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緊迫する台湾海峡情勢にお任せ民主主義の日本人は耐えられるのか?

これまで政治が「有権者の意見をできるだけ聞かない」方向に進化してきている様子を見てきた。岸田政権は失点が少ないうちに選挙をやりたがり、立憲民主党と共産党は有権者のいないところで連立を模索している。どちらも「できるだけ有権者」に考えさせず「全てがうまくいっている」と「全てがダメ」の二者択一を突きつけている。これが全く逆効果を生みそうな事例がある。これが台湾海峡問題だ。政策論争に慣れていない有権者は台湾情勢の緊迫化に耐えられないだろう。

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台湾海峡がかなりきな臭い動きを見せている。バイデン大統領が台湾で有事が起きたら台湾を防衛するのはアメリカの義務であると答えた。報道官は「これまでの中国戦略に変化はない」と打ち消すような報道をしたそうだ。最近、こうしたやりとりが定着している。これまでの曖昧戦略が通用しなくなり国内に向けて曖昧で矛盾した説明をするように変化しているのである。ある種の撤退といえ、バイデン大統領はこれらの矛盾を吸収できなくなりつつあることがわかる。

原因はトランプ前政権の揺さぶりである。

トランプ政権の流れを受けてアフガニスタン撤退を決めたバイデン大統領は「中国にシフトするためだ」と説明した。しかし撤退が稚拙だったため同盟国を中心に「アメリカが世界平和維持のコミットメントを止めようとしているのではないか」あるいは「その実力を失いつつあるのではないか」という懸念を持つようになった。

故に「極東の安全に強いコミットをし続ける」と言い続けることはバイデン政権にとっては唯一の正解になっている。実際の行動の裏打ちがなくても尖閣諸島を持ち出せば日本が無条件に喜ぶ。つまり何も起こらないという条件下では日米同盟は揺るがない。

戦争をゲームだと考えるのであれば日米同盟を崩すのは実は簡単である。何か起こしてやればいいのだ。こうして挑発合戦から始まった米中対立は新たなフェイズを迎えつつある。

日本人の多くは台湾海峡問題には大して関心がない。中国とは経済的に結びついているので大したことは起きないだろうと考えている。そして自民党の歴代の政権も「国民が関心を持たないなら自由に何でもできる」と感じてこれを利用してきた。国民は国から出てくる情報が黒塗りされていても大して怒らない。見なかったものには責任を取らなくても済むからである。「きっと誰かがうまくやっているだろう」と考えているからこそ口を挟まないのだ。

だが、いざ有事が起きたらどうなるだろうか。まず最初に試されるのがアメリカのコミットメントだ。曖昧戦略をとり続けるバイデン大統領の言葉が本当であったのかということが一発でわかる。

バイデン大統領はうまくやってくれると信じたいのだが、問題になるのは議会との関係だ。外向けの勇ましい態度とは裏腹にアメリカの議会情勢はかなり緊迫している。共和党とは睨み合っている上に民主党の中にも抵抗勢力が多い。アメリカを揺さぶるために中国が「ことを仕掛ける」動機が生まれている。アメリカ議会かアメリカの同盟国のどちらかが確実に動揺するだろう。

すると、在日米軍基地を抱える日本は確実に巻き込まれる。台湾に向かう航空機のうちの一部は確実に沖縄を使うことになるだろう。次に台湾近辺を航行する日本への石油タンカーなどが影響を受けるようになる。

ここから先の日本政府の対応はコロナ禍対応を見ているとだいたい予想ができる。短期収束すれば問題は水に流されてなかったことになるだろう。

問題はこれが一年以上続いた場合だ。

まず日本政府(といっても内閣だが)は場当たり的な官邸主導のアイディアが全体を混乱させる(安倍政権型)か皆のいうことを聞いていてなかなか決められない(岸田政権型)のどちらかに陥るはずだ。やがて混乱を収拾するために各省庁がバラバラに動き出す。各省庁は自分たちの権利を主張し持ち出しを最低限にしようとするだろう。

日本のコロナ対策で政府が主導的な役割が果たせなかったのは明らかに政府の機能不全による混乱が原因だが幸いなことに民間レベルでの防衛はしっかりしていた。国民はいち早くマスクをつけるようになり、ワクチン接種にも協力した。感染者数が増えると夜の街に繰り出すことも自粛した。

今の政府は(例え政権が変わっても)全体を包括するような方針が作れない。だが、どんな混乱に陥るかという点では政権の癖が出る。安倍政権は国民の歓心を買おうとしてバラマキに走り行政を混乱させた。管政権はここから「ワクチン一本足打法」に陥っていった。間違いを認める心の余裕がなく方針が切り替えられないからある。おそらく岸田政権は色々な人の意見を聞き方針をまとめられなくなるだろう。だからと言って野党連合政権がうまく対処できるとも思えない。おそらくバラバラなままで言い争いを始めることになるはずだ。

台湾情勢が短期収束すればいいのだが、例えば1年続いたとする。石油や食料がいつ入ってくるかわからず、政府は長期的方針が立てられない。これまで条件を提示された上で「どちらかを選んでくれ」というやり方に慣れていないのだからおそらく国民はかなり動揺することになるんだろうなと思う。

チャンスを求めて北朝鮮が動いたりすればさらに日本人は動揺する。

日本人の政治に対する無関心さは平時には脆弱な政府に対する安全装置として働く。適当にいうことを聞き流してしまうからである。バブル経済崩壊のように長期的には「どうせ政府は頼れない」と慣れてしまうのだろうが、時の政権にそれなりのダメージを与えることになるだろう。

バブル経済崩壊からの10年を見ていると政府も国民も社会が信頼できないという前提に慣れてしまい成長に結びつくような協力をしなくなった。極東情勢の変化も同じような作用をもたらすのかもしれない。

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