか分断国家がありそれぞれ軍事的な役割を担っている。

今回西側は「外交的な勝利」を宣伝すると思うのだが、実際には域内に分断国家がまた誕生することになりそうだ。ロシア議会はウクライナ東側の二カ国を国家承認するように求めている。つまり、プーチン大統領は戦争をすることなくウクライナを朝鮮半島化しつつあると言える。西側はおそらく「ロシアの国家承認を認めない」ことでこの現実を直視しない道を選ぶことになるだろう。

朝鮮半島と書いたが実際には複数の朝鮮半島がまだら模様に広がっている。主権国家体制はかなり大きな危機にさらされていると言っていい。ロシアに蚕食されているのだ。

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