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アメリカで高まるインフレ懸念

バイデン大統領がアメリカのインフレについて言及した。インフレ対策は政権の優先課題だというのだ。アメリカで起きているインフレの深刻さがわかる。ロイターによると大統領が示した対策は二つである。

  • エネルギー価格を抑制する方策を模索する米国家経済会議(NEC)に指示した
  • 連邦取引委員会(FTC)に対しても、エネルギー部門における市場操作や便乗値上げなどの阻止に取り組むよう求めた
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一方で連邦準備銀行の金融政策には注文をつけなかった。これまでも距離の取り方には苦労しているようだ。独立性を侵せば大混乱に陥りかねないという懸念があるのだろう。11月末までに人事が行われパウエル議長が続投するかどうかが注目されている。パウエル議長はイエレン議長の後任としてトランプ前大統領に指名されたという経緯がある。退任させてイエレン財務長官を議長に戻すという選択肢もあるようだが、FRB議長と新財務長官承認のプロセスが複雑になるため現状維持が好ましいのではないかとロイターは書いている。

アメリカのインフレはどれくらい深刻なのだろうか。価格上昇はEU、中国でも起きている。アメリカだけが例外というわけではない。

一方でアメリカはインフレスパイラルに陥りかけていると指摘する声がある。記事を探して読んでも確定的なことはわからない。日本語で記事がないので英語を探してみた。ビジネスインサイダーの記事が見つかった。

  • アメリカは10月に30年ぶりの高いインフレ水準を記録した。
  • 1つ(アパレル)を除く全てのセクターでインフレが起こっている。
  • インフレを牽引したのはエネルギーコストの上昇だ。
  • このインフレ上昇が例外的なものかはまだわからない。
  • インフレスパイラルは企業がインフレを持続すると起こる。労働力が得にくくなるために賃金上昇が起こりそれがさらにインフレを加速させる。
  • 1980年代にはインフレを抑制するために高金利政策を取ったがかなりの副作用をもたらした。
  • FRBの調査によると多くのアメリカ人がインフレを予測しているようだ。
  • バイデン政権とFRBは「11月はじめにはインフレが収まるだろう」と予測していたが10月の実測値はその根拠が脆弱であることを示している。
  • エネルギー危機が収まればインフレ危機は緩和されるかもしれない。つまりまだパニックに陥るときではないが警戒はしておいたほうがいいだろう。

このまま金融政策を推し進めたいパウエル議長も、バイデン大統領も明らかにインフレを小さく見せようとしてきたようだ。だがその予想は外れつつある。

インフレのきっかけは石油などのエネルギー価格の上昇なので影響は限定的になるはずだ。だが、インフレスパイラルの元凶の一つは人件費高騰のようである。NHKはコロナで簡単にくびを切られたり接客を通じて飛沫を浴びるなどのリスクのある仕事から別の仕事を目指すようになったのではないだろうかと言っている。このためサービス業に人が集まりにくくなっているそうだ。

これについて人々が語りたがらないことがある。バイデン大統領が大統領令で最低賃金をあげようとしているのである。もちろん政府が全米労働者の賃金を上げることはできないので連邦と契約する職員の給与の引き上げを行おうとした。またインフラ投資にも積極的である。つまり政府が中心となって需要を創出しようとしている。

つまり格差縮小のために行った政策が却って国民を苦しめかねない状況になっている。

では日本はこれをどう解釈すべきなのだろうか。

バイデン大統領の目指す新しい経済政策は岸田総理が目指している「新しい資本主義」の一つのモデルになっている。例えば岸田総理も政府雇用の賃金を引き上げると言っている。医療介護などは支出を政策的に増やせば間接的にではあるが労働者の賃金を上げることができる。これはバイデン政権の政策のコピー・アンド・ペーストだ。

これだけを近視眼的に見ると「やはり最低賃金の引き上げ」や「公共事業のバラマキ」などはインフレを起こすからやめておいたほうがいいのではないか?という議論が起こりそうだ。特に議論に勝つことが目的になっている日本の政治論壇では我田引水と相手の主張の否定のために都合の良い論が形成されがちである。

だが一方で格差拡大も見過ごすことができない課題である。岸田総理は自らが主張したように経済を過熱させないように格差を縮小させるという課題に取り組まざるを得なくなるだろう。

アメリカでインフレスパイラルが起きるのは企業などがインフレを予測するからである。つまり、企業が「今ビジネスを始めれば儲かる」と思うからインフレが起こる。日本のようになんとなく長期停滞が予想され悲観論が支配する国では投資が起こらない可能性がある。これまで成長と無縁だった日本では輸入物資とエネルギーの価格だけが上がり民間セクターの賃金が上がらず投資も増えないというスタグフレーションが起こる可能性があるということになる。

加えてアメリカの急激な経済加熱は「急激な金融引き締め」を引き起こす。アメリカは徐々に金融引き締めを行うテーパードを実施している。ある程度余裕をもって金融引き締めに転じることで世界の金融が対応できるようにしている。ところがアメリカの都合で急激な金融引き締めが進むと恐らく新興国では資金調達ができない国が出てくるだろう。

加えて出口戦略が塞がれている日本はそもそも金融引き締めに追従することができない。成長を予想する人が少ないが故に日本国内でインフレが過熱することはないかもしれないが日本に向かっていた資金の流出くらいは起こるだろう。割合としては多くないがそれでも海外投資家は日本国債も買っている。

世界経済はコロナ後の予測が難しいフェイズに突入しようとしている。単なる復興ではなくある程度の構造変化も同時に起こるからである。コロナ禍の終わり(これも本当に終わるかどうかはわからないが)は問題の終わりではないということになる。むしろ新しい始まりなのである。

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