ざっくり解説 時々深掘り

子どもの人権向上に抵抗する自民党保守派と高市早苗政調会長

今一部でホットな議論がある。それが子どもコミッショナーの設置だ。現在の児童相談所では児童虐待が防ぎきれないと考えた政府が第三者機関を作って子どもの人権を守ろうとしている。

だが、自民党の一部議員たちがこの子どもコミッショナーの設置に反対している。日経新聞が次のように書いているのだがどうも要領を得ない。

「自民党の有志議員でつくる「保守団結の会」は2日、党内でこども家庭庁に関する勉強会を開いた。議題に「誤った子ども中心主義」「子どもコミッショナーの問題点」などを盛った。高市氏も出席した。」

こども家庭庁、調査・勧告機関設置 自民が議員立法検討

そこで保守派の人たちのマインドセットを調べてみた。彼らは極端なゼロサム思考に支配されているようだ。つまり子供の人権が拡大すると大人の人権がしぼむと考えているようなのである。

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保守派が好むような乱暴な議論になってもいけないので丁寧にみてゆこう。まず岸田政権は参議院選挙を意識して家族関係の法律を見直そうとしている。Quoraで主催している政治スペースでは水曜日にこうまとめた。

  1. 離婚後一定期間は前夫の子と推定する嫡出推定制度が見直される。嫡出と言われるように子供を産む道具である妻が「家の財産」である子供を持って逃げるのを防ぐために作られた法律だろうと思う。明治時代に作られた法律である。
  2. また親が持つ懲戒権も見直される。懲戒という言葉がしつけではなく「懲らしめる」という位イメージになるのが好ましくないということのようである。

二番目については増え続ける家庭内暴力への介入ができるように新しい専門機関を作ろうという動きがある。それがコミッショナー制度である。以前「児童相談所には権限がないのでどこか他人事になりがちだ」という話を読んだことがある。権限を与えることで責任を持って取り組んでもらおうという取り組みはたとえ選挙目当てであったとしても評価していいのではないかと思う。

だが自民党の保守の有志がそれに反対しているという。

今回「批評」のために「誤った子ども中心主義」の中身を探してみたのだが目立った議論は見つからなかった。おそらく家父長制が意識されており父親の権限さえ強まれば家庭の問題は全て解決するはずだというところが出発点になっているのではないかと思った。

日本の保守の人たちは家父長以外の権利が増すことに嫌悪感を持っている。最近の事例では伊藤詩織事件などが思い出される。日本は男性が支配する国であるべきで権利の拡大を言い立てる女性は「騒ぎを起こして体制を打倒しようとするテロリスト」のような扱いを受けてしまう。おそらく今回も子どもの権利が伸びるとか不調の権利が縮小すると考えていうのだろう。

これに追随する人は伊藤詩織さんやその支持者を罵倒して意見を聞かないことで自分たちの意地悪根性を満たして悦に入っている。他人の権利を認めないことだけが喜びになっているのだ。

自民党だけでなく保守と呼ばれる人たちのメンタリティを見ているとこうしたゼロサム思考に陥っていると感じることが多い。つまり尊敬という総量が決まっていて誰かに与えると自分の持ち分が減ってしまうのだ。田畑を潤す水のように一定の資源量しかないと感じてしまうのだろう。さらに他人を認めないことで自らの力を再認識するようなところもある。

尊敬というのは相互的なものでありその送料はいくらでも増やして行ける。自分が相手に敬意を示せば相手も自分に敬意を持って接してくれるからだ。だが保守の思想にはそうした考え方はない。だから相手から奪うという方向にしか思考が発展しない。

高市早苗政調会長はこの件に関して目立った発言はしていない。選挙を控えて子供や女性の権利を侵害するようなコメントが「トク」にならないと感じているのでは?と思った。

保守派は例えば夫婦別姓などを導入すると日本の戸籍制度や家族関係が崩壊すると言っている。では、この保守の人々のもとで日本人の家族意識や戸籍制度が守られているのだろうか?ということになる。実は戸籍制度は崩壊寸前だ。母親の名前も知られているのに戸籍に記載されない最初の事例が起きようとしている。

内密出産という。世間に公表されないだけでなく公式にも誰が母親なのかという記録が残らない初めてのケースである。

この女性は子供の父親に知られずに出産したかった。そればかりか女性の両親にも知られたくないという。そのため内密出産が選択された。病院は母親の名前を書かない戸籍を申請すれば罪に問われるかもしれないということを知っていた。また母親のない戸籍が将来子供に影響を与えることもわかっているようだ。このため法務局に問い合わせをしさらに一ヶ月間母親の気が変わるのを待っていたそうだ。

法務局からの返事はなく母親の気が変わることもなかった。

この人の事例を見ると「戸籍という形はあっても家族という実態はとうの昔に崩壊している」ことがわかる。さらにそれが戸籍そのものの形骸化にもつながりそうだ。母親は身元を隠して子供に会いたいと考えているそうだ。ほんの僅かな可能性ではあるが将来的に母親として名乗りをあげる可能性がある。だが、これは事実がわかっていてなおかつ母親本人も知っていながら「母親不詳」として扱われる戸籍が生まれることを意味する。そしてそれは今後増えてゆくだろう。

だがこれで「産み捨て・乳児遺棄・乳児殺し」で犯罪者になる母親が救われる。さらに生まれてきた赤ちゃんの命も社会によって保護してもらえる。つまり戸籍制度よりももっと大切なものがある。戸籍は国民の人権を守るためのたんなる道具だ。

今回の母親は病院が犯罪者になるかもしれないリスクを引き受けることで救われたことになる。

保守派は現実には興味がない。彼らが興味があるのは虚構の戸籍と家族制度だけである。だが、彼らの声が聞こえてこないのでなぜ彼らが頑なに子どもの安全を妨害したがるのかがわからなかった。

1日経ってようやく時事通信が議論の内容をまとめてくれた。やはりここにもゼロサム思考があった。相手の言い分を1mmでも認めれば自分たちの権利が全て奪われると信じて疑わないのである。だが戦っている敵はもっと大きなものだ。

  • 4日の実現会議では、城内実氏が同制度について「個人を大事にし、それを拘束するものは悪であるというマルクス主義思想があり、制度を作ったらそういう人たちばっかりだったみたいなことになる」と主張。
  • 山谷えり子元拉致問題担当相は「左派の考え方だ。恣意(しい)的運用や暴走の心配があり、誤った子ども中心主義にならないか」と訴えた。

つまり子どもを児童虐待から保護するとマルクス主義になって日本がたちまち共産化されると信じていることになる。彼らにとって重要なのは国民の権利保護ではない。マルクス主義と戦い続けることなのである。おそらく彼らから言わせると岸田総理のリベラルな宏池会も広い意味では共産主義なのであろう。

日本の保守と呼ばれている人たちが誰のために何と戦っているのかはさっぱりわからないが高市早苗政調会長がだんまりを決め込んでいる理由もわかる気がした。これは擁護が難しいのではないだろうか。

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