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タリバンの自爆部隊を笑えない日本人

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アフガニスタンを実効支配するタリバンが自爆部隊を作るという。ISホラサン州と呼ばれるテロリストの攻撃が激化しており、それに対抗するためには自分たちも自爆部隊を持たなければならないと考えたようだ。日本の特攻隊を思わせるが、こうした狂気が常態化していることがわかる。ただ、これを見て我々もタリバンを笑えないなと思った。

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タリバンは支配民族であるパシュトゥーン中心の政権だ。つまりアフガニスタンにはタリバンに対して好ましくない感情を持っている人たちも大勢いる。また民族といっても日本人が考えるものとはかなり違っている。全く異なる顔つきの人たちが同じ民族に所属していたり逆に遺伝的には同じでも言語が違うという理由で異なる民族だったりする。さらに民族の間には上下の序列がある。

イラン系の言葉を受け入れたタジクと受け入れなかったパシュトゥーンという言語受容の違いがある。またアイマクにもモンゴル系(つまり我々と同じ顔をしている)アイマクとペルシャ系の顔をしたアイマクがいる。東洋系の顔をしているハザラはイラン系の言葉を話すが差別の対象になっている。

こうした違いを持った人たちが抑圧された感情を持っておりISが付け入る隙を作っているのだろう。とはいえ単に敵対していたわけではなく、アメリカの保護国状態だった時には共同して政府軍と戦ったりしていたこともあったようだ。極めて複雑な関係にあり自爆報復という選択肢が捨てられない。

これを解決する選択肢は三つある。

  1. 全民族を平等にして話し合いの素地を作る民主主義型解決策
  2. 強い権威の下に諸民族を無理矢理にまとめる専制主義型の解決策
  3. 諸民族を無理矢理分離し別々の国を作る分離型対応策

大抵の地域では歴史的段階を経てこのうちのどれかを選択している。バルカン半島のように長い戦争を経て分離型を選択した地域もある。アメリカ合衆国は「1」の導入に失敗した。数十年で民主主義を浸透させることなどできないのである。すでに民主主義を体得した日本人から見ると「なぜ話し合えないのか?」と思うわけだが、信頼を基盤とした社会は一朝一夕で得られるものではない。

タリバン側にしてみれば「ISが自爆攻撃を仕掛けてくる以上、抑止力としては自爆部隊という選択肢は持っていなければならない」ということになる。

ではすでに民主主義が専制主義を体得した国はもっと理性的に問題に対処しているのだろうかということが気になる。

近頃、核爆弾を持っている5つの国が「自分たちは使うつもりはないが誰かが使うかもしれない」ので「我々が核兵器を持っておくのが一番の得策なのだ」と主張した。

根にある不信の構造は全く同じなのだがそれをQuoraで指摘したところ「合理的な」反論が多く寄せられた。相互不信と自己保身という感覚が合理性ではなく肌感覚のレイヤーにしっかりと組み込まれているということがわかる。ただ、無意識なのでそれをカバーするために「合理回路」が作動するのだろう。その抵抗が返って不信の根深さを感じさせる。

ロシアや中国が核爆弾を手放さない以上アメリカ合衆国が持っておくのも当たり前だと主張する人がいた。この人は日本人ではなくアメリカ人だ。

岸田政権は敵基地攻撃能力の検討を始めている。これもどちらかといえば軍拡の議論だ。アメリカが先制攻撃封印に動けば日本の軍拡論者のアテは外れる。ところがこの話をすると「いや、核は核だし通常兵器は通常兵器だ」と主張する人がいた。中国という強い敵がいるので合理性が麻痺してしまうのだろう。一貫性よりもその場の損得勘定の方が先に立ってしまうのだ。

さらに核は抑止力として機能しているが自爆攻撃はすでに実施段階に入っているから全く別の話であって例えるのは適切ではないという人もいた。いっけん正しそうな話だが今後も核が抑止力として機能し続けるという保証はどこにもない。逆に「我々の兵士は死をも厭わないほど勇猛なのだ」という主張が抑止力になっているという段階もあるはずである。

割と複雑な思考が働いている。ベースに何らかの損得勘定がありそれが最大化するように合理性を調整して話をしている。さらに「無条件に信頼できる仲間」と「全く信頼できない相手」が明確に区別されていて、それぞれに異なる合理的推論が働く。アメリカが日本を裏切ることは決してないがロシアは怪しいし中国に至ってはは無条件に日本を狙ってくると多くの人が当然のことのように考える。アメリカ・日本・ロシア・中国という序列がありそれを維持する方向に合理性を調整しているのである。

ただ、こうした意識をよそに核を持っていない国の中には「核兵器を非合法化しよう」という動きがある。つまりルールが変わりつつある。この記事を書いている時点では80の国が署名し50以上の国が批准しているようだ。

こうした背景があり様々なことでいちいちいがみ合っている大国同士が協力することになった。

例えば中国は「核戦争を防ぐ政治的意志を体現し、全世界の戦略的安定を守り核による衝突のリスクを減らす共通した声を発した」と説明したそうだ。米中は近年の緊張の最大当事者だが「自分たちこそが平和を守る」と主張している。双方不信感を持ちつつも特権保持に関しては一致団結してしまうという浅ましさもあるがそれだけ核兵器非合法化という流れが力を持ち始めていることを意味しているのだと思う。特権国も特権保持に必死になっているのである。

必ずしもどちらに従えという話でもないのだが、少なくとも新しいルールを元に世界を理解するように努めなければならないのだろうと思う。

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