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抵抗勢力、二階俊博さんの主張

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国会が始まっていない国内政治にはそれほど顕著な話題がない。そんな中、一部の通信社が「二階元幹事長が地元和歌山で10増10減に苦言を呈した」という話を取り上げていた。地元のラジオ局でのできごとらしい。正確には「腹立たしい。こんなことが許されるのか。地方にとっては迷惑な話だ。」と語り、代わりに議員の数を増やしたらどうかと提案したそうだ。

抵抗勢力というイメージにこれ以上ふさわしいキャラもないなと思った。

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人口減少が進む中議員の数など増やせるはずもない。

一刀両断したいところだが、一応、是非について考えてみようと思う。

今回の改定のきっかけは2011年の最高裁の違憲判決だ。違憲判決とはいえかなり政治に忖度した内容になっている。ところが自民党・公明党政権はこれに抵抗し一度は先延ばしにした。いよいよ本格実施というのが今回なのである。

対象になった裁判は2009年の選挙に関するもので判決が出たのは2011年だった。正確には違憲ではなく違憲状態だったと言っている。つまり違憲ではあるが選挙の正当性は認めるという判決だ。特に各県に一議席を割り当てる方式「一人別枠制度」に異議を唱えている。

だが、最高裁が選挙結果をひっくり返してしまうと色々と面倒なことが起こりかねない。そこで「違憲だけど今回は大目に見る」という判断にしたのだろう。

この時に民進党は即時アダムズ方式を導入せよと提案したが自民党と公明党がこれに反対した。代わりに青森、岩手、三重、奈良、熊本、鹿児島の議席と比例の東北、北陸信越、近畿、九州の4ブロックで定数を減らすという提案を行った。そして「今回はこうしたが次回はちゃんとやります」と約束した。つまり2020年の国政調査まで本格的な削減を先送りすると説明したのである。

2021年に2020年の国勢調査の内容が出るといよいよ10増10減を実施するということになった。なおアダムス方式とは政治的な配慮をせずに「機械的に議席を人口割します」という意味である。

ところが減らされる選挙区の中に山口・広島・和歌山という重鎮のいる選挙区が含まれている。今回抵抗している二階前幹事長は和歌山選出である。つまり地元の利権が減らされることを恐れているのだ。また山口では自分の子飼いの河村建夫元官房長官が林芳正外務大臣に弾き飛ばされるという経験をしている。これが面白いわけはない。

人の話を聞いてすぐに意見を変えてしまう岸田総理大臣は今のところ粛々と「10増10減をやる」と言っている。だが茂木幹事長は「世論を見ながら」と主張する。つまり世論が「まあいいんじゃないか」と認めれば今回も是正は骨抜きにされる可能性がある。

ただし、おそらく野党にとっては格好の攻撃材料となるだろう。「守旧派・利権保持」というレッテルは特に関西圏では便利に使えそうだ。二階元幹事長という「ふてぶてしいキャラ」は守旧派のシンボルとして利用される可能性が高い。

ここは百歩譲って二階前幹事長の「議席を増やせばいいではないか」という主張に耳を傾けてみよう。そもそもなぜ定数削減が叫ばれるようになったのか。

最初の定数削減は小選挙区の導入を合わせて実施されている。1996年の選挙で11議席が減らされた。自民党はリクルート事件に端を発した金権体質の改革ができなかった。また同時期に実施された消費税は「新たな負担を国民に押し付けた」という印象を持たれた。

自民党は抜本的な改革ができず結果的に小沢一郎らの主導で小選挙区制度が導入される。表向きは金権政治の打破ということになっているが社会党の躍進を防ぎ自民党の派閥による二大政党制の実施を目指すものだった。つまり自民党の主流派と反主流派が内部抗争ではなく選挙によって政権を競い合うという形を作るために金権政治批判が利用されたのである。

実際には次の選挙でも20定数が削減された。この時の議論の流れはよくわからないのだが「身を切る改革」をしないと国民が納得させられないというような空気があったのではないかと思われる。このように国民の反応を見ながらその場しのぎの弥縫策が繰り返され、やがて自公政権へとつながっていった。

次にこの話が出てきたのは野田総理大臣と当時の代表でのちに総理大臣に返り咲いた安倍晋三総裁の対話だった。民主党政権は政策実現のための財源が捻出できなかったため消費税増税に手をつけて国民の支持を失った。しかし当時の安倍晋三総裁は野田総理が特攻解散に踏み込むとは思っていなかったのだろう。自分たちも身を切る姿勢を示すために定数削減を訴えていた。

結局、この定数削減は実施されなかった。つまり、単なる国民との取引だったのである。とにかく「消費税という犠牲を押し付ける以上我々も仲間を切る」という冷静に考えてみるとなんだかわからない理屈がすでに出来上がっていたことがわかる。

この際一貫してまともな議論など行われずその場しのぎと弥縫策で乗り切っているうちに「国民に国会議員が血を流していることを示すための定数削減」というめちゃくちゃな理由がつくられてしまった。だから二階元幹事長が「定数を増やせ」というと「なんだ結局国会議員だけが特別扱いで焼け太りかよ」という話になってまうのだ。

そもそも国会議員の議席がなくなるということは地方経済が溶け地方がなくなりつつあるということを意味している。もちろん二階前幹事長だけの責任でもないのだが国会議員はなんら対策を打ち出せていない。そんななか「自分の議席を守るために国会議員を増やせ」という主張にはまったく説得力がない。

現在抵抗している議員たちが同じ迫力で地方対策をしていればそもそも議席を減らされることなどなかったはずなのである。

実効性のある改革が打ち出せないままふわふわと印象によるその場しのぎの提案をしているうちに「そもそも何が適正なのか」がさっぱりわからなくなっているというのが日本の政治状況なのだといえる。

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