ざっくり解説 時々深掘り

郵便局がカレンダーを政治利用した問題

共同通信が「郵便局のカレンダー政治利用問題」について書いていた。11月中に調査をまとめるのだそうだ。これを読んで「別にカレンダーくらいいいじゃないか」と思ったのだが、調べてみると意外と根が深い問題のようだ。「安倍政権の忘れ物」という気がする。安倍政権が中途半端に残した郵便局が組織的に政治運動をやっていたという問題だからである。加えて「選挙に勝つことが政治のすべてである」という幼稚な安倍政権時代の価値観が政治の末端には残っている。

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半官半民の現在の「郵便局」は安倍政権時代の残滓である。適切にマネジメントしていればよかったのだろうがかなり深刻な状態に陥っているようだ。

小泉政権は郵便局を利権集団だと名指しすることで自民党に向いていた金権政治の批判の矛先をそらした。いわゆる新自由主義路線を突き進むかに見えた自民党だったが、安倍政権になって徐々に軌道修正が図られる。結果的に郵便局は半官半民の中途半端な状態で温存されることとなり、自民党の有力な支持組織になった。

仮に郵便局が完全民営化されていれば単なる経費の使い込み問題で済んだのだろう。だが、国が中途半端に管理しているために政治問題化しかねない。この問題を掘り起こしたのは西日本新聞だったが政府に批判的な朝日新聞社がキャンペーンを引き継いだ形になっている。

検索で後から知る経緯はこういうものらしい。

西日本新聞が10月9日に「一線越えた」日本郵政グループに浮上した“政治とカネ”という記事を出し、総務省が調査を始めたことで独自】「経費で政治活動」日本郵便、内部調査実施へ 総務省は報告求めるという記事になった。露見したきっかけは「カレンダー配布のノルマがきつすぎる」という局長たちの不満だったようだ。購入されたカレンダーは400万部で費用は6億円である。そもそもなぜそんなに必死になるのかという気がする。

この西日本新聞のキャンペーンを朝日新聞が引き継いだ。10月19日には「我々が勝手にということか」 カレンダー配布問題、郵便局長ら反発という記事が出ていた。もともと無理矢理にやらせていたのにバレたら末端が勝手にやったということにしようとしたのだろう。会員制ネットに不満を書き込む人がいてそれをまた朝日新聞が取材するということになったようだ。さらに28日には朝日新聞が「独自」をつけて郵便局長の「カレンダー配布先リスト」入手 解説動画は鬼滅の刃風といっている。組織的でしたよということを念押しする格好だ。

露見した方法も格好悪いのだがそのあとのゴタゴタも極めて格好悪い。これが収まらなくなり増田社長が出てきて「調査して報告書を出します」ということになったのだろう。活動を禁止した上で11月までに報告書を出すという。ただ顧客情報を抜き出したのではとも疑われているようで「情報漏洩疑惑」にまで発展しそうだ。

小泉政権時代の特定郵便局潰しなどで政治の怖さを知っていた郵便局は政治的に団結していただろう。特に政権が変わって民主党が政権を取れば何をされるかわからないという恐怖心もあったのかもしれない。ここまでは政治に翻弄されたという気がする。

だが、記事を読むとこの団結力がやがて「自分たちは政権の有力な後ろ盾なのだ」という強烈な自意識を生むようになった。世間の無関心を背景にして強烈な危機意識の元に団結した組織が徐々に暴走するというのはよくあることで「ナットアイランド症候群」という名前までついている。

2019年の参議院議員選挙では60万票集めて柘植芳文氏(元全国郵便局長会会長)を当選させたのだから誇らしい気持ちになるのは当然だろう。

比例・全国区で郵便局の代表者に票が集まると「権力が誇示」できるようになる。こうして、勤務時間中に政治活動(とは言え選挙の支援者探し)をやる一方で土日も動員させられるということになった。つまり、ボスを当選させるために末端の局長たちは勤務時間とそうでない時間の区別が曖昧にさせられてしまったことになる。そんな人たちに支えられている組織で「講師の境目をはっきりさせた」現代的なマネージメントなどできるはずがない。

さらに経費利用がバレると今度は「あれは郵便局長が勝手にやっていたことだった」と言い逃れをしようとしている。おそらく局長会には自浄作用は期待できないのだろうと思う。周囲から隔絶された自分たちだけの環境を生きるうちに倫理観そのものがおかしくなってしまったのだ。

今回の選挙は選べる選択肢が少ない上にどっちが政権を取っても大して日本の未来が変わりそうには思えない。つまり選挙戦が全く盛り上がっているようには思えない。さらにカレンダーをもらったくらいで投票行動が変わることはないだろう。だがおそらく一部の「当事者たち」に取っては選挙活動は自分たちのアイデンティティをかけた大問題になっているのだろう。そのため「郵便局の経費に手をつけ顧客情報を使ったのでは」と疑われてもいる。期待できる成果に比べると露見した時に失うコストは甚大だ。この乖離が極めて滑稽だと思った。

一旦槍玉にあがり政治利用された挙句、中途半端に温存された郵便局のガバナンスは救いがたいところまで腐敗しているようだ。

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