実際に何か始まりそうな機運になって来た。ウクライナの話だ。ネトウヨ系情報収拾ツールでは「ロシアのプーチン大統領がウクライナを支配しようとして戦争の準備をしている」ということになっているのだろう。日本人には遠い地域の話なのでアメリカについて行けば大丈夫だと考えている人も多いのではないかと思う。だがいろいろ話を聞いているとロシアは以前から入念に準備をして来たようである。動きが一貫している。
よく左翼を挑発する時「憲法第9条をお題目のように唱えていれば戦争は防げると思いますか?」などと言われることがある。だが実際には「日米同盟さえあれば日本は大丈夫だと思いますか?」というのも同じようなものである。実際にはどちらも信仰に過ぎないのだが左右対立にとらわれてしまうとここから抜け出せなくなる。
問題点は民主主義国の政策があまりにも場当たり的に過ぎるというところにある。国民や議会の支持を取り付けなければならないという事情もあるのだろうが、指導者たちも長期的な視点を持ちにくくなっているようだ。能力の点でも意欲の点でもロシアに負けている。民主主義固有の問題というより我々はあまりにも多くのものを持ちすぎており油断しているのだろう。
ソ連崩壊以来ロシアは自国を敵に取り囲まれてきたと感じている。西側ではその壁がどんどんモスクワ側に近づいてきている。プーチン大統領はそれを押し返したい。そこで入念な準備を積み重ねてきた。BBCの指摘によるとウクライナ情勢をめぐってはかなり継続的に情報操作に取り組んできたようだ。
さて、ウクライナの情勢が日本にも飛び火しそうだ。北方領土の近く(ロシアは一体的にクリルとしか言わない)でアメリカの原子力潜水艦がロシアの領海に入ったところを捕捉された。ロシア側は警告したようだが警告を無視して逃げていったという。突発的な出来事のように思えるが「裏側の警備を盤石にしてウクライナ情勢に備えたいのだ」と指摘する人がいた。なんでも聞いてみると教えてくれる人がいるのだ。
もちろんこれはロシア側の発表によるものだ。アメリカ側は一切を否定している。「どこで何をしているのか」は秘密なので教えられないという。こちらはこちらで理解できる話だ。だが、隠密偵察なので見つかってしまえば意味がなくなってしまう。つまりしばらくはアメリカの潜水艦はこの地域で偵察活動ができないということになる。
もちろん表向きの効果もある。現在「ロシアがウクライナを侵略しようとしている」という英米のキャンペーンの反論として実はアメリカもロシアを狙っていますよと主張できる。領海に侵入するというのは主権を脅かす行為だからである。
だが調べてみると実は軍事演習はかなり頻繁に行われている。検索して見たがちょっと調べて動向がわかるような数ではなかった。
まず2月に演習が行われたという情報がある。次に6月24日から25日あたりに1万人演習が各地で行われていて北方領土もその対象地域に入っている。7月には日本のEEZを含む領域(大和堆の北と書かれている)でミサイル演習が通告されている。さらに9月には一方的に北方領土で経済特区が宣言される一方で8日にクリル諸島で500人の演習が行われたそうだ。さらに10月3日から9日にかけても日本のEEZを含む地域でミサイル演習が通告された。国後島でも軍事演習が行われた。この時は例外的に極東戦力が公開されたそうだ。さらに12月16日にも北方領土で射撃訓練が行われ2022年1月に入って「1月から2月にかけて10,000人演習をやる」と言っている。
結果的にウクライナが表玄関で日本海が裏ということになっているが、おそらく緩衝地帯という意味ではロシアにとって同じような意味があるのだろう。一連の北方領土交渉で日本はこの点を終始間違えてきたしそもそも考慮すらしてこなかった。日本は単に北方領土が戻って来れば相手のことはどうでもよかったのである。
だが日本海情勢が緊迫化すると日本は慌て出す。
今年2022年の2月になって日本、米国、韓国の外相はホノルルに集まり北朝鮮のミサイル演習に断固として対応すると宣言して見せた。確かに頼もしい感じがするのだが実際には主権国家である北朝鮮のミサイル演習を止めることはできていない。つまり憲法第9条も日米同盟もなんの役にも立っていない。
ロシアも日本海でミサイル演習をやっているのだからそもそも日本海は演習場のように使われていることになる。この理由がわからない上に相手を理解しようとする気持ちもないため「ロシアが攻めてくるのではないか?」などと勘ぐる人が出てくる。
どんなミサイル演習をやっているのだと思ってみた。「マルシャル・シャポシニコフ」が最新鋭の対潜水艦ミサイルの発射演習を行ったのだそうだ。つまり原子力潜水艦などを念頭に防衛と牽制のための演習をやっていることがわかる。と同時にミサイルと言っても北朝鮮が実験しているような長距離型のミサイルではないようだ。
Reutersもビデオを出している。「カリブル」という潜水艦から1,000キロ離れたところに巡航ミサイルを飛ばしたということなのでポイントを指定してEEZを避けながら訓練はできないのだろうということがわかる。
ロシアが日米同盟を裏庭に入ってくる現実の脅威だとみなしていることがわかる。NATOが表とすると日米同盟は裏庭なのだ。長期的な信頼関係を築きたいロシアから見ると日米欧というのはどこか信頼が置けない他人のような存在だ。NATOとの間の緩衝地帯としてウクライナが問題視されているわけだが極東では日本海からクリル(千島列島)あたりまでが同じような懸念地域として捉えられているのだろう。
日米同盟安泰論に乗る人にとってみれば習近平やプーチンには独裁者としての野望があり世界支配を虎視眈眈と狙っているのだろうということになるのだろう。一方でこれまでアメリカを中心とする平和が実はアメリカの軍事力を背景に周辺国を萎縮させるだけの戦略だったのだという見方もできる。
我々が今まで長い間アメリカを中心とする世界平和の恩恵に預かってきたことは紛れも無い事実である。だがそれが今変わりつつある。日本人が結束して対応するためには岸田政権が状況を分析した上で説明をしなければならない。この時に「以前ほど日米同盟は頼りにならない」という状況を説明する必要がある。ともすれば「アメリカに頼ればいいではないか」という意見が出てくることは火を見るよりも明らかだからだ。
一方、国連中心の平和主義がもはやおとぎ話としても成り立っていないことも同じように明らかである。憲法第9条でこうした状況を打開することはできないしましてやアベ政治を恨んでみても安全は確保できない。
よく政治状況を見る時「あの人は右だ」とか「あの人は左だ」などと決めつけることがあるのだが実際にはどちらも時代遅れの歴史観・世界観になっているということを我々は知るべきだろう。ただ不幸なことにこの「右翼・左翼」という世界観があまりにも強固なため日本の安保議論はここから抜け出せていない。ここから脱却するために我々ができるのはおそらくある種の塊を作りかしかした議論の環境を作ることだ。