アベノマスクの騒ぎがおさまらない。保管料にお金がかかると言われていたが今度は「配送料に10億円かかる」というのである。こうしてどんどん請求書が積み上がってゆく。この10億円の根拠は何なんだろうか?と思い調べて見て驚いた。実は何の根拠もない数字なのだ。おそらく議論に参加している人もあまり経緯は知らないのではないかと思いまとめてみることにした。
まず話は「2億8000万枚」に遡る。実はこの根拠をよく知らなかったので朝日新聞の記事を改めて読んで見た。どうも厚生労働省がフォームを作って希望枚数調査をやったらしい。電話番号にも誤記があるようだし住所が実際のものかもよくわからない。さらに2億8000万枚も単なる「推計」なのだそうだ。このまま申し込みが続けばだいたいに2億8000万枚くらいになるだろうという数字に過ぎない。
この話は安倍元総理が「実は人気があった」とか「もっと早くやればよかった」と自慢したことで政局になってゆく。安倍元総理には根強い支持者とアンチがいる。
最初に厚生労働省に数字を確認したのは西日本新聞だった。三つのことがわかる。
- 西日本新聞は政府関係者にも確認している。つまり、厚生労働省が勝手に新聞社に数字を伝えたわけではない。
- 厚生労働省は精査中なのでよくわからないと答えている。つまりよくわからない数字を「えいや」で出したことになる。
- この時点で「10億円」という数字のインパクトに気がついた人は政府にはいなかった。他人のお金なので10億円が高いか安いかを判断できなかったのだろう。
これが騒ぎになったのは10億円が国税の浪費だなどと言われるようになったからだが、背景にあるのは安倍元総理に対する一部の国民の深い恨みだろう。アベ政治に一貫して反対してきた東京新聞も予定通りに反対し国会でも騒ぎになる。
ここでようやく在京局が重い腰をあげた。テレビ朝日が取材した。そもそもフォームの申し込みの中身を精査しているわけではないし誰に何を何枚配るのかも決まっていないのだそうだ。そもそも全員の希望に応えるとマスクが足りないために増産しなければならないから調整も発生する。ただ後で「配送費を少なく見積もった」と言われると困るので10億円という数字を出したところそれが大騒ぎになってしまったという顛末だったようだ。
1億枚といういたずらの申し込みもあったそうだからかなりの虚偽申請があるはずだ。37万件の申し込みに「これは実在の住所なのか」などと確認をかけていたら事務経費がいくらあっても足りないだろう。最終的に後藤厚生労働大臣は「詳しいことはまだ決まっていないから10億円になるかはわからない」として数字そのものを否定した。
これだけを切り取ると単なる笑い話で済む。だがどうしても「この10億円で困窮者が救えるだろうな」と考えてしまう。新型コロナで生活が困窮する人は増えている。
政府のコロナ対策がなし崩しになり「とにかく怪しいから会社にくるな」という人が増えている。ところがこうした人たちに食料を届けることもできなくなっているので「買い出しくらいは別にいいのでは?」と考える自治体も出てきているそうだ。神奈川県は自宅療養者の買い出しを「容認」することになった。彼らのうち一部はスーパーなどでコロナウイルスを拡散することになるだろう。コロナを本気で防ぎたいなら地方自治体にも支援は必要だ。政府のお金の使い方はどこかバランスを欠いていてずさんである。
一方で「お金を取る」方は厳しく弱者から取り立てている。現在消費税が免除されている事業者が消費税を納めなければならない事態に陥りそうだ。2023年10月に制度が変わる。
実はインボイス制度で下請けフリーランスが仕事を失う危機にさらされている。これまで1000万円以下の所得しかないフリーランスは消費税納税が免除されてきたのだが消費税を納めなければならなくなりそうである。先の話でもあり制度もかなり複雑なのであまりインパクトが知られていないが税理士ドットコムが詳細をまとめている。一部省略してまとめた。
- 現状、免税事業者の取引先は「免税事業者から仕入れた」ということを帳簿に記入すれば仕入れ税額控除を受けることができる。
- 2023年10月1日からは、仕入れ税額控除を受けるための要件が変わる。
- 新制度では売り手が発行するインボイスがなければ、買い手は仕入れ税額控除を受けられない。仕入れ税額控除が受けられない場合、事業者は売り上げにかかる消費税を全額納税しなければならず、負担が大きくなる。
- このため免税事業者であるフリーランスや零細事業者は、取り引きが打ち切られる可能性があるとされる。
- 免税事業者がインボイスを発行するためには、課税事業者になる必要があるが、その場合はこれまで免除された消費税を納税しなければならないため、手取り収入が減る恐れがある。
要するに免税事業者の数を減らそうと財務省が誘導しているのである。使う側の厚生労働省は10億円くらい安いもんでしょうと考えているが取り立てる財務省は法律が免税を認めている人からも取り立てられるように制度を変えようと虎視眈々と準備を進める。企業と取引したいなら免税でなく消費税納税を選びなさいよという制度変更だ。
税の取り立てが厳しくなる一方で、使う側は節税意識を全く持っていない。さらに、彼らが優先しているのは国民生活の向上ではなく党派性や大物政治家の面子だ。前回見た自民党保守派の議論もその一環だ。困窮している子どものことは目に入らない。彼らはただリベラルが得点するのを妨害しようとしている。この国ではこうした妨害行為に保守思想という名前をつけていることになる。
政治を知らないというのはつくづく怖いことだなあと思う。こうした事情を総合的に見ないとたんに「10億円が高いか安いか」という議論をやって話が終わりになってしまう。いつまでたっても政治のお金の使い方がちぐはぐでいい加減だということに気がつくことができないのだ。