ざっくり解説 時々深掘り

日本の警察のレイシャルプロファイリング問題

Xで投稿をシェア

カテゴリー:

アメリカの大使館が発したツイートが静かな波紋を広げている。日本の警察が人種プロファイリングをやっているというのだ。この人種プロファイリングという言葉はアメリカではかなりショッキングな言葉である。アメリカ合衆国が日本政府を信頼していないことがわかる。中国があるからその不信感が表面化しないだけなのかもしれない。

Follow on LinkedIn

コンテンツのリクエストや誤字脱字の報告はこちらまで

|サイトトップ| |国内政治| |国際| |経済|






Tweetはこう書かれている。

アメリカ大使館は外国人が人種プロファイリングが疑われる案件によって警察に止められ捜索されているという報告(複数)を受け取った。何人かは勾留され質問され捜索された。アメリカ人は移民証を携帯し拘束された場合には領事館に通報するべきである。

「外国人」がレイシャルプロファイリングで職質を受けた疑いがあると書かれてはいるがアメリカ人が拘束されたという話ではないようだ。むしろ日本では人種的に不当な扱いを受けることはあるが同盟国で特別扱いされているアメリカの市民であることが証明されればひどい扱いは受けないであろうから予防措置を講じるようにと読み取れる内容である。さらに警察を牽制する意味で「アメリカ市民が拘束されたら外交問題にするから報告してこい」と言っているようにさえ読める。

つまり大使館は「日本の警察は人種差別的だと疑われている」と書いていて、これについて議論をするつもりはなさそうだ。

二つの点で衝撃を受けた。まず日本政府になんの報告もなくこの問題がTwitterで発信されたという点だ。これは外交的信頼関係のない国(例えば中華人民共和国)などに対して取られる手法である。岸田政権とバイデン政権はうまく意思疎通ができていないのかもしれないと感じた。もちろん連携がなかったという確証はないのだが松野官房長官の応答を見る限り官房長官が問題を深刻に捉えていないことがわかる。

松野博一官房長官は米大使館の警告に関する質問に対し、警察はさまざまな要素に基づいて疑わしい個人に職務質問を行うが、その判断は民族や国籍に基づくものではないと答えた。

いつも野党の指摘をスルーする調子で「ご指摘には当たりません」とやってしまったのである。

次の衝撃点は日本側の対応の軽さである。同盟国の大使館が「日本の警察は人種差別的な取り締まりをやっている疑いがある」と堂々と指摘しているのだが、誰もそれを問題視しない。

すでにこの問題は英語の新聞では広く出回っている。大使館も細かい情報を出していないので「好きに憶測し放題」になっている。例えばワシントンポストは日本が新型コロナ対策で外国からの人流をすべて止めてしまったことと結びつけている。すると読者は当然「新型コロナ対策」で留め置かれたのかと想像するだろう。日本はxenophobiaだからすぐに国を閉じてしまうのだ、非科学的だなどと指摘されているのだが、これについても「ご指摘には当たらない」以上の説明はしない。

すでに元ツイートには様々な「不当な扱い」についての不満が複数件ついていた。長年にわたり「東洋人に見えない」という理由で職質を受けている人たちがいて「ついにアメリカ側の当局が問題を認めた」と見えるような状態になっているのだ。この英文を少しでも読んだ後に、松野官房長官のコメントを再度見れば「この人は問題を深刻に受け止めていないばかりかなかったことにしようとしている」と思うかもしれない。

元ツイートにはチャック・ウイルソンさんの「移民証明」というツイートがついている。1970年に来日した有名なテレビタレントだった人だ。いつまでも外国人証明が必要な国であるということだ。

もっと言えば少しでもヨーロッパ系やアフリカ系の見た目が混じっていれば日本国籍者であったとしてもパスポートや身分証明書を持たなければいけない国ということになる。実際に「見た目が異なる」日本人はいつもこのような不当な扱いをされて来たということになるのだが「普通の見た目の」日本人には全くその痛みがわからない。

これについて検索していたところアメリカ人が日本の入管を提訴した事件と結びつけたTweetをしている人がいた。ハイチ系のアメリカ人だったが再入国の際にビザが失効してたために入管に留め置かれたそうだ。喘息に悪いからという理由で石鹸を拒否したら暴行されたと訴えているそうだ。

日本人の感覚からすれば「密入国しようとしたのだから仕方がない」という感じになると思うのだが(実際にヤフーニュースではそういうコメントがついている)アメリカ合衆国では公権力が有色人種に不当な扱いをしている疑いは大規模なデモが起こるほど重要な問題である。だからその疑いをかけられた人はまずは全力で否定しようとする。人種差別者認定されることが社会生活に与えるマイナスが非常に大きい国なのである。

「無策である」と後から指摘されかねないアメリカ大使館が先手を打ったと考えてもおかしくないわけだが、日本の政権はこの問題をとても粗末に扱っているように思えてならない。

近年、アメリカは対中国キャンペーンで人道を前面に打ち出す傾向にある。日本を自陣営に巻き込んでおくと便利なので表立っては指摘されないのだが、おそらくアメリカ政府は日本政府の人道対応状況を信頼していないのだろうなと思う。つまり中国があるから表面化しないだけであって、そもそもアメリカ合衆国は日本政府を信頼していないのである。

12月9日と10日にはバイデン大統領主催の「民主主義サミット」が開かれるそうだ。日米両政府はおそらくこのタイミングで外交的な懸念材料になるようなやりとりはやりたくなかったんだろうなとも思う。

コンテンツのリクエストや誤字脱字の報告はこちらまで