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アパレル産業の概況をまとめる

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Facebookのタイムラインに「バナー広告は終った」とか「SNSは危ない」というような書き込みが見られるようになった。これに反論したいのだが、そのままでは言葉が通じない。それぞれの業界には特有の用語と事情があり、通訳しないと話が通じないからだ。なぜ、このような状況が生まれたかというと、やはり終身雇用制の影響が大きいのではないかと思う。
ここでは「アパレル産業」を例にとって、この業界を理解するところから始めたい。できれば直接話ができるとうれしいのだが、コンタクトもないので、本で調べることにする。事実誤認などがあれば、お知らせいただきたい。

アパレルの特徴

特定業界の情報は『会社四季報 業界地図 2013年版』などを読むと簡単に手に入る。また、専門雑誌にも参考にできるものがある。
アパレル産業にはいくつかの特徴がある。衣食住の一つである衣料品は生活必需品だ。その市場規模は8.9兆円(2010年:矢野経済研究所)だそうだ。そのうちカジュアル衣料は1兆円強(日経MJ)の市場規模があるそうだ。繊維産業は軽工業に分類される。設備投資が比較的安価であり、参入がしやすい。結果、独占や寡占といった状況が作られにくく、ユニクロ(ファーストリテーリング全体で年間8,200億円の売上があるが、海外の売上を含んでいるはずだ)が登場するまでは、上位でも数パーセントのシェアしかなかったそうだ。また「流行」や「ブランドイメージ」の存在があり、情報が売上げに大きなインパクトを与える。つまり、製造業と情報産業という二つの側面を持っていることになる。

それぞれの停滞

近年、アパルレ産業はいくつかの理由で停滞しているが、その停滞の様子は語り手によって大きく異なる。第一の停滞は繊維産業の停滞だ。第二次世界大戦前の日本は軽工業が盛んな国だったので、産業育成は国が主導して行われていた。戦後、重工業が盛んになるとその調整力は失われしまった。縫製などの一部工程が中国に流れ、製造業としてのシステムが分断される。アパレル産業の一部で、中国や韓国を敵対視するような意見が聞かれるのはそのためではないかと思われる。
次に、デパートの優位が崩れつつある。代わりに台頭しつつあるのが、専門店、アウトレット、e-commerceなどである。かつては、デパートとジーンズカジュアル店が住み分けていたのだが、ジーンズショップはセレクトショップやユニクロなどのSPAに取って代わられつつある。つまり、ジーンズからカジュアルという変化が起きたようだ。デパートは特定のアパレルメーカーとのつながりを持っているので、関連する会社全体が不況観を持つようになる。
第三の停滞はセールが常態化したことだろう。かつて何らかの形で存在した「レギュレータ」が壊れてしまったのではないかと考えられる。かつては、デパートが主体になって時期を調整していたのではないかと思われるが、これに関する資料は見つからなかった。
総論すると産業内調整力のなさが問題だ。産業内調整が利かないのは、新規参入が容易く、業界を支配するようなプレイヤーが現れないからだと考えられる。
価格が低位で推移するようになった理由は消費者側にあるのだろう。将来が不安であり、可処分所得が少なくなってしまったからだ。最後にブランドセールスを支えたのはパラサイトシングルと呼ばれる人たちだった。インポート品の売上げは、2005年には1兆2,000億円あったのだが、リーマンショックの影響もあり、7,700億円まで減少してしまった。若年シングル層の多くが非正規雇用化していることを考えると、大衆がブランド品を買い支えるというようなことはしばらく起きそうにない。また、消費の主眼が「モノ」から、イベントや関係性の構築という「コト」に移りつつあるのだという観測もある。
セールが濫用されるのには別の理由もありそうだ。もともとアパレル産業は寡占が起きにくいので、メーカーが価格やトレンドを発信するのが難しい。ユナイテッドアローズの竹田光広社長は、市場でプレゼンスを持って情報発信するためには、少なくとも1%のシェア(1,000億円)が必要だと言っている。ユナイテッドアローズは業界10位以内の売上げを誇り、決して中小規模ではないにも関わらず、影響力を持つのにぎりぎりの規模だと言っていることになる。アパレルメーカー1社で情報発信ができないのだから、別の存在が情報を制御し、セールを調整していたものと思われる。
すると考えられるのは、テレビや雑誌などのマスメディアかデパートの存在である。雑誌も寡占が起きにくい(新規参入がしやすい)ことを考えると、残るのはデパートとデパート系列の専門店街が産業内の調整者としての役割を果たし、それをテレビや雑誌が増幅していたのではないかと考えられる。つまり、デパートがその地位から転落することで、産業内の調整が利かなくなったものと類推することができる。デパートなどのレギュレータの役割は2つある。1つはセールを調整することで、利益を維持するという機能だ。もう1つは「流行おくれ」を作る事で、過去の流通在庫やタンスの中の衣類の価値をなくしてしまうという機能である。流行おくれがあるからこそ「新しい流行」が成立するわけだが、全てがユニクロ化(ここでは低価格の定番化くらいの意味である)してしまえば、新しい衣類を買う必要はない。
現在ではe-commerce、ユニクロなどの専門店、アウトレットモールと販売チャネルが多様化し、それぞれに集客の手段としてセールを濫用している。本の中には低価格化だけではなく「どれも同じようなものを売るようになってしまった」と「流行の消失」を心配する記述もあった。このような環境は、例えば携帯電話会社や高速通信網の値引きと囲い込みのような状態を生み出す。サービス内容で差違を作る事ができず、値引きが状態化する。
100x100本来なら、価格競争が起こると大手が価格操作の主導権を握ることになるはずだ。中小のプレイヤーは淘汰され、市場を支配することになったプレイヤーが残余利益を享受する。その候補になる大手プレイヤーはユニクロ(ファーストリテイリング)なのだが、今の所、そうしたことは起きていない。もともと、新規参入が容易く、流行というつかみ所のないものに支配されたマーケットだからではないかと考えることができる。また、囲い込みも難しい。携帯電話のように「2年間連続で使ってくれたら、値引きしますよ」というような施策が取れないからである。
であれば、別の方法を使って価格の低下を防がなければならない。「流行を作り出すことによって、陳腐かを防ぐ」という策が考えられる。しかし、調べてみると「何が流行を作っているのか」ということについてはこれといった情報が見つからない。次回は流行について考えたい。