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若者にやさしいメディアが壊すオーストリアの政治

もし自民党新世代の代表とされるイケメン政治家(30代なので小泉進次郎さんなど)が公費で東スポやゲンダイに岸田総理の悪口を書かせていたとしたら日本ではどんな騒ぎになるだろう?と想像してみるとその生々しさがわかると思う。オーストリアで国民党・緑の党政権のクルツ首相が辞任した。2016年にミッタレーナー国民党党首の支持率が低いなどの報道をタブロイド紙に流させたという疑惑が持たれているそうだ。クルツ首相もタブロイド紙も疑惑を否定している。首相は辞任したが後継になった首相はクルツさんの傀儡と言われている。連立相手の緑の党は国民党とは距離を置く構えである。

2016年に「当時のミッタレーナー国民党党首の支持率が低い」などの報道を流させたという疑惑が持たれているそうだ。クルツ首相もタブロイド紙も疑惑を否定している。首相は辞任したが後継になった首相はクルツさんの傀儡と言われている。また連立相手の緑の党は国民党とは距離を置く構えである。ここでは東スポやゲンダイという名前を出したのだが実はこのタブロイド紙は日本の伝統的な大衆紙とは違っている。「若者にやさしい新しいメディア」なのである。

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正直「オーストリア」と言われてもピンとこない。人口900万人近くのドイツ語圏の国である。日本では文化大国として有名だが意外と人口規模は大きくない。オーストリア帝国が崩壊し領地のほとんどが独立した。結果的にドイツ語圏だけが領域として残り、戦後は中立を条件に再独立を許され、東西ヨーロッパの架け橋として機能してきた。

ドイツの下請けが多いそうだが経済は好調で国民生活は豊かだ。最近では女優の中谷美紀さんが帰国してテレビに出ていた。人々は助け合って暮らしており環境を大切にするよい国というイメージだった。帝国領域のほとんどが失われたため言語的に均質なドイツ語国家になった。これも政治的な安定に寄与してきたのだろう。

この東西の架け橋という地理的・政治的地位がオーストリアは政治問題化する。まずロシアとの近しい関係が度々問題になっていた。さらに2015年は東欧からドイツに抜ける移民の通路となった。

ドイツでは徹底的に排除されているナチスドイツがオーストリアにはそれなりに残党が残っていた。ナチス出身者が創始したとかナチスのライバルであると言われる自由党という政党が生きている。ハイダー党首のもとで勢いを取り戻し一時は連立政権のパートナーだった。ハプスブルグの王政復古を目指す勢力もいるという。

この国が再び混乱することになったのは2015年に移民の通り道になったからである。5年経った今でも難民が国内に定着したとは言い切れないようで国内が分断されてしまっている。2020年には難民二世によるテロも起きた。

移民に優しい政策を転換させて選挙に勝利したのが当時のクルツ外相だった。31歳だった。「難民が社会保障を食いつぶす」という恐れがあり社会民主党が失墜し難民排斥を訴える自由党が躍進した。国民党も単独では政権が取れず自由党と国民党は連立した。極右と組むのかという懸念はあったそうだ

この連立は2年で解消された。ロシアの新興勢力「オリガルヒ」と結びついた汚職の疑惑だった。この時も「大衆紙を支配して有利な報道をしてくれたら公共事業を受注させる」とほのめかしている隠し撮り映像が公開されたとされたが真相はよくわかっていない。「ハニートラップだったのかもしれない」などという噂話も飛び交っていたようだ。

自由党スキャンダルの後でクルツ首相は総選挙に打って出る。「圧勝」となったがやはり単独では過半数が取れない。そこで連立相手を180度転換させて緑の党と連立を組んだ。環境問題に関心が高まっているヨーロッパでも緑の党が政権入りしたところはほとんどない。当時は先進的な取り組みだと評価されたようである。

頭で政治を考えることの恐ろしさがわかる。一見すると大胆な方針転換は「政策ベースの素晴らしい協議」のように見えてしまうのだ。特にリベラルは喜んだに違いない。ドイツでさえ緑の党はまだ政権についていないからだ。

シノドスには国民党はこれまで対立関係にあった第4党の緑の党(得票率13.8%)との数ヶ月に及ぶ長い交渉を行い、300ページ以上の詳細にわたる具体的な政策がとりまとめられ、ようやく年明けに連立が決定する運びとなったと書かれている。つまり政策を実現するために違いを乗り越えて連立を組んだように見えてしまうのである。また女性閣僚が半数以上を占めオーストリア生まれでない難民出身者が法務大臣になったこともリベラルの勝利のように見える。

緑の党からしてみれば自分たちの政策を実現するために「賭けてもいい」連立だったようだが国民党からしてみれば政権にしがみつくための必死の連立相手探しだったことになる。つまり清潔なイメージが守られて政権さえ維持できればパートナーは自由党だろうが緑の党だろうが誰でも良かったのかもしれないのである。

オーストリアの政治の混乱を見ているとなぜか「タブロイド紙」の名前が出てくることが多い。今回問題となっている「オーストライヒ」は2006年に若年層向けに新規発行された大衆紙だそうである。ドイツ語のWikipediaの情報によると普通の新聞に比べて安くウィーンの駅などではダイジェスト版が無料で配られているそうだ。

オーストライヒはテレビ局も持っている。2020年に発生したウィーンのテロ事件では事実誤認の報道も多かったそうだ。このテロは北マケドニア出身の二重国籍者が市内のシナゴーグ付近で起こしたものだった。ISに参加しようとしたが失敗し有罪判決を受けていたという。ドイツ系にしてみれば「移民は危ない」ということになるのだろうし、難民(実行犯は実はオーストリア生まれだった)から見ると「世代を重ねても社会に受け入れてもらえなかった」ということになるのだろう。

こうした漠然とした不満や不安が新しいメディアによって拡大され政治状況を混乱させる。オーストリアはそういう状態に陥っているように見える。

日本では全国紙を転落しかけていた産経新聞がヤフーニュースで記事を無料公開していた。その後ヤフーコメントは無料で記事を読む人が政治を匿名で語るという文化が定着した。これが安倍・菅政権の自発的応援団となり結果的に安倍政権は長期政権化した。だが、変化を好まない日本人は結局「安倍政権の経済政策はうまくゆかなかった」として総括なきままにこれらの政策を見捨てつつある。お金を払って新聞を読む層の方が投票への参加率が高いからだろう。

「安いメディア」は民主主義参加の障壁を取り払い人々の政治参加を促す効果があると思いたくなるのだが、実際には政治言論を荒廃させ「気分や空気の政治支配」を促す効果もある。

なかなか頭で考えた通りには進まないものなのである。

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