東京都の感染者数が倍増している。1月1日時点では100人に満たなかったが、みるみるうちに2000人、3000人、4000人と増えていった。オミクロン株の流行が始まったのだ。
おそらく岸田政権のオミクロン株対策は失敗するであろうと思った。岸田政権は聴きすぎるからである。
一方で、事態は混乱するであろうがこれが直ちに岸田政権の基盤には影響しないだろうとも思う。民主主義が定着した国と違い日本人はそれほど政治には期待していない。
沖縄の事例などから今のルールではエッセンシャルワーカーの数が足りないということになり岸田政権では濃厚接触者の待機制限を緩和することにした。一般人は14日が10日になりエッセンシャルワーカーはPCR検査の陰性実績などを踏まえて6日で解除できるようになる。聴く力が発揮されたと言って良い。マスコミも「今のままでは人材が足りなくなり経済が回らなくなる」と主張していたため大きな反対の声は上がらないだろう。
だが、よく考えてみれば一般人とエッセンシャルワーカーで感染するウィルスが違うということはない。エッセンシャルワーカーが6日でいいなら一般人もそれに倣って構わないはずである。政治的調整を入れてしまったことで「このルールは絶対に守らなければならないものである」という意味づけが失われた。ワイドショーでもこの点を懸念する声はあったが「どっちがいいんでしょうね」と判断が留保されていた。結果的に岸田政権も強いメッセージを出さなかったためになし崩し的にルールの形骸化が進むはずである。人材不足は何も医療機関だけの問題ではないからだ。
それでもここで「いや待てよ保健所がきちんと管理してくれるのであろう」と考えたくなる。だが沖縄県では「濃厚接触者は陽性になった人が自分で連絡してくれ」と方針を変えた。保健所の対応が間に合わないからである。。沖縄でやっていいならと他の自治体にも追随するところが出てくるだろう。
沖縄県の事例は「保健所のリソースが足りないのだから仕方がない」とも言える。だが沖縄のようなケースが全国に広がればたとえ連絡があっても「俺が濃厚接触者かどうかはよくわからないし体調に変化もないから聞かなかったことにするわ」という例が多発するであろう。「一般人はエッセンシャルワーカーに比べて4日も損をするんだ」ということになっている上に「聞いていない」が通用するのだから当然そうなる。つまり事実上この濃厚接触者トレースという方針は破綻したと言って良い。
そもそも濃厚接触者管理などという面倒なことがあるのはコロナが二類相当だからだという声さえある。さっさと五類にしてしまえば面倒な問題は全部なくなるという主張がまかり通っている。
オミクロン株の濃厚接触者が積極的に検査を受けてくれればいいのだが「検査で陽性が確認されれば日当が入らなくなる」というような人たちが無症状の状態で検査を受けるとも思えない。あれは「自分はコロナにかかっていない」ことを証明したい人が受ける検査である。体調不良を隠しながら働く人が増えるだろう。
オミクロン株はそれほど重症にならないことが知られているのだからそれほどの騒ぎにはならないだろうと思いたくなる。確かにブースター接種を受けて入ればそう言えるのかもしれない。ここにも不都合がある。千葉市のコロナワクチン専門ダイヤルに電話して聞いて見た。
- 高齢者の接種券は1月に発送が始まる。それ以外の人も7ヶ月が過ぎた時点で接種券が送付される。早い人は2月ごろに接種権を受け取ることになる。
- 接種券がきたら予約が可能になる。かかりつけ医に直接相談してくれてもいいし市の方でも予約ができるようにシステムを整えた。
これだけを聞くと「ああすぐに接種ができるんだな」と思いたくなる。感染者が日に日に倍増しており脅威を感じた高齢者などは特にそう思うだろう。テレビでは「オミクロン株の感染者が日に日に増えていて怖い」とか「ワクチンの在庫が足りないらしい」などと言っている。
だがワクチンの在庫は足りているのか。千葉市の医療政策課に電話をしてみた。
- コールセンターが言っていることは全て本当である。
- だが在庫については国が決めることだ。我々はシステムを準備したのだしワクチンが「ない」とも言えないので是非一度病院に確認したりしてトライしてほしい。
つまり市としては「できない」とは言いたくないのでもしかしたらできるかもしれないがよくわかりませんと言っている。情報が錯綜しているというより誰も嫌な情報は伝えたくない。コールセンターではそのようなニュアンスは伝えられないため「誰でもすぐに打てますよ」というような説明になる。
つまりもしかすると予約はできるが実際に打てるのは当分先という人が出てくるかもしれない。こういう人は「自分は要領が悪いからだ」と感じて自分を責めるかもしれない。
これを踏まえて堀内ワクチン担当大臣の言動をチェックする。NHKは次のように伝える。
- ワクチン担当大臣としてはスムーズな事務処理を地方自治体に要望していると言っている。これは市の担当者に聞いたことともフリーダイヤルの情報とも全く矛盾しない。
- ところがこと在庫の話になると「3月と4月には」ということしか言わない。おそらく当座の在庫がないのであろう。だが全くないわけでもなさそうだ。とにかく状況がよくわからない。
TBSも同じような調子である。テレビでは今後2月にかけて「オミクロン株の感染者が増えている大変だ」という情報が流れることになる。4月までにはほとんどの人がワクチンを打ち終わると政府は言っているのだが「当座は足りない」ということになりそうだ。
だが堀内大臣も嫌なことやネガティブなことは言いたくない。嘘をついているわけではないが不安材料を隠しながら破綻しないような答弁を作り上げることに一生懸命になっていて「あの答弁は危ない」などと言われている。
堀内大臣は「答弁能力をブラッシュアップする」と言っているが「ない袖は振れない」のだから上手に隠蔽できるように頑張りますと言っているのと同じことである。野心的な計画ばかりが発表されているのだが実績は上がっていない。AERAが伝えるところによると次のようになっている。政府はワクチン在庫確保ができていないことを把握しながらそれを伝えていない。テレビもそれを取り上げようとはしていない。
資料によると、計画では昨年12月までに879万人が3回目の接種をしている予定だった。しかし、実績では53万人で、目標達成率はわずか6%だ。また、計画では1月末に1469万人が接種を終える予定だが、13日時点で接種が終わっているのは103万人、達成率はわずか7%。このペースで行くと1月末までに接種が終わるのは183万人、達成率は12%にとどまると推計している。
【独自】ワクチン接種実績は予定のわずか12% オミクロンで症状が変化、「認知障害」の懸念
おそらく濃厚接触者の押さえ込みに失敗し感染者数が増えてゆくことは既定路線であろう。「当座は供給が間に合わない」と伝え「とにかくリスクのある人は2月には外出しないでくれ」などと言わなければ現場はかなり混乱するだろうが岸田政権は嫌なことは言わない。それで成功していて支持率が上昇しているそうだ。過去の嫌なことは清算し、国民から不満が出たらすぐ修正し、これから起こるであろう嫌な問題は全部選挙の後に先送りする。
ワクチンが打てたとしてもオミクロン株には効かないことも科学的にわかっているそうだ。ただ接種直後は抗体量が上がるために「効きは悪いが数で勝負する」という状態である。岸田総理が外国人の人流を止めて時間稼ぎをしている12月の間にワクチン接種を進める準備をしておくべきだったが「人の話を聞いている」うちに米軍由来のウイルスが日本に入り込んでしまい「時は既に遅い」という状態になってしまった。米軍にも強く行動自粛を求めることはできなかった。ブリンケン国務長官から電話会談を呼びかけて行動制限が始まったがすでにウイルスは日本に入り込んだ後だった。
他の先進国と比べると日本のコロナ対策はうまく言っているとは思うのだがこれらの混乱が今後は岸田政権の支持率に反映されるはずだ。もう経済は止められないから高齢者やハイリスク者には我慢してもらおうなどという方向に社会がなだれ込めば岸田政権は参議院選挙で相当の恨みを買うことになるだろう。
だが「嫌なことや面倒なことは考えたくない」という有権者は犯人探しをして終わることになるのかもしれない。そのうちにオミクロン株の流行が峠を越えればすぐに混乱を忘れてしまうのだろうなと思う。
この話の厄介なところは誰も悪意で振舞っているわけではないということだ。むしろ皆いい人すぎて「都合の悪いことや嫌なことは言えない」からこそ混乱があらかじめ予想されるという展開になっている。有権者の側も「どうしたら抜本的にこの問題が解決できるのか」などとは考えない。その場その場で犯人探しをしているうちに騒ぎが収まると、問題そのものがなかったことになってしまうのである。
「犯人」にされた人は血祭りだろうが、これが日本人の有権者が行き着いたある種の悟りの領域なのかもしれない。