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混乱が予想されるイタリア大統領選挙が始まった

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今回の話は金融商品を扱う人は損を回避しチャンスを掴むためには国際政治を理解していなければならないという話を書く。ウクライナ情勢は注目を集めているが、あまり注目されていない割に重要な政治的動きが始まった。

イタリアの大統領選挙が始まった。選挙結果にはいくつかのシナリオがある。安定・小規模混乱・大混乱だ。結果は誰にも予想ができないので相場を知りたい人は自分で分析する必要がある。

過去の例では混乱が安定することを予想してイタリアの資産を買って儲けた人がいるのだという。

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イタリアで大統領選挙が行われる。金融市場はこの大統領選挙に大変注目していると第一生命経済研究所のエコノミストの田中理さんが書いている。田中さんはイタリアは政情の安定を指向するであろうと予想している。逆に「相場の変動を伴う混乱がチャンスになる」と考える人もいるのだろう。

民主主義というゲームは壮大な金融ギャンブルになりつつある。

いずれにせよ相場を読むためにはイタリア政治の仕組みを知らなければならない。

イタリアは世界的に珍しい半大統領制度をとっている。大統領は儀礼的な存在であり政党こそが政治の主役だと考えられていた。だがあまりにもまとまりがなさすぎるので大統領に国をまとめる役割が期待されるようになった。

特に今回はその期待が大きい。

だが期待が裏切られ失望に変われば正反対の方向に動き出す危険性がある。それがイギリスで起きたようなEU脱退騒ぎである。これが他の国に連鎖するようなことがあればおそらくヨーロッパの資産は全体的に売りの対象になるだろう。

イタリア政治はポピュリズムが続いている。分配に重きをおく左派ポピュリズムと多様化に耐えかねた人々が支持する右派ポピュリズムが共に支持を集めるようになったが右派が勝ちつつある。ただイタリア人の期待はもっと実務的なものだ。EUの官僚に命令されるのは嫌だが補助金は欲しい。

最終的にこの混乱を収めたのが欧州中央銀行(ECB)の前総裁、マリオ・ドラギ氏だった。2021年2月のマーケットはドラギ政権に期待してイタリアの資産に買いが集中したそうである。つまり、ドラギ政権の誕生でイタリアの政情が安定すると読むことができた人はその時点で儲られたことになる。

ドラギ氏はECB総裁としてユーロ危機の防衛に成功した経歴があり期待が高かった。前回の首相交代劇でも「ドラギ氏が状況をまとめられなければ金融市場は動揺するだろう」と言われていたようである。ドラギ首相は政治家でなく実務家を8名入れることで正常危機を回避した。金融に詳しいドラギ首相はイタリアの諸改革を先延ばしし、欧州復興基金を納得させるための基盤整備作りに尽力した。つまりヨーロッパからお金を引き出すためには何をすればいいのかを知っていたのだ。このため支持率は7割程度と高かった。

欧州復興基金はEUの官僚機構である欧州委員会に属する支援機構だ。支援する代わりに復興計画を出さなければならない。つまり欧州委員会を納得させられる計画を出せた国からお金をもらえるというゲームになっている。イタリアのポピュリストたちは欧州委員会を納得させるシナリオが提示できなかった。JETROは本格支援は2022年になると書いている。

このドラギ氏が今回大統領になることができれば「まずは混乱回避」ということになる。ただ大統領選挙は長引く傾向にある。大統領がすんなり決まらなければ金融市場が動揺するかもしれない。田中さんは「曇りが続くだろうがそのうち晴れるだろう」といっている。再び晴れると予想すれば安いうちにイタリア系の資産を買えばいいことになる。

だがこのシナリオは確定ではない。ドラギ大統領にはドラギ首相がいないという状態だ。つまりドラギ大統領が新しい首相を任命できなければ「選挙」ということになる。

根本的な不安や混乱が取り除かれたわけではない。もし仮にイタリアの政治が不安定化すればユーロは売りになるだろうと第一生命経済研究所のエコノミストの田中理さんは予想する。大方「そんなことは起こらないだろう」ということになっているのだから予想外のことが起これば損をする人が大勢出てくるだろう。

細かく田中さんのコラムを読んで行く。まずマッタレッラ大統領の退任は決まっているがドラギ氏が大統領に選出されるかどうかは決まっていない。だがめぼしい候補はおらずドラギ氏が国民からは期待されているという状態だ。

イタリアの大統領権限は限定的だが政治に一定の影響力がある。大統領選挙の仕組みは複雑だ。国会議員が上院に315名・終身議員8名と630名の下院議員がいる。さらに地方議会が選出する58名と合わせて大統領を選ぶ。

選挙は誰かが過半数を取るまで何度も行われるがこの間国民は直接的な投票ができない。初回で決まったことは2回しかなく最多は23回だったそうだ。決定打に欠ける候補が出なければドラギ氏への期待は強まるだろうが不安も続くことになる。

議員数が多すぎるイタリアでは国会議員の数を減らすという決定がされている。次の選挙では右派ポピュリズムが主導する右派連立政権ができる可能性が高いそうだ。ポピュリストはEUのルールに懐疑的な勢力である。つまりイタリア人はヨーロッパの基金からの補助には期待するだろうがその期待が裏切られれば一気にEU離脱などの極端な政策を支持する可能性がある。

これがイタリアの大混乱シナリオである。

多くの議員が失職することはわかっているのだから議会解散を先延ばししたい議員が多く「たいした混乱は起こらないだろう」と予想されている。最大勢力を持つ五つ星運動は国民に飽きられており党勢低迷に苦しんでいる。彼らは選挙がしたくない。選挙があれば躍進する勢力はまだ大統領を選ぶ資格がない。

田中さんはまずドラギ首相が退任するときに金融市場が動揺するだろうと予想している。ただッタン収まるところん収まれば騒ぎは収束し買い戻しが起こる。

とはいえ何が起こるのかがわからないのが政治であり混乱が収められなければ何度も大統領選挙が繰り返される。さらに首相選びに失敗するとEUの脱退という動きになりかねず、EUに大きな不安要因を生み出す可能性がある。

普段このブログでは「国民の意思を反映させるためには民主主義が最も優れている」が問題も多いという視点で政治を見ている。だが今回の事例では金融投資家の視点から政治を眺めてみた。

大口の機関投資家と違って小口投資家は政情不安を「相場が動く好機だ」と見ている。つまり国際政治への関心は政治的なものではなくギャンブル的投機の対象になっているわけである。ある意味競馬やパチンコと同じような視線で政治が観察されているということになる。

現在ウクライナ情勢が動いている。ヨーロッパ情勢が動けば相場も動く。そうした視点でウクライナ情勢に関心を持っているという人もまた多いのかもしれない。

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