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なぜ2年経っても岸田総理は「必要な医療物資が足りない」という状態を改善することができないのか?

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NHKの日曜討論を最初の部分だけ見た。すでに新型コロナウイルスの流行が始まってから2年が経つのだが、まだ「検査キットが足りない」というようなことを言っている。高市早苗政調会長は「市場には検査キットがあることはわかっているのだがどこにあるのかわからない」と主張した。アベノマスクの時と同じ言い訳を繰り返しているのである。なぜ2年経ってもこの状態が解消しないのかと思った。

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第一の理由は当事者意識の希薄さだ。高市早苗政調会長は「政府はいざとなったら緊急事態宣言を躊躇なく出すのではないか」と主張していたが、のちに田崎史郎氏に「勝手に言っているだけだ」と否定されていた。岸田総理も「東京に緊急事態宣言を出す予定はない」との立場を表明した。自民党の政策責任者に聞いているのかあるいはそうでないのかがよくわからないのだから日曜討論自体があまり意味のない番組になっている。

小池百合子東京都知事は病床使用率が50%になるのを目前に「国がお決めになることですから判断を注視します」と語った。注視するというのは黙って見ているという意味である。さらに、病床使用率が50%と言っても中等症・軽症など色々あるから総合的に判断するとも語った。総合的に判断というのは一度提示した基準を曖昧化するためのいわば「嘘」である。

ただこの小池都知事の発言主旨の意図はよくわからない。岸田総理も「緊急事態宣言を出すつもりがない」と語っている。誰が責任者なのかわからないまま大阪は「ウチはもうすぐ要請しますよ」と主張した。

結局、誰が何を決めるべきなのだろうか。当事者の話を聞いていてもよくわからないしマスコミも教えてくれないので法律を読んでみることにした。

法律を読むとまん延等防止等重点措置の計画立案主体は都道府県と市町村になっている。つまりまん延等防止等重点措置の方策に何も効果がなかった場合責任を負うべきは地方自治体である。

だがおそらく都道府県知事の中にはそう思っていない人がいる。「まん延等防止等重点措置」の人流抑制に効果がないから申請しないなどと言っている。

NHKのある記事のリードは、鳥取県の平井知事は、「まん延防止等重点措置」が飲食店中心の対策になっていて不十分だとして、政府に見直しを求めましたと始まる。国から言われたから飲食店中心の対策をやっているがそんなのは意味がないからもっと効果的な対策を考えるようにと話をすり替えているのだが我々素人は法律を読むわけではないので、これを聞くと「政府が決めたことを地方自治体を守るのが新型インフルエンザ等対策特別措置法なんだな」と感じてしまうのである。

冒頭の医療機器の話に戻る。新型インフルエンザ等対策特別措置法には医療機器について定めた項目がある。それが第54条と第55条だ。

第54条は運送について書かれている。

  • 緊急事態宣言が出されていて
  • 新型インフルエンザ等緊急事態措置で計画が作られていて
  • 文章であらかじめ示した場合

に運送を指示できると書いてある。主語は都道府県知事と市町村の首長である。

第55条は医療物資の売り渡しを要請し・医療物資を収用し・保管を指示することができると書いてある。主語は都道府県知事だが権限を市町村の首長に要請できるそうだ。つまり売り惜しみがあれば「都道府県知事が在庫を確保して使うことができる」という権限がある。

これを読んで「飲食店対策以外でもできることがあるんだ」と驚いた人もいるのではないかと思う。

マスクの時にはおそらく売り惜しみが起きていたが都道府県知事はこれを是正する権限があった。アベノマスクを配る以外にやることがあったのである。

売り渡しを指示するためにはまず在庫量を把握していなければならない。在庫量を把握するためにはおそらく調査が必要だろう。緊急事態になってから慌てて調査することなどできないのだから普段からやっておかなければならない。

つまり新型インフルエンザ等対策特別措置法は計画を立てるにあたって「普段から在庫量を把握して備えておく」ことが暗黙の了解になっている。そう考えて読むと「普段から備えておくべきだ」というようなことも書いてある。

ここまで調べてみるとなぜ飲食店だけがターゲットになってしまうのかが良くわかる。飲食店は普段から保健所とのやりとりがある許認可事業だ。行政が現状を把握しやすいのであろう。一方で医療品は把握が難しい。

薬局の数とコンビニの数はどちらが多いでしょう?というトリビアクイズがある。実は答えは「だいたい同数だが薬局の方がやや多い」である。どちらも大体6万件という規模であるがやや薬局の方が数が多い。とても全体が把握できないのだろう。

診療報酬が減らされてしまうためこれから淘汰の時代に入るとされている。ダイヤモンド・オンラインは「薬剤師31万人・薬局6万店「大淘汰」時代の幕開け、安泰ビジネスモデルの終焉」と危機感を煽っている。薬局がドラッグストアの中に入っていて食料品も売っているというような業態があるくらいドラッグストアは危機感を募らせている。検査キットのように絶対に売れるものがあれば高値で売りたいと考えてしまうわけだ。だから無料では供出したくないということになるだろう。実際に無料検査が客引きに使われているドラッグストアチェーンは存在する。

薬局や医療卸が身の安全を図ると社会全体が損をするという構図がおそらくある。だが国にも地方自治体にも主体者意識がないのでいつまでたっても問題が解決しない。

そこで都道府県知事は飲食店と旅行をターゲットにして人流抑制しかできない。そのうち「人流抑制だけでは効果がないからマンボウは申請しない」などと言い出す県知事が出てくる。飲食店だけがいじめられる背景にはこんな事情があるのである。

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