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四年前に民主主義のお手本とされた韓国の大統領選挙で何が起きているか?

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本日のトピックは韓国の大統領選挙だ。かなり混乱しているのだがこれだけでは「隣の国はうまくいっていない」というメシウマ感情を刺激するだけで終わってしまう。

しかし詳しく観察すると二つのことがわかる。2年前に日本の市民派がうらやましさを感じていた草の根的な安倍政権打倒運動が日本で実現していたらどうなっていたのかということと、大阪維新や都民ファーストなどの都市型政党が今後どうなってゆくのかということがわかるのである。

つまりいろいろ探して見ると日本と韓国は案外似ているのだ。

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2016年に170万人が動員されたろうそく集会で朴槿恵大統領が倒れた時、安倍政権に批判的だった人たちは「これぞ民主主義のお手本だ」と感じたはずである。だが、そのわずか4年後の韓国大統領選挙は混迷気味である。若者の4割が「誰を選んでいいか」がわからないという状態になっているのだという。

家が買えないとか就職がないとう不満は解消しない。政治家の縁者たちを探すと大抵はだれかが何か悪いことをやっている。つまり真面目にやっていても報われない社会になりつつある。

これがあの草の根民主主義の結果であると考えるとなんとなく寂しい気分になるのだが、改めて考えてみると当然のことなのかもしれない。「安倍政権は嫌だ」という気持ちは多くの人が持っていた。このブログでもそのようなことを書いたことはある。しかしあの時「では、どんな政治がいいのか」について真剣に考える人はあまり多くなかった。

朴槿恵大統領の不正疑惑と市民のデモを受けて誕生した文在寅大統領の支持率は高かった。ところが文在寅政権はその後支持率を落としてゆく。きっかけは曺国(チョグク)氏の任命問題だった。これに加えて文在寅政権は二つの政策に失敗した。不動産価格が暴騰し庶民は家が買えなくなった。さらに若者の就職も難しくなっている。

古い世代はそもそも革新の文在寅政権を支持しておらず年代別の支持率は70代が24.3%と60代(24.6%)が低いそうだ。また当初文在寅大統領に期待していた20代の支持も29.8%に落ちているのだという。

これがろうそく運動の成果だった。

この傾向は今でも続いている。MZ世代と呼ばれる20代30代は2022年1月に入っても支持する大統領候補が決められないという人が44%もいるそうだ。日経新聞も同じような書き方をしている。20代から30代の支持を集めるために各候補が躍起になっている。

これまでの韓国の大統領選挙には一定の傾向があった。釜山などを中心とする慶尚道(南北)は伝統的に保守系候補が支持される。朴正煕政権時代に手厚い待遇を受けていたからである。一方冷遇されていた全羅道(南北)は伝統的に革新政権の支持が高いと考えられていた。ただ、こうした地域対立によって韓国の大統領選挙が読み解ける時代は終わった。どの陣営も大抵身内に問題を抱えている。

朴槿恵大統領が倒されたのは身内を優遇していたからだった。朴槿恵大統領が不正を働いたというより「崔順実ゲート」問題の影響が大きかった。親族ではなく友人が起こした政治スキャンダルだ。朴槿恵大統領は例えて言えば小池百合子東京都知事のような存在だったわけだが、その「彼女の友達」が不正を働いたことでついには大統領自身が弾劾されることになる。

だがそれに続く文在寅政権でも近い人たちの不正問題が見つかる。曹国氏の問題もどちらかといえば娘、息子、弟などの疑惑だった。

韓国はかなり強い競争社会になっていて経歴を少し「派手に盛ったり」しないと競争に勝ち抜けない。さらに所得ではなく資産形成によって成長するようになると「コネを頼って資産形成で有利なポジションを獲得する」ことも行われる。そのためだれかが政治的に注目されるとその親類縁者を調べれば「大抵だれかがな何かをやっている」という状態になっている。

朝日新聞は尹錫悦(ユンソギョル)候補のスキャンダルを伝える。まず義母の私文書偽造が見つかり懲役一年の実刑判決が出た。さらに妻も過去に複数回の経歴詐称をやっていたことがわかっている。つまり尹錫悦候補そのものに問題はないのだが結婚した人が悪かったことになる。だがもともと尹錫悦さんは朴槿恵大統領や文在寅大統領らの不正に立ち向かったということが評価されたいわばヒーローである。実はヒーローの妻も悪人だったとうことになれば支持が下がるのは当然だ。

このため尹錫悦候補の選挙事務所が解散し選挙体制の立て直しを迫られている。さらに党の代表の李俊錫(イジュンソク)代表との関係も芳しくないようだ。勧善懲悪を求める高齢者層は尹錫悦氏を応援し李俊錫さんは若者の支持を担当する。

この関係は都民ファーストの会や大阪維新の会に似ている。都民ファーストは小池都知事の人気を背景にした政党である。イデオロギー色は強くない。大阪維新にはスターとなる橋下徹、松井一郎、吉村洋文という三人のスターがいる。つまりスター政治家の元に多くの議員が集まり政党を作っている。尹錫悦候補は独自で政党を作りたかったようだが組織力を頼って外から国民の力に入党した。国民の力から見ると外からスターを雇ってきたことになる。日本でも地方政治ではよく見られる光景だ。

自分たちに代わって正義の鉄槌を下してくれるヒーローがいなくなると相対的に文在寅大統領の支持が上がった。だが光景とされる李在明(イジェミョン)候補の長男も違法賭博の過去があるそうだ。「スキャンダルを探すと大抵何かが見つかる」状態になっている。

韓国の政治状況を見ると伝統政党が欠如していて人気のある個人の元に政党が作られるという状態にあることがわかる。今回第三の男として浮上してきた安哲秀(アンチョルス)候補も小池百合子東京都知事に似ているところがある。既存政党では頭角を表すことができず自分で政党を作る傾向にある。

安哲秀さんの経歴を見ると無党派として国会議員に出馬し「新しい政党を作るのでは?」と期待された。最大野党の党首になるのだが選挙で負けると党首を辞任している。文在寅大統領の有力な候補とみなされたが討論で振るわずに人気が低迷していった。

こうした振る舞いが小池百合子東京都知事に似ている。小池都知事は自民党の中ででは支持を集めることができなかった。政策の中身にあまり具体性がないからだ。だが、東京都知事には市民にアピールする有力な候補がおらず、ビジョンがそれほど具体的でなくてもなんとかやって行ける。

都知事選挙は短い期間で選挙運動が終わるので「その場の勢い」だけがあればなんとかなる。大統領選挙はそれよりは長い期間が必要だがやはり勢いがある人が大統領になる。一方の議院内閣制で頭角を表すためには少なくとも何回かは選挙を経験していなければならない。おそらく日本で韓国ほど派手な政治スキャンダルが出てこないのはそのためだろう。どちらかというとがんじがらめになった公職選挙法の細かい規則に引っかかるという規模の小さい違反が問題になる。

その意味では「日本の政党政治にもメリットがあった」ということになるのだが、日本の都市では政党が韓国化しているのかもしれない。良い言い方をすると民主主義が進んだともいえるが悪い言い方をすると組織が作れなくなり個人の人気とその時の勢い依存する政治状況になりつつあるのだ。

日本の先をゆく韓国を見るとその未来はあまり明るくない。国民はその時々に誰かに期待するのだが継続した成果を上げることはできない。その都度落胆が広がり次の救世主を探すという状態に陥いる。

今の所、日本がかろうじてそうならないのは日本の政治が退屈な議院内閣制だからである。

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