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小池百合子東京都知事の危険な「五類」ゲーム

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当初の予想通りオミクロン株が拡大しはじめた。東京都の感染者は7000人に達した。これを受けて政府はまん延防止等重点措置の適用範囲を議論し始めた。このブログは部分最適と全体最適ゲームという観点から様々な問題を見ているのだがコロナ対応も例に漏れずこの類型に当てはまっている。

政治家たちは誰にも恨まれたくないので意思決定を避けている。判断を任された飲食店は困惑し市民たちもどう行動を変えていいかわからない。病院は自己防衛に走り緊急搬送が困難になる事例が増えている。

だがそれだけではない。誰も意思決定をしないということを見越して責任を回避する人まで現れる。今回はそれを五類ゲームと名付けた。

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今回は珍しく「正解」から書きたい。テレビ朝日のワイドショーに仲田准教授という人が出てきて「正解」を解説していた。そのほかの人たちの意見を合わせると次のようなものが正解になる。もちろん市民たちがゲームを理解して最大限協力することが前提である。

  • 重症化率は高くないので経済は最大限止めない
  • 医療は軽症者ではなく中等症と重症患者に集約する
  • ただし、重症率が上がってくるならば直ちに政策をシフトして人流抑制に切り替える。

良さそうである。

だがこの仲田さんの意見は北村義浩特任教授と玉川徹氏に論破されていた。だが論破されていたのは数学的モデルそのものではなかった。北村教授は「重症化率が高くない」というメッセージは油断を生むだろうという。これまで長期にわたって政府のメッセージと行動変容について観察し続けて来た北村教授らしい意見だ。

玉川徹氏は「これは五類シフトを念頭に置いた策である」として聞く耳を持たなかった。

この玉川さんの予断はどこから出てきたのだろうかと思ったのだがその時はよくわからなかった。後で調べてみてこの仲田准教授は東京都に諮問され経済を回しながらコロナも抑制するというシナリオを提案した人だということがわかった。玉川氏は「仲田さんは都の幹部から都合の良い情報をインプットされているのだろう」と疑っているのかもしれない。仲田准教授は「二類から五類に変えなくてもこのような政策シフトはできると聞いている」と反論していたが、玉川氏が意見を変えることはなかった。

数学的な正解がわかっていても相互不信が拭えない限り協力ゲームは実施できない。プレイヤーが誰も参加しないからである。だから最適解は実現しない。

この不信感の元になっているのが小池百合子東京都知事の「五類にすればいいじゃない」という提案だ。小池さんはこれまでも自身のプレゼンスを高めるためにコロナを利用して来たところがある。だから、仮に仲田准教授の提案が本当に正しかったとしてももう信頼してもらえないのだ。

リスクを織り込んで市民に自粛してもらえれば経済への影響も医療への影響も防げるということはわかっている。だが根本に不信感がある。だから早めに自粛しても損をするだけなのでは学習する人が増えている。だから、医療逼迫がテレビで紹介されて初めて「あ、これはやばいのだ」とならないと誰も行動変容しない。北村教授にはそれがわかっているのだろう。

仲田准教授もこれを意識して、テレビでは「シナリオ2」として紹介していた。2021年の8月ごろに起きたことなのだそうだ。全体最適の立場から見ると「非合理的」な行動だが限定的な情報しか持たず部分最適でしか行動しない市民には最大限合理的な対応ということになる。さらに病院にとっては「面倒なものは全部受けない」という自己防衛が最適解になる。これまでの学習の結果「非協力ゲーム」が起きている。

我々は非協力ゲームを学習してしまった。

実際の問題はもっと複雑だ。まん延防止措置の依頼自体がゲームになっているのだ。

まず岸田政権は安倍政権の反省から自分からまん延防止等重点措置の適用を求めることはない。全国一律の緊急事態宣言で「総理が言い出したから総理が保証しろ」となることを恐れているのだろう。こうなると各都道府県知事がそれぞれの損得を考えた上でバラバラに要請を出すことになる。つまり岸田政権は責任を都道府県知事に押し付けている。だが都道府県知事も判断を飲食店に委ねる。すると飲食店は自分たちの儲けが最大限になるように行動する。種類提供の自粛はしない。コロナの感染は増え結局営業できなくなるところまで感染者が増えるだろう。

ではそんな条件下ではどんなことが起こるだろうか。東京や大阪などの都市は病院のリソースが足りているが近郊県は足りないので都市ほど新型コロナを矮小化したがるのだろうな」と感じた。そこでNHKがまとめている病床使用率のグラフを見てみたのだがこの予想は見事に外れてしまった。

オミクロン株が流行を始めた頃の病床使用率
2022年1月12日現在

関東近県で見ると東京都と埼玉県に比べて千葉県と神奈川県は病床に余裕がある。申請までの推移をみると小池百合子東京都知事は申請(厳密には経済を止めること)に消極的だったが「人流が一帯の地域」はまとめて申請をするようにという国の方針で一括申請を決めたようだ。今回まん延防止地域への申請を決めた愛知・岐阜・三重も比較的余裕がある地域である。

つまり最も申請が早かったのは都市でも地方でもない中間地域である。

では地方はどうなのだろうか。山梨県は376床しか病床を準備していないので医療逼迫に陥る可能性が高い。NHKが13都県にまん延防止措置 病床使用率や感染状況は?という記事を出している。申請地域の病床使用率は細かく分析されているのだが地域外のことは分析されていない。一週間前にすでに危険な領域にあった山梨県県知事は18日の時点で次のように言っている。

18日午前0時時点の入院者数は106人で、重症者向けを除くコロナの確保病床使用率は30.1%。宿泊療養施設への入所は456人で使用率は47.2%。長崎幸太郎知事は「医療提供体制に影響を及ぼす状況に近づきつつあるが、1日あたり140人が続いても病床と療養施設の室数の範囲内になる」と述べた。

山梨県、コロナ新規感染者153人で最多

「躊躇なく」と言っているが近隣圏水準から見ると「躊躇している」ことがわかる。そもそもリソースに余裕がなく経済にも余裕がないために意思決定できなくなっている可能性がある。

近畿圏も対応が遅れた地域だ。大阪市の松井市長は経済を回したいので「新型コロナは5類にすべきだ」と言っている。ところが病床の逼迫度合いからみると大阪府と兵庫県はちょっと危ない領域に来ている。ところがそれよりもさらに危ない地域がある。それが京都府・滋賀県・奈良県・和歌山県だ。京都は大阪・兵庫と一体で検討委入ったようだが、滋賀・奈良・和歌山はその枠組みに入っておらず申請の目処は立っていないがおそらく申請は時間の問題だろう。だが彼らは言い出せない。オミクロン株流行に伴う「第二陣」には参加しないことがわかって来た。

日本の政治状況は次のような三層構造になっている。

  1. 東京都と大阪府はポピュリズム化が進み「弱者を切り捨ててでも経済を回すべきである」と言う切り捨て型の部分最適化が進む。自己責任型・成果主義・ゲーム社会になりつつある。
    • ただ、実際に小池百合子都知事が「経済を優先したい」と思っているかどうかはわからない。自分は経済を優先したいが周辺県がそうさせてくれないんですよと説明したいだけなのかもしれない。
    • 小池百合子東京都知事の行動は大変巧みである。科学的知見を集めて「岸田総理に意思決定してほしい」と言っている。インテリジェンスを打ち出しつつ意思決定そのものは巧みに避けている。
  2. その周辺地域(千葉・埼玉・神奈川)などは比較的リベラルな政治風土が残っていて「医療的に弱い立場」にある市民を守って行こうと考えている。経済よりも医療を選択する傾向にある。同じようなエリアは愛知・岐阜・三重県だ。バランス型と言える。
    • これは立憲民主党が強い地域と重なる。旧来型の製造業や公務員が強いので左派的な組織票が温存されているのだろう。こうしたリベラルな地域は医療リソースを無理に削ったりすることもないだろうし「自分だけが良ければいいのだ」と考えてコロナ感染予防に協力しない人も少ない。
    • こうした地域ではまん延防止等重点措置への早めの協力も期待できる。だから社会への影響は最も少なそうだ。
    • この地域にとって最大のリスクは東京都などの「染み出し源」だ。今回関東近県は東京都を協力させることに成功したため一体性が損なわれることはなかった。
  3. さらにその外には「医療にかまっていられない」地域が広がっている。病床も足りず医療が逼迫することも予想される。だがもうそんなことを言っている余裕はない。おそらく最も被害が大きくなるのはこうした地域だろう。医療が受けられなくなる。
    • 山梨県は医療逼迫が進みそうだがまん延防止等重点措置地域に加わらなかった。
    • 山口県に隣接する島根県も病床が308しかなく45%の病床が埋まっている。

まん延防止等重点措置はその申請が知事にとって一つの「ゲーム」になっている。申請すれば医療を守ることはできそうだが経済団体などから離反される可能性があるというゲームだ。だが多くの県知事たちはそれでも必要な判断はする。

小池百合子東京都知事の振る舞いは非常に厄介だ。「自分は科学的にやればもっとうまく立ち回れることがわかっている。でも周りの県がうるさく言ってくるし岸田政権の対応もイマイチだ」というメッセージを出す。ポインティングフィンガーという新しいゲームである。

東京都は今回「非協力ゲーム」には転じることはできなかった。つまり自分だけが経済活動を温存するというようなことはやらなかったわけだ。だが相互調整が難しくなってくると誰かを指差して「あの人が協力してくれないから」自分たちが目標を達成できないという新しいゲームにシフトする。非協力が前提になっている条件では勝つ確率が高くなるゲームだ。

このようにゲームという観点でみると協力か非協力かという状態ではなくなっている。非協力に転じることができない場合新しいゲームが考案される。五類ゲームもその一つである。

前回、日本は2〜3分おきに整然とやってくる山手線の中で毎日暴動が起きている社会だと書いた。非協力には転じにくいのでその代替として不都合を誰かに押し付けることが常態化しているのだろう。つまりSNSの中では壮大な協力ゲームが起こり誰かに不利益の押し付けが行われている。五類ゲームとは異なっているがこれも新しいゲームである。

だが、我々の社会はすでにこうした五類ゲームに適応している。病院は「社会が協力しない中でコロナという不利益を自分たちだけに押し付けられては困る」と学習してしまった。彼らは自己防衛のために非協力ゲームに転じている。学習の成果なので第五波より早く「救急搬送困難事例」が出てきているそうだ。

市中感染により無症状感染者が蔓延しているはずだから救急搬送者の中には高い確率でコロナ感染者が含まれているだろう。社会協力が見込めないと予想している病院は自己防衛に走る。すると病床が逼迫し社会の声が「経済封鎖へ」と向かうことになるわけだ。

数学的な最適解が見えているのにそれが実現しないのは政治家たちがそれぞれ責任回避をしているからなのだ。そればかりか非協力環境を利用すれば責任を回避してうまく立ち回れると学習する人も現れた。

落ち着いて考えるとそのことがよくわかるのだが、日々ニュースが流れてゆくためなかなかそのことに気がつけない。情報過多によって処理が追いつかなくなると視野狭窄を生じることがよくわかる。

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