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新潟県第五区「泉田裕彦の乱」の波紋

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新潟県第五区から立候補した泉田裕彦衆議院議員の発言が物議を醸している。「地元の県議から裏金を要求された」というのだ。当初は勝手に騒いでいるだけなのではないかとも見られていたが実際に音声が出てきたことで状況が変わってしまった。ただ、実際に裏金は渡っていなかったので犯罪にはならない。なんとも不思議な「事件」である。

この話を調べていて、問題はむしろ新潟県第五区ではなく「泉田さんにならなかった国会議員」にあるんだろうなと感じた。全国には「星野さん」がたくさんいるはずで領収書のいらないお金を持っている議員の中には「転んだ」人もいるかもしれない。

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まず、背景から見てゆこう。長岡市はもともと田中角栄氏の地元である。今回名指しされた星野伊佐夫さんは越山会の青年部長だった経歴があるそうだ。田中角栄を支えつつ「頭でなく体で」選挙を覚えたのだろうと思われる。中選挙区時代の選挙といえば大体相場が決まっている。いわゆる金権選挙である。

この選挙区は面白いところだ。田中角栄の娘である田中真紀子さんが民主党に移ったために保守でありながら自民党が磐石というわけではないという状況にあった。だが近年はある程度情勢が固定化されていたようだ。

過去の選挙結果を見てみたところ米山隆一候補は最初は自民党で出馬したが比例復活もできなかった。おそらくこのために自民党公認を維持できず維新から出馬したのだと思う。さらに今回は立憲民主党などの応援を受けた上で無所属議員として出馬して当選している。そもそもこの選挙区では政党の名前にはそれほど意味がないようだ。限られた有権者を各政党が取り合っているのだ。

県知事の知名度と実績がある泉田さんが自民党から担がれた前回の選挙では自民党が盛り返し9万票の支持を得た。この時の野党票は7万9千票だった。これは今回米山さんが獲得した票数と同じだ。

では今回、泉田さんが票を減らしたのはどうしてなのだろうか。

背景にあるのは森民夫さんの存在である。森民夫さんは建設省の官僚を経てポスト泉田の知事選に出るが米山さんに敗北している。米山隆一さんの得票は52万票で森さんの得票は46万票だった。

今回、森さんは新潟県第五区を回りながら手応えをつかみ「立候補を決めた」のだという。前回自民党の泉田さんに投票した人が9万人あまりだったが、回は泉田さんと森さんを合わせて9万7千票程度になっている。おそらく前回自民党の泉田さんに入れた人の多くがなんらかの理由で森さんに流れたと見ることができそうである。

つまり足元で自民党の誰かがまとめていた票が割れたわけである。

越山会で「体で選挙を覚えた」ような人がこうした緊迫した状態を見ればおそらく「最後は実弾だ」と思うのではないかと思う。つまり昭和の感覚で星野さんが「泉田さんが個人的なお金を秘書にも知らせずに出さないと有力者をまとめられない」と考えても不思議ではない。逆に泉田さんが「要求を断ったから星野さんが地元をまとめてくれなかった」と考えても不思議ではない。つまり本当に何が起きていたのかはわからない。双方が仲違いしているからである。

星野さんの会見はどこか要領を得ないものだった。有権者もマスコミも「金権政治ではなかった」という説明が聞きたい。だが、おそらく星野さんはそういう感覚は共有していないのだろうと思う。

泉田さんのテープが真実ならば、清潔な政治など単なる綺麗事で「お世話になっている人に動いていただくのだから当然誠意を見せなければならない」と考えていたのではないかと思える。そして誠意とはお金のことなのだ。「そういう金は秘書にも知らせず本人がなんとか工面すべきもの」で「議員になればあとで取り返せるだろう」と考えていたのかもしれない。

もし票が割れて比例復活もできなければ次には公認が得られないかもしれない。そうなれば自分の権威の裏打ちがなくなる。まさに人生が終わるような出来事である。

星野さんは「自分はよそ者の泉田さんをこの地域に呼び寄せて定着させた」という気持ちがあったのだろう。師弟関係で温情をかけてやったのに言いがかりをつけられてそんなことも言っていられなくなったと会見で縷々訴えた。有権者の感覚とはあまりにもかけ離れた本音の開陳だった。

これは「選挙区という利権」の争奪戦である。最悪、比例でも当選してもらえなければ担いでいた人たちが全員冷や飯を食うことになるという危機感を持っているのは何も新潟県第五区の星野さんだけではないだろう。他にもたくさんいるはずだ。

ただ冒頭で述べたようにこれは全て何の根拠もない憶測に過ぎず、実際にはお金は渡っていないのだから犯罪ではない。「知らぬ存ぜぬ」で通せばそのうちに消えてなくなるだろう。

表には出てこないようなこうしたエピソードはいくらでもあると思うのだがこれが表ざたになることはない。

唯一の例外が広島の河井克行元法務大臣のケースである。自分は総理大臣に守られている特別な存在であるという油断があったのかもしれない。ただ、あのケースでさえもらった方の証言が得られなければ立件できなかった。結局、司法取引のような形で(新聞はそうは書けないので「事実上の司法取引」などと書いていた)100人を不起訴処分にしなければならなかった。この河合さんの件がいかに根深かったのかは検察の証言を聞けばわかる。検察幹部は当時、「地元政界への影響が大きい。しばらく様子を見て、適切に判断する」と語っていたそうだ。

泉田さんのケースは次の参議院選挙に大きな影響を与えそうだ。自民党が文通費日割りの問題の先送りを決定したそうだ。領収書の添付が問題になっているのだという。これまで立憲民主党などの野党もこの件には触れてこなかった。おそらくこの件に手をつければ領収書問題にも触れざるを得なくなる。だが維新が加わったことで「どうせ自民党はこの問題には触れられないだろう」と考えたのかもしれない。

触れられないならば改正されることはないわけだからその間「自民党には改革意欲がない」と宣伝できる。なんとなくチキンレースじみているのだが勝負強さを感じさせる。

おそらく「今後領収書を出せ」ということになれば、全国の星野さんのいうことを聞いて「これまで議員本人の裁量でなんとかしていた」人たちが大勢困る事になる。それを知っているのはそれぞれの議員さん達だけなのだから「人には言えないことも多い」んだろうなあと思う。茂木幹事長が「領収書は無理」と言っている。自分たちが把握していないいろんなことが噴出するのは目に見えている。あるいは適度に濁った水出ないと魚は住めませんよと反旗をひるがえす地方の有力者もいることだろう。

実際にどれくらいの星野さんが全国にいるのかはおそらく議員達しか知らない。つまり、実際に改革ができるかどうかという本当のところは抵抗している国会議員さんたちにしかわからないことになる。

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