フジレテレビが退職者を募っているそうだ。満50歳以上で10年以上勤めている人が対象だという。フジテレビで終身雇用制が崩壊していることがわかる。
終身雇用制度とは若い人を安い給料で使う代わりに身分を保証して安心して会社に貢献させようという制度だ。つまりこの制度の意味するところは若い人たちに「将来を保証しない」という宣言になっている。実際に多くの若手がやめているそうだが彼らが辞める理由は将来不安ではない。フジテレビにいても作りたい番組が作れないからというのが理由なのだそうだ。
一体何が起きているのかと考えた。キーワードは「ディメンター型老害」である。
「社員」というのは専属契約なのだから面白い企画があってもフジテレビ以外に提案はできない。だが昔はテレビ番組を作ろうとすればキー局に所属して地上波で流すしかなかった。だが現在のテレビ局にそれほど独占的な地位はない。とはいえやめると収入も下がるし将来に不安もある。だから踏みとどまっていたという人も多いのだろう。
選択肢は増え、フジテレビの給料もそれほど魅力的ではなくなり、将来の面倒も見てもらえないとなるとこうした歯止めが全く効かなくなる。だから若手が流出する。さらに「そもそも最初から地上波は目指さない」という人も増えるだろう。
ただ、この話はフジテレビ特有の事情であって「エンターティンメント業界全体」に当てはめられないのかもしれないと思う。類似案件を探したところNHKに同じような事例があることがわかった。共通しているのは経営の恣意性である。つまり社員・職員が経営の方向性にうっすらとした疑念を持っている。
「俺たちと経営者ではなんか違うんじゃないの?」と思っている人が多いようなのだ。
「ためしてガッテン」が打ち切りになるかもしれないというニュースがあった。人気があるのになぜと話題になっている。NHKの経営者はおそらく視聴者ではなく別の何かを見て番組編成をしているのでは?と疑われている。
背景として指摘されているのはみずほ銀行出身の前田晃伸会長である。みずほ銀行時代には強権的な人事で有名だったそうだがNHKでも辣腕を振るっているのだという。こちらはなぜか文春が熱心に追っている。
NHKは現役幹部を8名子会社に出向させるなどの人事を行う一方で「次期トップマネジメント人財選抜プログラム」という意欲的な次世代人材発掘のプロジェクトも立ち上げているそうだ。若手に光を当てているのだからいいことのようにも感じられる。
前田会長がみずほホールディング会長になった2002年障害の「釈明に追われた人」ということになっている。国会答弁の際などには問題発言もあり物議を醸していたそうだ。問題は一度収束するのだが前田さんがみずほを離れたあとの2011年にまた問題が起きた。この時にも「現場が悪いのではなく経営者がシステム投資を十分にしなかったから問題が起きたのではないか」という指摘があった。さらに今回は業務改善命令まで受けて経営陣が退陣するのだが「運用体制を軽んじたのが問題なのではないか?」と指摘されている。
同じことを繰り返している。
結局、現場と遊離していた経営陣は20年も問題が解決できていない。そしてそれが次第にエンドユーザーに「みずほ銀行って大丈夫なのか?」という疑念を与えるまでになる。国も改善命令を出すがおそらく解決できるとは思っていないだろう。
地上波が独占的地位を失いつつあるように都市銀行にも代替決済手段が増えている。不便なみずほ銀行に口座を持たずコンビニや流通大手の銀行にシフトする人はこれからも増えるだろう。
確かに「古い人たちを切り捨てて新しいリーダーを育てる」のは意味のある改革である気がするのだがNHKに関する記事を読むと「次世代リーダーの選抜方法がよくわからない」と指摘されている。
切り捨てられたくないトップマネージャーたちは上司の顔色を伺うようになり「なぜこの番組が残りこの番組が切られるのか」の説明もなされない。NHKの若手がやる気を無くしたとしても何も不思議はない。
前田さんが悪いわけではないのだろう。こういう人が選ばれて現場感覚と離れたところで経営判断が行われることが問題なのだ。
フジテレビでも経営と現場の遊離が問題になっている。「面白いものを作っても認めてもらえない」という不満だ。フジテレビの収益を左右しているのは不動産事業でありテレビはもはや本業ではないそうだ。記事によると日枝相談役からカラオケでの歌いっぷりが気に入られた矢延隆生さんという人が編成制作局長になったとされている。相談役の覚えがめでたい人が出世をするという構造ができているというのだ。
おそらくフジテレビの経営陣もNHKの経営陣も「自分たちは現場から支持されているはずだ」と信じているのではないだろうか。周りには経営者を褒め称える人たちで溢れているのだろう。だから自分たちが集団で害悪になっているということには気がつけない。
この世代の経営者は専門的なマネジメント教育を受けたわけではなく、企業改革はカンと思いこみに基づいたものになりがちだ。しかもその成功体験は高度経済成長きという極めて例外的だった時代の功績にすぎない。風に乗って一生懸命羽ばたいていれば成功ができた、そんな時代である。
改革を褒め称えていい気分にさせる人が出世する一方で、黙って働く「運用」などの投資は削られ、面白いものを作りたい・新しいことに挑戦したいという人たちはそのままその状況に慣れてしまうか見切りをつけてやめてしまうのである。
つまり現代の経営者の老害は「ディメンター型」といえる。ゴーストのように現場のやる気を吸い取ってしまう。おそらくディメンター当人たちはそれに気がついていないだろう。
周囲には「この船にしがみついていたい」人たちが大勢いてトップを褒め称えているだろうからである。周りの取り巻きたちも必死に違いない。嘘がバレてしまえば自分たちの地位が危なくなってしまうわけだから必死で踊り続けるしかないわけである。
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