朝鮮民主主義人民共和国からの手紙に返事が書けない日本

日曜日の朝、朝鮮民主主義人民共和国がまたミサイル発射実験を行なった。今年に入って7回目なのだそうだ。だが皮肉なことにこのミサイル実験は「ああまたか」という印象しか与えなくなっている。このままでは北朝鮮が行動をエスカレートさせる可能性が高いのだが日本はこれに対応できないだろう。なぜそんなことになってしまったのか。






BBCが簡単な経緯を伝えている。Jアラートが大騒ぎになっていたのは2017年のことだそうだ。2017年8月29日のことで日本海ではなく襟裳岬沖に着水したのだという。対象地域は北海道、青森県、岩手県、宮城県、秋田県、山形県、福島県、茨城県、栃木県、群馬県、新潟県、長野県で「頑丈な建物に避難してください」というような警報だったそうだ。ハフィントンポストの記事はJアラートとはどんなもので何をすべきかということを丁寧に解説している。

おそらくJアラートの狙いは安倍政権による集団的自衛権論争の正当化にあった。アメリカの度重なる要望に答える形で安保法制が改正されたのは2015年7月だった。すでにアメリカ合衆国はかつてほどの力を持っておらず同盟国依存体制へのシフトを目指していた。

ところが日本には憲法の制約がありこの「期待」に応えられない。このままではアメリカに見捨てられてしまうと考えた安倍総理はフジテレビで焼肉のような模型を出してわけのわからない説明して国民を混乱させた。そしてわけがわからないままに法律は成立した。

このわけがわからない法律については今でも違憲訴訟が相次いでいるのだという。裁判所は「まだ攻撃されていないからこれが合憲だか違憲だかわからない」として判断を避けて続けているそうだ。反対していたリベラルは「アメリカの戦争に巻き込まれる」という想定で反対しているのだが、裁判所も「一体これは何を前提にした法律なのか」がわからない。つまりアメリカから具体的な要請があるまで誰も日本の安全保障環境がどうなるのかがわからないという極めて異常な状態が続いている。

これが北朝鮮からの手紙に返事が書けない理由だ。日本には当事者がいないのである。

当時の日本人は安倍総理が集団的自衛権の行使を訴えてもそれに当たるような事態は起きないだろうと考えていたはずである。そこで空襲警報が考え出された。安倍政権は「国民をおどかせば脅威を感じるようになる」と考えたのだろう。だが実際にもたらされたのは「慣れ」だった。

当事者であるアメリカが一貫して日本のことを考えてくれていれば「まあそれでもいいか」という気になる。だがアメリカの北朝鮮政策は極めて場当たり的である。地理的に離れているので所詮は他人事だからである。

特にトランプ政権は北朝鮮情勢を「ディール」の一つとしか考えなくなった。2018年に「朝鮮戦争を終えることができれば自分もノーベル平和賞が取れるのでは?」とでも考えたのか金正恩氏と会談した。北朝鮮にとってみれば、ミサイル開発や核開発をすれば国際社会を振り向かせることができるという成功体験になったことは間違いがない。

これが度重なる軍事的挑発が「お手紙」になった発端である。

トランプ大統領は北朝鮮との直接のやりとりを繰り返すようになり日本は蚊帳の外に追い出された。アメリカは国際協調・同盟国依存体質を改め直接交渉で政権の成果を国民にアピールする戦略を取るようになった。

NHKなどのメディアはこの情報を重大事案と捉えていて今でも朝にニュース速報が出ることがある。これはある意味津波注意報のようなものだが実際に日本に被害が出るわけではない。こうなると日本人は「どうせ自分たちには関係がないだろう」と学習してしまう。

2021年11月にはもっと厄介なことが起きた。防衛省は宇宙からの何らかの物質を誤認して捉え「二発」と発表した。間違いと失敗が嫌いな岸田政権はこれに懲りたのかそれ以降「どこに何が何発落ちたのか」を伝えなくなった。「どこに何が飛んできたのか」がわかりにくくなってしまった。安倍政権で始まった「脅し」は岸田政権にとってはお荷物になっている。

もちろん北朝鮮も新型コロナウイルスによって差し迫った状況に追い込まれている。中国は北朝鮮との国境を封鎖する。北朝鮮は困窮する。援助を求めなければならないのだが「我々は困っています」などとは言わない。代わりに「我々はミサイルを持っている」と脅しにかかるのだ。唯一の成功体験が核兵器の開発とミサイルなのだ。

バイデン政権は実務型の政権だ。実務型と言えば聞こえはいいのだが、要するに「自分たちに役に立たないものは放置しておく」ということである。これは裏返せば「何か用があれば働きかければいい」ということを意味する。結果的にアメリカに用がある人たちは軍事力でアメリカを脅すようになった。

プーチン大統領がウクライナで仕掛けているのはそのためだ。NATOは東側に拡張してくるなとか核兵器を全て廃棄しろといった「とても受け入れられない」提案をすればアメリカは交渉に乗ってくれるのである。現在はキューバにもロシアの軍事施設を置きたいなどと提案しているそうである。

協力者を作るのではなく敵と対峙するというバイデン大統領の性格は菅前総理に似ている。実務派としてナンバーツーにしておくのは良いのかもしれないがトップにはしないほうがいい。問題ばかりが積み上がりやがて身動きが取れなくなってしまうからである。

安倍元総理にしてみれば「国民を脅せば自分の正しさがわかるだろう」と考えたのだろうが、現実は全く違った方向に流れつつある。アメリカは内外に山積する問題をもぐらたたきのように対処していて北朝鮮どころではない。日本の政府は何もできない。日本国民は「日本政府はどうせ何もできないだろう」ということを学習した上に状況に慣れてしまった。北朝鮮は国際社会が振り向いてくれるまで軍事挑発を繰り返す。

このため岸田政権のメッセージは無茶苦茶なものになっている。NHKもこれを単にまとめて右から左に伝えている。情報を受け取った人はとにかくもやもやとしたものを感じるが「考えても仕方がない」と感じそのまま忘れてしまうのだ。

  • 北朝鮮の行動は安保理決議違反で許せない
    • だが、安保理は具体的な行動に出ないし声明も出せない。ロシアと中国がブロックしているからだ。安保理では欧米が非難したがロシアと中国は北朝鮮を擁護している。
    • もちろん日本政府も何もできないし何もしない。
  • 大変なことなのだが我が国には何ら影響が起きる事態は起きていない。

おそらく何らかのインパクトのある事件が起きた時には大変な騒ぎになるだろうが、今度は「合憲である保証がない安全保障法制が使えるか」という議論になるはずだ。新型コロナ対応を見ているとそれが良くわかる。これはおそらく日本人の命を危険にさらすだろう。

当事者でない日本は北朝鮮からの手紙に返事が書けない。書く能力がないわけではなく書く意思がないのだ。おそらくこれは憲法が要請する「政府や国会は国民の安全を守るべきだ」という精神に違反している。

つまり、この状況は間違いなく憲法違反だろう。

Google Recommendation Advertisement