ざっくり解説 時々深掘り

既得権維持に奔走する日本医師会と小選挙区制度の弊害

既得権を守りたい日本医師会の中川会長が「幽霊病棟」という言葉に異議を申し立てた。彼が敏感に反応する話題というのはすなわち「彼らが守りたい既得権」ということなのだろうと思う。

日本医師会は兼ねてから医療機関を守るためには経済を犠牲にしろと訴えてきた。確かに彼らの言い分に従って人流抑制をすれば病院は守ることができる。だがおそらく飲食や旅行などの業界はかなりのダメージを受けることになる。自分たちを守るために他人を犠牲にしろと言っているわけだから、その応酬は「意思を犠牲にして飲食業を助けろ」というものになるだろぷ。結果的に議論を「AかBかどちらかしか助からない」という方向に誘導していることになる。

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おそらく医師会は手間がかかる割に儲けにつながらないコロナ患者を受け入れたくない。そもそも「手間がかかる」とは一体どういうことなのだろうか。日本の医療制度の歪みを感じさせる数字がある。それは100万人あたりの病床数と医師の数である。

日本の医療制度は病床・検査の数・処方した薬の量で報酬が決まることになっている。だから日本の病床数は世界一の規模なのだが医師の数はそれほどでもない。つまり、医師を揃えて丹念な診察をしてもそれほど儲からないという仕組みになっているのだ。

また医師会はライバルを減らしたい。つまり医師という既得権を守りつつ効率的に儲けることができる体制が医師会とっては良い体制なのだ。

新型コロナウィルス感染症は一人の患者に大勢の医師や看護婦を貼り付けなければならないので「割に合わない」。だから受け入れたくないというのが医師会の本音なのだろう。これが救急車待機や自宅待機につながっている。

だから「幽霊病床問題」はコロナ政策の反省をするためには避けては通れない本質であろう。

では日本医師会をバッシングすれば問題は解決するのだろうか?という問題が出てくる。問題はそれほど単純ではない。

財務省が病床数の削減を提案している。安倍政権・菅政権もこの方針に従って病床数の削減に努めてきた。安倍政権が2019年に「安倍首相 病院再編と過剰なベッド数の削減など指示」というニュースがあった。

財務省の提案には明確な統計学的根拠がある。医療費と病床数には強い相関関係があるのだ。つまり一人当たりの病床数が多い都道府県ほど医療費が高いのである。地域ごとに衛生状態が大きく異なるとは考えにくいのだから、無駄な病床ができるとその病床を埋めるために病気が作られていると見るべきなのだろう。

財務省の指摘はいろいろなところで引用され大まかな問題点はすでにわかっている。いわゆる医師会の既得権は「制度によって作られ」その精度を守りた医師会が現状維持を自民党に働きかけるという仕組みになっている。つまり医師会は既得権維持の装置の一つであって元凶ではない。だから医師会を無くしたり否定しても問題は解決しない。

ここまで整理してきたことでわかるように、全体的な病床の削減とコロナで病床が足りないという問題は同根だが別の話である。ところが野党は批判のための批判を繰り返しているうちにこの因果関係がわからなくなってしまったようだ。

社民党の福島瑞穂党首は次のように訴えている。

社民党は命と暮らしと人権を守る。何でコロナ禍の真っ最中で(病床)削減なのか。非正規雇用は4割、労働分配率は下がり、実質賃金は下がり続け、貯蓄ゼロの世帯が増えている。

病床数を削減する理由は医療費の効率的な活用のためなのだが、安倍・菅政権は医師会の既得権は侵したくない。結果的に儲かる病院が残され地域医療の拠点がなくなるというようなことが起きている。これに慌てた全国知事会が「とにかく病床を削減してくれるな」と悲鳴をあげ、おそらくは既得権に乗っている医師会が「知事会に全く賛成だ」と表明したというのが今回のニュースの背景であろう。背景が分析されていないので因果関係が曖昧になり、従って「無駄な病床削減」という目的が達成されないという状態になっている。

だから知事会や社民党が言うように「コロナで病院が足りないからベッドの削減をするな」と訴えても地域医療も復活しないしコロナに使える病床の数も増えない。

「一事が万事」なのだが、おそらく全ての政策議論が乱暴になるのは「すべてうまく行っている」と「すべてがことごとくダメだ」という議論しか行われないからだろう。我々の知らないところで政策と候補者が決められてしまい細かな論拠が提示されない。すると「全部を受け入れるか」「全部を否定するか」という議論に収斂してしまう。

こうした議論はとかく悪者探しに陥りがちだ。それに呼応して日本医師会も自分たちに矛先が向かわないようにとにかく必死で主張し続けるしかない。

我々は小選挙区で候補者A/Bを突きつけられ「全部を信任する」か「全部を否定するか」の二者択一を二週間弱でやりなさいと要請されている。こんな乱暴な選挙で「とにかく投票しなさい」と若者に強要するのは極めて無責任であると言えるだろう。

目前に迫った今回の選挙は仕方ないとしても、我々は「決めようがない選挙での投票を強要されているがそれ以外に選択肢がない」ということを正直に認めるべきではないかと思う。

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