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専制国家体制がどんな最期を迎えるかがわかるカザフスタン動乱

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カザフスタンで動乱が起きた。日本から離れた遠い国の話である。ポイントになるのは中華人民共和国のような専制主義の国家がどのような最期を迎え得るかということがわかることだろう。ナザルバエフ前大統領が失脚しロシアが治安出動した。カザフスタンは一つの時代を終えつつある。

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今後考えられるシナリオは二つある。一つは強い専制体制が終わりしばらく混乱が続くというシナリオである。もう一つはカザフスタンの独立を維持してきた強いナザルバエフがいなくなりロシアの勢力圏に再び組み込まれるというシナリオだ。どうやら今のところ二番目のシナリオに移行する可能性が高そうだ。

デモのきっかけはエネルギー資源の高騰だそうだ。車の燃料として使われている液化天然ガスの不足に起こった市民が暴動を起こした。暴動はたちまち全土に広がりアルマトイの街に広がった。デモ隊と治安部隊が衝突し数十人の死亡者が出た。インターネットが遮断され当局は「外国に扇動されている」と主張した。

この「外国に扇動された」というのがキーフレーズになっている。カザフスタンはロシアを盟主とするCSTOという集団安全保障体制の一員なのだが内乱では出動できないし出動しない。外国に脅かされているという主張があって初めてCSTOが介入できる。ところがロシアはやはり自分たちの得にならない出動はしない。つまり、ロシア側にも何らかの意図があると見るべきなのだろう。受け入れる側のトカエフ大統領と受け入れられるプーチン大統領との間に阿吽の呼吸が必要なのだ。

部隊規模は2,500人で出動期間は限定的ということになっている。

西側からの見え方は全く違っている。そもそもカザフスタンは民主主義が不十分なナザルバエフ独裁体制である。これまで大した騒ぎは起きていなかったのだが不満を持ち蜂起した市民を軍隊と政府が抑圧しているということになる。

ではカザフスタンはどのような体制の国だったのか。カザフスタンは政府の他に安全保障会議がナザルバイエフ前大統領が終身議長を務めていた。今回の暴動を受けてトカエフ大統領が議長になった。どことなく朝鮮民主主義人民共和国を思わせる。表に政府の他に安全保障会議という別の統治機関のある二重制度になっていたことになる。表向きは民主主義でありながらも実は民主主義の上のレイヤーがあるという専制状態だ。

結果的にトカエフ大統領がロシアの助けを受けて政府も安全保障会議も掌握した。

ナザルバイエフ前大統領はソ連時代は共産党幹部としてゴルバチョフ政権では中央アジア代表だった。ソ連の計画経済によりウズベキスタンには綿花栽培が割り当てられたがカザフスタンは工業化に成功した。このためカザフスタンの暮らし向きはこの域内では比較的豊かだった。

ナザルバイエフの権力は極めて強く南部の比較的温暖なアルマトイから北部のアスタナに首都を移転し、黒川紀章の都市計画を基盤とした人工都市を作り始める。このため記事ではアルマトイは首都ではなく最大都市と書かれている。のちにアスタナはヌルスルタンと改名されるのだがヌルスルタンはナザルバイエフ大統領のファーストネームだ。ナザルバエフ大統領はカザフスタンをロシアから切り離そうとしており文字もローマ文字に変えたそうだ。2025年までに移行する計画だったという。

今回ナザルバイエフ前大統領の銅像が引き倒されたという話があり治安部隊員に斬首された人もいるという。大統領が独裁傾向を強める中かなりの恨みを買っていたことがわかる。だか結果的にカザフスタンの人々はナザルバエフを追い出しロシアを引き入れることに手を貸したに過ぎない。

トカエフ大統領が最初からロシアを頼ったのかはわからない。最初に暴動が起きた時には内閣を総辞職させ事態収拾を図った。つまり対話するつもりだった。だが結果的にロシアを引き入れナザルバエフ前大統領を失脚させた。トカエフ大統領から見れば「後ろ盾」が変わっただけということになった。当然民衆は敵なので今後はベラルーシ型の独裁者としての道を歩み始めることになる。

人々の暮らし向きがなんとか保たれている間は一般市民が放棄することはない。つまり専制主義にせよ独裁主義にせよ結果がよければ大した問題は起こらない。だが市民が民主的に選択した政権ではないため生活が困窮したり経済が行き詰ったりするとこうした蜂起が起きる。

政府の対応もだいたい決まっている。自分たちの政権はいいことをやっていたのだから外国からそそのかされた一部のテロリストが反発しているだけであると考える。あとは力で押さえつけることができるかそれとも政府の方が覆されるかのどちらかだ。政府が覆ったとしても統一政府が簡単に作られることはない。つまり内乱に発展する。独裁政権ができたとしても潰しのきく人から海外に逃避してしまうので国力の発展は望めなくなる。

おそらくこうしたことは中華人民共和国のような専制主義国家でも起こり得るだろう。中国には後ろ盾になる国はないので共産党が強権的独裁に転じるかあるいは内乱が続くということになる。

イアン・ブレマーは恒例の10大リスクの第一位に中国のコロナ対策をおいた。これまで強権的な政策でゼロコロナ対策が成功してきた。しかし症状が軽い人が多い割に感染力が強いオミクロン株を防ぎきることはできないだろう。これまでの前提とバランスが崩れても性能の劣るワクチンしか持っていない中国はゼロコロナ対策を放棄できない。国民感情に火がつけばたちまち強権的に抑えざるを得なくなるだろうというのである。

アメリカ合衆国とEUはそれぞれ「民主主義のプロセスを守るように」とか「市民を弾圧しないように」などと主張はしているようだが今の所対抗策を取るつもりはないようだ。ロシアの勢力範囲のことであり影響が外にしみ出さない限りは外から見守っている方が得策だと判断しているのではないかと思う。

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