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民主主義が必要なかったトンガ王国

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トンガでフンガ・トンガ=フンガ・ハアパイ火山が噴火してしばらくがたった。フンガ・トンガ=フンガ・ハアパイ火山はカルデラ噴火を起こしたものと考えられる。カルデラ噴火は通常の噴火と違い周囲に壊滅的な被害を与える。日本では鬼界カルデラの噴火で南九州の縄文文化が滅んだとされている。このことからカルデラ噴火の大きいものを破局噴火と言ったりする。

トンガの噴火は「破局」まではいかなかったがトンガの経済や政治に大きな影響を与えるだろう。すでに世界各国からの援助の申し出がある。各国は援助を足がかりに経済的なつながりを保とうとする。この結果、もしかしたら親中国家が一つ増えるかもしれない。トンガの民主主義はそれほど発展していないからだ。

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トンガは新型コロナウイルスの流行を受けて鎖国政策を取っていた。このため最近まで国内感染は1名しかいなかったそうである。世界でもまれなゼロコロナ政策が成功している国である。面積は対馬くらいとも奄美大島くらいとも言われる。人口は約10万人程度だそうだ。一方で自由主義諸国とのつながりは限定的だった。社会階層と国家はあるが貨幣経済は限定的にしか導入されていないのだ。

トンガに人がやってきたのは2500年前ごろと考えられている。国名の由来となったトンガは「南の」という意味だそうだ。トンガに渡ってきたポリネシア人はきちんと船団を組んで太平洋を渡ることができるほどの技術水準と社会制度を持っていた。これがパプアニューギニアに取り残されたオーストロネシア系の人たちと大きく違っている。

特にトンガは早い段階で国家建設と民族形成に成功し、一時はトンガだけでなく周辺海域を支配する海上帝国を作り出した。このため周辺地域で唯一外国の植民地になることはなかった。

もともとトンガには二つの王権があった。一つ目の王権は神聖なトゥイ・トンガだ。トンガと西ポリネシアに広い勢力圏を持っていたが15世紀に南太平洋に落下した隕石による巨大津波で弱体化し最終的に世俗王に負けたと考えられているそうだ。海底に周囲10kmのクレーターが残っているという。

トゥイトンガに打ち勝ったのは新興勢力であるトゥイ・カクノポルだった。イギリスの援助を受けてトゥイ・トンガの最後の王を滅ぼし、憲法を作りイギリス流のプロテスタントに改宗した。この後「国家間条約」でイギリスの保護下に入り1970年まで外交をイギリスに委任していた。

イギリスの保護国にはなったのだが主権国家同士の条約という形をとっている。これはトンガが憲法を持っていたからであると考えられているそうだ。トンガ憲法は日本よりも早い1875年に成立した。つまりそれ以前の時点で国家というコンセプトを理解していた。これが同じように西洋の植民地にならなかった日本に似ている。憲法は国内の政治闘争で優位に立つと同時に外国を満足させるための手段だったと考えられている。

おそらくイギリスの保護のおかげでトンガは日本に占領されず従ってアメリカに占領されることもなかった。とはいえ保護国なので自治は守られた。これが現在のトンガの封建体制を守っている。トンガには王を中心とする王族と33の貴族がいる。それ以外の人たちは平民に位置付けられており身分移動はほとんどないそうだ。今回読んだ解説では「全ての土地は国王に属している」と定められているのだという。

憲法がある以上は主権国家であるから勝手に併合するわけにはいかないというのがイギリスの理屈だったようだ。法治国家・法の支配というのは実に不思議な概念である。まるで呪符のような作用があるのだ。

1875年憲法で農奴だった国民は平民に引き上げられた。トンガ人はこの状態に満足していて政治にはほとんど興味がなく内部で何が行われているのかをよく知らないようだ。一部婚姻によって貴族結びついた平民がいて彼らは立法府に代表者を送り出している。

これといった抑圧の歴史もなく外国に支配された歴史もない。だからトンガモデルの民主主義を模索しようという動きはあるのだがそれがどんなものなのかよくわからないという状態に留め置かれている。

トンガ人は建前上は国王から土地を与えられることになっている。そしてその土地に生えているパンの実を食べていれば飢えることはない。そして無料の病院もあるそうだ。ある意味、闘争なくして社会主義的な国家が与えられていることになる。

逆に外から入ってきた民主主義は「格差」や「環境問題」を引き起こしている。

トンガは地理的に日本に近く、日本はトンガからたくさんのかぼちゃを輸入しているそうだ。日本とは季節が逆になるため商社が端境期にかぼちゃを輸入しているのだという。商社はかぼちゃ栽培に必要な肥料代を出し儲けのごく一部をトンガのかぼちゃ農家に渡している。

トンガのかぼちゃというPDFの文章によると、トンガの外貨の40%はかぼちゃによる収入なのだそうだ。日本との繋がりは経済的な恩恵をもたらした。だがその恩恵は一部のトンガ人にしか行き渡っていない。貴族とそれに結びついた一部の平民階層が貿易を独占している。貨幣経済が導入されたことによって貧富の格差が生まれているそうだ。貴族や貴族と関係する人たちが輸入利権を独占して小作人にはわずかな手間賃だけが払われているのだという。

栽培方法はいたって簡単だ。雑草を取り除いたり焼畑をして雨水だけでかぼちゃを育てる。トンガ人はこのお金で日本の中古車などを買っているのだという。

自動車による公害やかぼちゃ栽培のために持ち込まれた肥料による被害も起きている。さらに健康被害も広がる。

外貨を稼げるようになると外国から美味しいものがたくさん入ってくる。そのためトンガでは肥満も大きな問題になっているのだと朝日新聞が書いている。だが記事を読むと面白いこともわかる。ほとんどの家にはパンの実と呼ばれる炭水化物が豊富な植物が生えているそうだが、最近は多くが捨てられているのだそうだ。JICAが保存法の研究をしているそうだが「食べられるのに捨てるのはもったいない」というのは日本人の感覚だろうと思う。放っておけば生えてくるのに保存法が発達するはずもない。

土地の奪い合いもなく庭に生えている植物を食べれば飢えることもない土地で民主主義はさほど重要な役割を果たさないだろう。

ただ、一度覚えてしまった「資本主義・貨幣経済」もトンガに浸透しつつある。トンガの経済はかなりの部分を仕送りに頼っているそうである。平民はもともと土地をもらえるはずなのだが土地が不足している。トンガ人が国内で航空券代を稼ぐことは難しい。なけなしの金で誰かを海外に送り出して仕送りをしてもらって経済を支えるという構造なのだそうだ。

経済のかなりの規模を海外送金に頼っているのだろうということはわかっているもののその実態は必ずしも明らかではない。在海外のトンガ人は10万人と言われていて国内のトンガ人と同数の人々が暮らしていると考えられているそうだ。歴史的には英語圏の国で暮らす人が多いのだという。

ただし民主主義が発展していないトンガでは王様が独裁的に国内ビジネスを取り仕切ることができる。英語で検索すると中国資本のタバコ工場が作られたという記事が見つかった。援助によって外国資本が入り貨幣経済のありがたみがわかれば次に思いつくのは富の独占であろう。民主主義があまり必要のなかったトンガは外貨収入の多くを英語圏からの仕送りに頼っている。さらに、民主化を援助の条件にしない中国の方が内政上は整合性が高い。

こうしてトンガも今回の噴火をきっかけに自由主義陣営と権威主義陣営の間に落ち込んだ「よくある国」の一つになってゆくのかもしれない。

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