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岸田政権が「幽霊病床問題」を先送りへ

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共闘通信が「コロナ病床確保、法改正先送りへ」という記事を配信した。これまで協定(お願いベース)だったものが法令による強制になる。医師会は「お願いなら条件闘争ができるが法令となるとそれができない」と考えたのではないかと想像した。ただ、いろいろ読み返しているうちに実は「岸田総理が幽霊病床問題を先送りした」という見出しにすべきだったということがわかった。いわばマスコミの優しい嘘なのだ。

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今の所オミクロン株は感染力はかなり強いのだが重症化率はそれほど高くなりそうにないということになっている。もしそれが本当であれば現在のコロナ対策は過剰であり先送りにはさほど問題がないということになる。病院のリソースを使わずに自宅待機させていればいいからだ。

現在オミクロン株に関しては二つの異なる見方がある。南アフリカではオミクロン株の流行が収まりつつあるようで「実はこれがエンデミックかもしれない」と言われている。ところがイギリスではワクチン導入前ほどではないものの死者が出続けていて事態はかなり深刻に受け止められている。

岸田政権はこれまでの「全員入院」という前提を見直し「自宅療養」を認めようとしている。結果的にオミクロン株が軽微な株でありこれがパンデミックの終わり(エンデミック)であれば妥当な判断といえる。「結果的にいらないのなら別にいいじゃないか」という気分になる。

では、そもそもこの病床確保の見直しという話はどこから出てきたものなのだろうか。実はこれを持ち出したのは岸田総理自身だった。総裁選を念頭にテレビでの発言を受けて「病床確保「法改正も念頭に、国の責任はっきり」 岸田文雄前政調会長」という記事が出ている。これまでより踏み込んだ問題解決を模索する新しいリーダーという印象になる。菅総理ではなく岸田さんがふさわしいと考えられる大きな要因になった。

これを受けた12月中旬の日経新聞の記事は次のようにまとめる。なるほどと思わせる内容だ。

  • 第5波の反省から着想された。
  • 平時のうちから病院と協定を結んでおく。
    • 公立・公的病院には協定を義務付ける。
    • 民間病院にも協定協議に応じるように義務付ける。
  • 第5波では「幽霊病床」の問題があったため協定違反があれば病院名を公表する。また、病院がどのように対応化しているのかを制度的に透明化(見える化)する。
  • ただし病床を確保しただけで人材が確保できないと意味がない。人材確保に課題が残る。

この話は三つのパートからできている。「オミクロン株の流行が軽微なもので済めば第5波の反省はいらない」というのは最初のパートに対応している。だが2番目と3番目の問題は解決しない。

コロナの協力金は申請ベースだったため実際に応じるつもりはないのに申請して補助金だけをもらい実際には稼働していない病院があった。これを幽霊病床問題という。つまり病院のもらい得である。政権に批判的な朝日新聞は熱心にこの件を報道していた。ただ、この幽霊病床という名指しに日本医師会などはかなり抵抗したようだ。11月にはすでに政府の文書から幽霊病床という言葉は消えていたそうだ。

実際に調査が進めば幽霊病床問題で多額のコロナ助成金が病院に流れていたという実態が表面化しかねない。だから2022年の参議院選挙を前に医師会の支援を期待する自民党はこの政策を推進できない。

ではこれはコロナだけの問題なのかという話がある。

ダイヤモンドオンラインに「不正のにおい」という週刊誌めいた疑惑を追及した記事はあるが実態はわからないままに終わりそうだ。補助金によって経営を支えるというのは日本の病院では常態化したスキームだ。飲食店や個人経営のビジネスには厳しい審査が行われる一方で病院は申請ベースで協力資金を手にすることができていた。さらにこの補助金頼みというスキームはコロナ以外でも常態化している。これが議題になっただけで自民党と医師会の「不適切な関係」が問題になりかねない。

2021年の病院経営は国の手厚い補助のおかげで黒字を確保した。これが一部では「焼け太り」などと言われた。だが日本医師会は自分たちが国から支えてもらえるのは当然と考えているようだ。

医師会の会長は「医療現場は、新型コロナウイルスの感染拡大への対応で著しく疲弊しており、来年度の診療報酬改定ではちゅうちょなくプラス改定すべきだ。今後、新型コロナが収束していけば補助金は無くなるため、診療報酬できちんと手当てし、地域医療を立ち直らせることが必要だ」と発言している。

自分たちはコロナで疲れているのだから真っ先に労ってもらっても当然だと言っているのである。普段から自民党を支えているのだから優先的に利益が得られても当然だと考えているのであろう。だが、疲弊しているのは何も医師会だけではない。

岸田総理の発言はいつも最初は格好がいいのだが後が続かない。いつの間にか腰砕けになってしまうのである。ただ、ニュースを見ている人たちもその日のニュースを追いかけるのに精一杯で数ヶ月前のことはよく覚えていない。そのため次第に主張をフェイドアウトさせてゆけばなんとなく嘘をついているようには見えないのだ。

今回の方針撤回についてNHKとフジテレビも一応質問はしていた。おそらく彼らは問題の核心がどこにあるかを十分知っているのだろうが「実は制度を見直さなくても今のままで十分なんですよ」と虚ろな表情で語る総理大臣にそれ以上のことは聞かなかった。国民が忘れてしまっている以上は表立って政府に反抗して不愉快な思いをしたくないのだろうと思う。

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