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アメリカのビッグブラザーとPRISM

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CIAの元テクニカルアシスタント – エドワード・スノーデンが、イギリスの新聞社とのインタビューのために香港に滞在して問題になっている。アメリカが彼の身柄を引き渡して欲しいと要求しているのだが「政治犯」である可能性がある可能性があるからだ。香港はアメリカ政府との間に犯罪者引き渡しの協定があるそうなのだが、政治犯であれば亡命の対象になる可能性がある。特別行政区とはいえ、アメリカ人が中国に亡命するなどということは考えられなかったことだ。亡命者だということになれば、中国がアメリカ人の人権が侵害されていると主張する材料にもなりかねない。スノーデン氏自身はアイスランドへの亡命を希望しているというが、アイスランド政府は「来たら考える」と言っているようだ。
スノーデン氏の「罪」は秘密文書の漏洩だ。イギリスのガーディアンにPRISMと呼ばれる機密扱いのプログラムの情報をリークしたのである。このニュースを受けてアメリカやイギリスではちょっとした騒ぎが起きている。
名指しされた企業とアメリカの政府は、エドワード・スノーデンの主張は言いがかりだと言っている。企業の中には、Facebook、Skype、Google、Yahoo!などの有名なIT企業が含まれる。こうしたサーバーに直接アクセスして好きな情報を好きなだけ取ってくることができるというのだ。名指しされた企業とアメリカ政府はそのようなことはないと否定している。(CNET
この問題は日本ではほとんど話題になっていない。主に「IT分野」の問題だと考えられており、Twitterで一部触れられている他、ITメディアなどに翻訳記事が載っている程度だ。しかし、実際には民主主義の根幹に関わる問題を含んでいる。
100x100現在の資本主義と民主主義は「私有財産の保証」などを含む人権を擁護するという姿勢が基礎になって構築されている。プライバシー権も「政府に監視されない権利」という意味で人権の一部だと考えることができる。こうした民主主義の守護者の役割を自任しているのがアメリカ合衆国だ。アメリカはこの役割を前提にし、中国の人権状況に注文をつけたり「非民主的」だとアメリカが認定した国の政治に介入したりしてきた。日本もこうして作られた秩序の恩恵を受けている。
ところが、このニュースの意味する所は「アメリカ政府がアメリカの国民を監視している」ということだ。どうやら「監視している」という点は事実のようで、オバマ政権は「裁判所のコントロールのもとに合法的にやっている」と説明している。アメリカが民主主義の守護神であり、民主主義が絶対的な善であれば、その恩恵を受けている国民が国を裏切ることなどあり得ない。従って、国民を監視する必要などないはずである。しかし、実際のところテロリストの一部は「ホームメイド」と呼ばれるアメリカ国籍保持者である。
こうした監視ソフトは、例えば民主党の大統領が共和党の議員たちの活動を監視するのに使う事もできる。また「危険思想」を認定するのは権力者側だから、好きなようにテロ活動を認定することも可能になるだろう。確かに「取得した情報を限定的に使う」ことは可能だろうが、結果を見るのは人間であり、一度見た情報を都合よく忘れることなどできない。
さらに、エドワード・スノーデンのような存在も問題になる。彼はCIAに派遣されたコンサル会社の社員だったそうだ。日本のように終身雇用ではなく、契約体系も複雑なので、職員そのものがセキュリティホールになり得る。(この記事では本人がセキュリティホールだということを認めている。彼はインフラを管理する担当だったらしい)アメリカ政府は恒常的に財政難に直面しており、売名の為に解析した情報を売り渡す人が出てくる可能性もあるだろう。
アメリカではエドワード・スノーデンがヒーローなのか裏切り者なのかという点について議論が起きているようだ。
ちなみにこのニュースによく出てくる「ビックブラザー」はイギリスの作家、ジョージ・オーウェルの小説『1984年』(『一九八四年[新訳版] (ハヤカワepi文庫)』)に由来する。思想管理が徹底された全体主義的な国家が描かれていて、ビッグブラザーはその指導者であり、英語圏では「国民を監視する独裁者」という意味で広く流通する。
この小説ではテレスクリーンというデバイスが国民を監視しているのだが、現在のビッグブラザーたちは国民が自発的に記述した文章をコンピュータで分析して監視に使うという点が異なっている。