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中華人民共和国がまた独裁国家の身元引き受け人になる

アメリカ合衆国が民主主義サミットを開催した。日本では中国包囲網と言われているのだが、実際の招待国のリストを見ると、アメリカの国が多く招待されていることがわかる。招待されていない国はキューバ・ベネズエラ・エルサルバドル・グアテマラ・ニカラグア・ホンジュラス・ハイチ・ボリビアしかないそうだ。

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皮肉なことにこれらの国が反米なのはほぼアメリカのせいと言ってよい。

キューバは親米国家だったが革命が起こり反米に転じた。合衆国の喉に刺さったトゲであり1962年にソ連がキューバに極秘裏に核ミサイルを送り込んだことで、すわ「第三次世界大戦」かというところまで行った。

ベネズエラは石油利権がありアメリカがチャベス大統領を失脚させた。だが介入は失敗し以降は反米化が進んだ。

エルサルバドル・グアテマラ・ニカラグア・ホンジュラスはアメリカの企業がフルーツプランテーションを持っていた。これらの企業が作ったインフラを守るためにアメリカ合衆国も政治介入し、それが反動化して反米化した国が多い。軍隊を放棄したコスタリカを除く国々は今ではアメリカへの移民・難民供給基地になっている。ホンジュラスは反米社会主義すら発展せず人々は諦めたままだったそうだが近年やはり左傾化しているという。

これらの国々は、元はと言えばアメリカが「関心を持っていた」がゆえに反米化した国である。関心の内容は様々で資源だったり果物だったりする。アメリカ合衆国は近隣国を従属させることでエネルギーや食べ物を確保して来たと言う歴史がある。特に中米はその色合いが強い。こうして反米化した国をパーティーに招かずに他の国々を招待するというところにこのサミットの底意地の悪さがある。

ボリビアだけは少し事情が違っているようだ。モラレス大統領は周囲の反対を押し切って4度目の当選を果たす。しかし国内から反発を受けモラレス大統領は退任させられる。選挙でも不正疑惑があったそうだ。このときアメリカなどが介入してアニェス暫定大統領が生まれた。ここからモラレス派が巻き返し今度はアニェス暫定大統領が逮捕されてしまう。

ボリビアは多民族国家だがスペイン系と原住民系の間に貧富の差などの格差があるのだろう。企業の恩恵を受けていない原住民系の人たちが左派的な政策を志向するのはよくわかる。2013年の記事では2006年から大統領に就任したモラレス大統領の元で多くの企業が国営化されていると書かれている。やはりこれで利権を失った米系企業も多かったのだろうなと思う。

ボリビアの状況は複雑だ。2019年の日経の記事によるとモラレス大統領のもとで格差は縮まったが、代わりに独裁が進行した。かつてのように一部の人が富を独占する政治もいやだが、かといってモラレス大統領が居座ってベネズエラ化をすることも避けたいという複雑な気持ちがあったようだ。

ボリビアと同じ左傾化はチリでも起きている。チリの経済政策はアメリカのシカゴボーイズと呼ばれる人たちが立案した。このためチリは長らく「シカゴ学派の優等生」と呼ばれていた。だが格差拡大に憤った人たちがデモを繰り返すようになりついに憲法を改正し新自由主義的な体制を見直そうということになりつつある。チリではまだ大統領の多選は起こっていないので「民主主義国」だが、ベネズエラやボリビアと同じような道をたどる可能性は極めて高い。

格差が確定し国民全体が一つの選択を受容できなくなったこれらの国ではもはや民主主義的な政治は成り立たない。中南米で民主主義が保証しているのは企業活動とお金儲けの自由なので、当然そこからこぼれ落ちた人たちの不満が鬱積してしまうのだ。

バイデン大統領がいくら民主主義の素晴らしさを訴えたとしても「民主主義の恩恵」がトリクルダウンすることはない。

これまで中南米の国が反米化するとその受け手になるのはソ連だった。だがソ連がなくなったことでその代わりになりつつあるのが中国だ。

ニカラグアは政情が安定せずまともな民主主義が実施できる体制ではない。左派のオルテガ大統領が連続4選・合計5選目を果たしたばかりだ。対抗馬を拘束するというのはこの手の独裁国家ではよくあることなのだがニカラグアは混乱しすぎていて「いつ頃こうなったのか、どうすれば正常化できるのか」がさっぱりわからない。民主主義サミットに合わせるように台湾と断交し「共産党が唯一の正当な政権である」と認めた。

アメリカ合衆国は不正で選ばれた大統領が台湾断交を決めてもその決定は有効ではないと非難したそうだ。だがよく考えて見ればアメリカ合衆国も台湾とは断交しているのだからニカラグアを非難する筋合いはないように思える。

こうした欺瞞が中国に付け入る隙を与える。とはいえ中国が手に入れることができる国はそもそも経済がうまくいっておらず、政治リーダーたちも大抵国家経営能力が著しく乏しいので「世界の残り物」にしかならない。結局バーゲンセールの売れ残りを引き受けることになってしまうのだ。

その顕著な例が中国から緩衝地帯として利用されている朝鮮民主主義人民共和国だろう。朝鮮民主主義人民共和国の価値は大韓民国にいる駐留米軍との間にハッファゾーンを作ることなのだがそのために独裁王朝を押し付けられた北朝鮮の人民たちは多大な苦労を強いられている。同じ民族の大韓民国があれだけ発展したのを見れば機会損失がいかに大きかったのかがわかるだろう。中国は衛星国を手に入れることはできても独自の経済圏を作ることはできない。

中国はニカラグアを通じて「民主主義サミット」にケチをつけたいのだとは思うのだが実際には厄介な国を一つ引き取っただけということになってしまう。読売新聞はホンジュラスも台湾断交の動きに追随する可能性があると伝えていたが、ホンジュラスの時期政権は台湾と断交しないことを決めたそうだ。

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